猛暑の影響は幅広く・・・

42.6℃。ことし7月25日、フランスの首都・パリの最高気温が72年ぶりに塗り替えられた。街に立っていても暑い。「日差しが突き刺さるように容赦なく降り注ぐ―」、「サウナの中にいるよう―」。どんな表現でも足りないような暑さだった。

熱波に襲われた影響は幅広く、パリとベルギー・ブリュッセルなどを結ぶ高速鉄道「タリス」は「正常な運行ができない恐れがある」として、25日に当日分とその翌日、26日分の切符の販売を取りやめた。また、フランス南部のゴルフェッシュ原発の原子炉2基は、冷却のために利用している川の水温が上がり、冷却水を川に戻すことで生態系を乱す恐れがあるとして、運転を停止した。さらに、晴れの日が続いたことから、水不足にも悩まされている。ひどいところでは、農業用の水の利用も制限されているほどだ。経済界にも影響が出た。地元メディアによると、フランスは6月末から8月まで商店は一斉にセールに入るが、パリの商店主のうち49%がこの暑さによって売り上げが落ちた答えたという。

ヨーロッパを猛暑が襲うのは、ことしに入って2度目のことだ。6月には、フランス国内で史上最高気温となる46℃という気温が、南部で観測されていた。これらの猛暑は、アフリカのサハラ周辺から流れ込んできた熱波が原因で、フランス気象局は温暖化の影響だとして、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑えるように呼び掛けている。

42.6℃を記録した日のパリ 猛暑をしのぐためミストに集まる人たち
42.6℃を記録した日のパリ 猛暑をしのぐためミストに集まる人たち
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エアコンがない!

この猛暑によって私が苦しめられたのは、暑さからの「逃げ場」がないということだ。日本であれば、家はもちろんコンビニエンスストアにカフェ、電車に乗ってもエアコンが完備されていて、気温が35℃を超えるような状況でも暑さから避難することができる。

しかし、フランスではそうはいかない。賃貸住宅では家具がついている物件も多いが、エアコンはほとんどついていない。地下鉄もエアコンがついている路線は限られていて、乗客が増えてくると蒸し風呂のような状態になる。話を聞いたフランス人男性は、「地下鉄の暑さに耐えられないから、歩くかレンタルの電動キックボードを利用するよ」と話すほどだった。

ここ数年は、パリでも最高気温30℃を超える日が多くなっていて、レストランや公共の場所では徐々にエアコンの整備が始まっているが、それでもまだまだ少ないというのが実情だ。

地下鉄は蒸し風呂のようになった
地下鉄は蒸し風呂のようになった

そもそもなぜエアコンが整備されていないのか

フランスでエアコンが整備されていない理由のまず1つ目は、環境への悪影響を恐れているからだ。フランスメディアでは、エアコンを利用するとそれだけ電気を消費することになり、結果、温室効果ガスの増加にもつながってしまうことが、猛暑の前後にも報じられた。また、パリの地下鉄を運営するパリ交通公団は、ホームページで、すべての路線でエアコンを導入しない理由として、やはりエネルギー消費を抑え、環境に負荷を与えないことを挙げている。

また、エアコンから排出される熱が気候変動を引き起こしているという面も、フランスでは注目されている。都市部で気温が上昇するヒートアイランド現象は、この排出熱が一因だと指摘されていて、日本でも気温上昇の大きな原因になっている。こうしたフランスの人たちの考え方は、日本人の私たちにとって耳が痛いところだ。

2つ目の理由は、そもそも夏でも平均気温は決して高くないということだ。気象庁によると、東京の去年8月の平均気温は26.4℃で、平均最高気温は32.5℃にも達していた。一方、パリの去年8月の平均気温はなんと19.7℃と20℃を下回り、平均最高気温も27.3℃と、東京に比べると過ごしやすいことがわかる。実際、パリでは夏でも朝晩は長そでが必要だと感じるほど涼しくなるし、日中でも湿度が低いので、汗もかきにくく、過ごしやすさを感じる。最高気温が35℃を超えるような日は、さすがに一日中暑いと感じるが、そういった日は夏の間でも数日だけなので、フランス人たちは高価なエアコンは必要ないと考えるようだ。

気象庁調べ
気象庁調べ

また、フランスの住宅の特性も暑さをしのぎやすくしている。石造りの建物は、熱を取り込みにくい。そのため、カーテンや雨戸を締め切ってしまえば、日光が入ってこず、室温はあまり上がらない。こうしたこともあって、パリ市内の電器店には、日本のような室外機を伴う家庭用のエアコンは販売されていなかった。今回の猛暑に備えようという人たちが購入していたのも扇風機や冷風機ばかりだった。

電器店にあったのは扇風機ばかり
電器店にあったのは扇風機ばかり

熱中症など健康問題も

日本の場合はすでに最高気温が30℃、時には35℃を超える日が多くなっていることを思えば、熱中症対策にエアコンは必要不可欠だといえる。エアコンを使わなければ、体調管理も難しい。実はこうした状況がフランスでも起こり始めている。

2003年には、フランス全土を熱波が襲い、8月に南部で40℃を記録。月半ばまで高い気温が続いた結果、熱中症などにより、およそ15000人が死亡するという事態に至った。そして2015年以降もフランスでは夏場の平均気温が高い年が続き、去年、ことしと連続して40℃を超える気温がフランス全土、そしてヨーロッパの広い範囲で観測されている。

ことし7月25日の猛暑でも、パリ郊外の体育館でサマーキャンプに参加していた子供たち13人が熱中症の症状を示し、うち6人が病院に搬送されるという事態が起きた。

確実に温暖化が進む中、気候変動を抑えるためにエネルギー消費を控え、温室効果ガスを減らすという、いわば根本的な対策はもちろん大切だろう。しかし、これだけ猛暑に見舞われることが増えている中では、「対症療法」とも言えるエアコンなどの空調の整備もしていかなければ、再び15年前のような惨事が起きてしまうのではないだろうか。フランスでは現在、8月に3度目の熱波が襲うのではないか、という不安の声が上がっている。7月ほど気温が上がらないことや、短期間で済むことを願っている。

地下鉄駅に貼られた熱中症対策を呼び掛けるポスター
地下鉄駅に貼られた熱中症対策を呼び掛けるポスター

【執筆:FNNパリ支局 藤田裕介】

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藤田裕介
藤田裕介

FNNパリ特派員。2007年関西テレビ入社。神戸支局、大阪司法担当、京都支局などを担当。