社会問題として耳にする機会が増えたカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」。
10月からの法律改正で企業の対策が義務付けられるなど、企業側の防衛が急務となっている。
そんな中、日々の安全運行を守るために苦心しているタクシー会社を取材。実際の車内映像と取り組みから実態に迫る。
車内でエスカレートする乗客との衝突
タクシーの車内を撮影したドライブレコーダーの映像には、乗客が運転手に激しく詰め寄り、危害を加えようとする生々しい瞬間が記録されていた。目的地をめぐり、運転手と乗客の間で言い争いが発生している。
「この先ですよ」と冷静に告げる運転手に対し、乗客は「先じゃない、下がりよーる、下がりよーる」と一方的な思い込みで激高する。
「下がりやせんです。まだまだ先です」となだめる運転手の声は届かず、「下がりゆうやろーが、おい!」と怒鳴り声を響かせて威圧する。
話し合いでは解決できないと判断した運転手が、警察へ助けを求めようとハンドルから片手を離し、携帯電話で「桟橋5丁目ですけどね…」と連絡を入れ始める。
しかしその行動が、男の怒りにさらに油を注いだ。
「5丁目でないやろうがあほう。うそを言うな」
男の興奮はピークに達し、後部座席から前方の運転席へと凄まじい勢いで覆いかぶさるように身を乗り出す。
「違うやろうが!」という怒号とともに、運転手が必死に制止するのも構わず、手にした携帯電話を強引に叩き落そうと荒々しく腕を振り下ろす。
逃げ場のない狭い車内で、いつ暴行に発展してもおかしくない極限の恐怖がそこにあった。
脅迫まがいの「カスハラ」
約60台の車両を保有する高知市の土電ハイヤーでは、安全管理の一環として全車両にドライブレコーダーを設置し、車外だけでなく車内も常時録画を行っている。
カメラは別の乗客の男性のカスハラも克明に捉えていた。
運転手の走り方が気にくわなかったようで「あんた、タクシーの運転手やろ。何してんの?」と因縁をつける。
運転手が「すみません」と謝罪しても、乗客の怒りは収まらない。
「ちゃんと行けや、素人か。ちゃんと道覚えとけよ。しばくぞお前!ふざけんな!」と暴言を吐き、会社へ苦情を入れるために運転手へ無理やり詰め寄る。
乗客は「電話するき、言えや。番号言え、こらぁ。殺すぞ、ほんまに。ふざけんなよ」と脅迫まがいの言葉を浴びせ続けた。
タクシードライバーの苦悩
こうした厳しい現実に直面するベテラン運転手は、日々の乗務についてこう語る。
「夜のお酒を飲まれたお客さまとか、暴言を吐いたりとか、道順も近い所を走っているんですが『遠回りをするな』とか時々ありますね。『どこを走りゆうがな』とか『もっとこっちへ行け』とか言われます」
後部座席から運転席を蹴られるなどの被害についても「それはあります。(運転席を)蹴られたことはありますね」と実態を明かす。
こうした状況に対し、タクシー会社では乗客から暴言を受けた際、反論せずにまずは「分かりました」と受け止め、冷静に対応するよう徹底しているという。
土電ハイヤーの中谷穣社長は、「お客さまとの会話の中でそういったことがあった時には冷静に対応して、感情的にならないような心掛けを徹底しています」と力を込める。
また、乗客との電話のやり取りも正確に残せるよう通話の録音も実施している。
一方で、車を降りる際に腹を立ててドアを蹴ったり、サイドミラーを破壊したりする悪質なケースも存在し、犯罪行為が確認された場合には警察に被害届を提出する方針をとっている。
中谷社長は「今後トラブルにならないような工夫やコツは、それぞれのクレームによって変わるので、徹底して運転手へ話していきたい」と語る。
同社では対策として運転席を物理的に仕切る「アクリル防護板」の設置案も浮上していた。
しかし、ドライバーから「お客さまとのコミュニケーションが取りにくくなる」との反対意見が出たため、現時点では防護板の設置を見送っているという。
乗客との関係を大切にしながら安全を守るための模索が続いている。

