多くの中小企業が廃業を考える…

10月に迫った消費税増税。
注目を集めているのが、政府が増税後の消費の反動減対策として打ったポイント還元だ。中小の小売店などでキャッシュレス決済をすると、政府の補助金で最大5%還元される。
それを受けて、LINE PayやPayPayといったスマートフォンを使ったキャッシュレス決済事業者が様々なキャンペーンを打ち出し、利用者獲得競争が激化している。

こうしたスマホでのキャッシュレス決済を可能にさせている技術が、フィンテックだ。
フィンテック(FinTech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指す。
ビットコインをはじめとした仮想通貨の取引や、スマホでできる投資サービスなども含まれる。

そんなフィンテックが今、ある社会的問題を解決するツールとして注目を集め始めている。
それは、中小企業の事業承継問題
少子高齢化が進む中、特に中小企業では跡継ぎがいないケースが多く、そのまま廃業してしまうところが少なくない。
中小企業庁によると、2015年の時点で中小企業の経営者の年齢は66歳が最も多く、この20年間でおよそ20歳も高齢化が進行。
また、2016年のアンケート調査では、60歳以上の経営者のうち50%以上が廃業を予定していると回答した。
そのうち、「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」など、後継者探しが難航していることを廃業の理由に挙げた企業がおよそ3割を占めるなど、事業承継は深刻な社会問題となっている。

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承継問題を解決…フィンテックの新たな可能性

9月5日に東京都内で開催された、フィンテックの活用をテーマにした金融庁主催の国際イベント「フィンテック・サミット」。
遠藤金融庁長官は講演で、「事業承継といった、社会課題の効果的な解決につながる可能性も期待されている」と、フィンテックの新たな可能性について言及した。
参加者に配られた資料では、実際にフィンテックで事業承継を支援している企業が紹介されている。

そのうちのひとつが、都内にあるフィンテック企業「トランビ」。
事業承継の手段としてM&A(合併・買収)を活用し、売り手と買い手をオンライン上でマッチングさせるサービスを提供している。

「トランビが運営しているサイトでは、売り手は事業内容や売上高、売却希望価格などの情報を登録。そして買い手は、登録された国内外1000件以上の売り手の中から希望にあった事業を検索。マッチングすれば交渉、契約へと進んでいく
実際に、高齢のため体調を崩し、店をたたもうとした東京都内の印刷代行業者のオーナーや、引退を考えていた長野のリゾートホテル経営者などに、事業の買い手をマッチングさせ、事業承継を実現させた複数の実績がある

このようなフィンテック企業の動向は、金融庁が約120社のフィンテック関連企業に、最新の取り組みなどについてヒアリングする過程で浮かび上がってきた。
フィンテックと聞くと、とかくスマホ決済などに目がいきがちだが、社会問題をサポートするひとつの手段として可能性が示されたことは、今後 業界の垣根を越えた有効活用を推し進める上で大きな意味がある。
金融庁には、こうしたヒアリングなどによる“現場の声”を丁寧にくみ取る作業をさらに推し進め、新たなビジネスモデルを生み出す環境整備を行うことが求められる。

(フジテレビ報道局 経済部記者 日比野 朗)

日比野 朗
日比野 朗

フジテレビ報道局経済部デスク。自動車・商社・IT関連などの企業や財務省を担当後、現職。