イギリスでは急ピッチで新型コロナウイルスのワクチン接種計画が進行しており、接種開始から3カ月が経過した3月17日までに2500万人超、人口の約38%が接種を終えた。

計画は前倒し気味に進行中のようで、ロンドン市内に在住する日本人の私にも想定より早く2月末にワクチン接種の案内が届き、日本ではまだ承認手続き中のアストラゼネカのワクチンを接種した。接種を受けた際の状況とその後の体調変化などをまとめてみた。 

「あなたはワクチン接種に招待されました」スマホにメッセージ

イギリスでは全ての市民に原則無料で医療サービスを提供するNHS(国民保健サービス)という制度がとられている。このNHSが全国での新型コロナウイルスの検査や治療、そしてワクチン接種まで一元管理している。イギリスに在住資格のある外国人も加入が可能であり、ロンドン市内に暮らす私と妻にもスマートフォンを通じて「ワクチン接種にあなたは招待されました」とのメッセージが届いた。妻と相談し、2人でワクチンを受けることにした。

指定のサイトにアクセスして必要事項を入力し、2~3分程度で作業は完了。4日後に接種の予約が取れ、場所と時間が指定された。イギリスで承認されているワクチンはファイザーとアストラゼネカの2種類だが、どちらを接種されるのかは明記されていない。

NHSから筆者に届いたワクチン接種の通知
NHSから筆者に届いたワクチン接種の通知
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メッセージが届いたのは2月末だったが、当時政府はワクチン接種の対象年齢を「60歳以上」と指定していた。私と妻は50代前半のため、接種は当面先だと思っていたので驚いた。接種の年齢層は地域によって若干のばらつきが見られ、可能な場所では政府計画より先行して接種が行われている模様だ。 

接種会場は「園芸協会ホール」

接種会場「王立園芸協会ホール」 10人ほどが並んでいた
接種会場「王立園芸協会ホール」 10人ほどが並んでいた

ワクチン接種会場は当初、病院など全国60カ所だったが、2月中旬には2700カ所にまで増やされた。クリケット場や競馬場などの大型公共施設も活用されている。人や資材を集中投下し、1日で大量の接種を可能にする狙いだ。

私と妻は自宅から数百メートルの「王立園芸協会ホール」という公共施設で接種することになった。

予約時間は私が朝の9時30分、妻が10時20分だったが、現場の様子を見たかったので、9時10分ごろには到着した。誘導担当者に声をかけられ会場に入る。妻は予約まで1時間以上もあるが構わないのか、と確認したところ「問題ないです。入ってください」と言われる。受付は10カ所近くあり、身元確認はすぐに終わった。普段は何かと待たされることの多いイギリスのサービスだが、スムーズに作業が進んでいく事に驚いた。

接種ブースは12カ所 終了後には「王冠」ステッカー

ホールに入ると正面に12カ所の接種ブースが並んでいる。待合席に座ろうとした瞬間に呼ばれた。接種場所には、Tシャツ姿の接種担当者の女性とPCへの入力を担当する女性の2人がいた。

接種担当者が日本語で「コンニチハ」と声をかけてきた後、「アストラゼネカを注射します」と瓶を見せて説明。「新型コロナウイルスの症状はないか」「アレルギーはないか」「最近7日間で他のワクチンを接種したことはないか」「ワルファリン(抗血液凝固薬)もしくはアスピリンを飲んでいるか」と口頭で簡単な質問があった。

書類を使った説明や署名などはなく、すぐさま接種へ。接種自体は2秒程度で終了。私の場合は、針がちょっと触れたような感じで痛みはなく、「終わったんですか」と担当者に確認したほどだった。

その後、接種証明のカードと副反応などが記された説明書を受け取り、以上で終了。出口で「私は新型コロナウイルスのワクチンを受けました」と書かれた王冠マークの描かれたステッカーを渡され外に出た。

会場に着いてから後にするまで夫婦で15分程度。あっけなく全てが終わった。

接種後に配られる「ワクチン受けました」ステッカー
接種後に配られる「ワクチン受けました」ステッカー

「イギリスではワクチン接種が早急に進んでいる」という原稿を何回か書いてきたが、実際に自分が接種してみると、スピード感と規模感を肌身で感じた。誘導や受付から注射担当者までスタッフの数が十分に確保されており、何かを待つ必要がない。

このマンパワーの鍵になるのが、会場で大勢見かけた市民ボランティアである。2020年の3月時点で75万人がNHSにボランティア登録。このうち3万人をワクチン接種作業のボランティアにあてる計画だ。

ワクチン接種後の体調変化に関して

会場で渡されたアストラゼネカ作成の説明書を読むと「非常によくある副反応(10人に1人以上)」として、注射した箇所の痛みや腫れ、気分が良くない、疲れる、熱っぽい、頭痛、吐き気、関節痛、筋肉痛などが挙げられている。また、症状はマイルドであり数日で終わる、と記されている。

私にも上記のような症状が複数みられた。ただし、ワクチン接種との因果関係は不明であり、あくまでも主観的なものである。

私の場合は、接種数時間後に軽い吐き気と注射した左腕全体に重さが感じられた。吐き気はすぐにおさまった。夕食後には、注射した箇所周辺が痛み始め、太腿の付け根、肩などの筋肉に針で刺すような痛みを感じた。夜10時すぎには体全体がだるく感じ、早めに寝た。熱は平熱(36.2度)。

翌朝もだるさが抜けない。体温計では36.7度程度だが、もっと熱があるように感じた。解熱剤(パラセタモール)を一錠飲む。夕方までその状態だったが、夕食後、急にだるさが抜けた。体調が明らかに変わった感じがした。熱は35.8度まで下がっていた。それ以後は注射した場所の痛みが数日続いたが、他に変化はなかった。

接種から2週間が過ぎたが、「疲れやすいかな」と時折感じる以外は、特段の体調の変化は今のところ感じない。 

イギリス政府は、報告される多くの症状について「ワクチンに対する通常の免疫反応」とする一方で、深刻なアレルギーなどがある場合、ワクチンを接種しないようガイドラインを出している。

アストラゼネカによる副反応などの説明書
アストラゼネカによる副反応などの説明書

アストラゼネカのワクチンをめぐっては、接種後に血栓ができた例が複数報告され、フランスやドイツなどヨーロッパ各国で接種が一時中断されたが、EUの規制当局である欧州医薬品庁(EMA)は3月18日、「安全性を確認した」との見解を発表した。

イギリスではこの間も接種を継続しており、アストラゼネカでは接種した1700万人の調査を行った結果、「ワクチンが血栓のリスクを高めるとの証拠は見つからなかった」との声明を3月14日に発表している。

「欧州最悪」のコロナ禍を経て…77%が「ワクチン受ける 」

イギリスはロックダウンに入るのが他の欧州諸国より遅れ、政府は初期対応の失敗を批判された。死者数は欧州最悪のペースで増え、秋には変異ウイルスも出現。病院は第1波を超える入院患者であふれ、医療崩壊が現実味を帯びた。ワクチンの早期の大規模接種は差し迫った課題だった。2020年12月にはファイザーワクチンを承認し、G7内でいち早く接種に踏み切った。

接種開始にあたり、ジョンソン首相は「史上最大の計画が始まる」と宣言、軍隊も投入するなど国をあげて推進すると強調した。計画が進むにつれて、国民のワクチン接種への支持も高まり、インペリアル・カレッジ・ロンドン最新の調査では、77%がワクチンを受けると答えている。

感染件数や死者数は他の欧州諸国に比べて大きく減少しており、イギリスには安堵感が広がっている。また、アストラゼネカのワクチン開発を主導したオックスフォード大学のサラ・ギルバート教授らは、メディアでも大きく取り上げられ英雄的な存在でもある。

しかし、キングスカレッジのティム・スペクター教授らは「多くの人がワクチンを打ったら安心だと思って気を抜くが、引き続きソーシャル・ディスタンスを守ることが重要」と、接種後も感染防止対策を続けるよう呼びかける。接種後も十分な免疫を獲得するには少なくとも2週間かかるほか、無症状のまま他の人へウイルスをばらまく危険性もあると指摘。ワクチン効果を下げる可能性がある南ア型、ブラジル型の変異ウイルスへの対応も課題だ。

これまでのところワクチン計画が順調に進でんきたイギリスは、ロックダウンを段階的に緩和し経済再生へ動き出す構えだが、接種が遅れているEUとワクチンの輸出入をめぐり軋轢も生じている。

一つの国だけでワクチン計画がうまく進んだとしても、各国で感染が収束しなければ人や物の活発な往来は戻らない。世界規模でのワクチン接種の拡大に向け、国際的な協調が求められている。

【FNNロンドン支局長 立石修】

立石修
立石修

テレビ局に務める私たちは「視聴者」という言葉をよく使います。告白しますが僕はこの言葉が好きではありません。
視聴者という人間は存在しないからです。僭越ですが、読んでくれる、見てくれる人の心と知的好奇心のどこかを刺激する、そんなコンテンツ作りを目指します。
フジテレビ取材センター室長、フジテレビ系列「イット!」コーナーキャスター。
鹿児島県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
政治部、社会部などで記者を務めた後、報道番組制作にあたる。
その後、海外特派員として欧州に赴任。ロシアによるクリミア編入、ウクライナ戦争などを現地取材。