引退を迎える人気観光列車を、一枚でも美しく写真に収めたい―。そんな“撮り鉄”の思いが、鉄道の安全を脅かす行為につながっているのだろうか。
北海道のJR釧網線で、ラストラン列車の運行を前に、線路脇の樹木を無断で伐採し、通信ケーブルに接触させた疑いで23歳の男が逮捕された。
ラストランをめぐっては、鉄道ファンとみられる2人が線路内を走る危険な行為も目撃され、撮影マナーと安全意識が改めて問われている。
■ 撮影スポットで何が…鉄道用地内の樹木を切断
事件が起きたのは、北海道釧路町トリトウシのJR釧網線、遠矢駅と釧路湿原駅の間の区間。
警察によると、神奈川県相模原市に住む23歳のタクシー運転手の男が、9月30日午後1時ごろから午後2時30分ごろまでの間、鉄道用地内に自生する樹木を切断し、倒木を通信ケーブルに接触させた疑いで逮捕された。
男は調べに対し、チェーンソーで線路沿いの木を切り、ケーブルに引っ掛けながら倒したことを認めているという。
JR北海道によると現場付近では、通信設備に使われる木柱4本が連続して途中まで切られていたほか、線路周辺の約1キロにわたり複数の樹木が切断され、草木も抜かれていた。
通信設備の損傷は、列車の安全運行に影響を及ぼすおそれがある重大な問題だ。
現場は線路がまっすぐに伸びる見晴らしのよい区間で、列車を撮影する鉄道ファン、いわゆる「撮り鉄」の間では知られる撮影スポットとなっていた。
警察は”撮り鉄”による犯行とみて、樹木を切断した経緯や動機などを詳しく調べている。
■ ラストランに沸く沿線、線路内を走る2人
「くしろ湿原ノロッコ号」のラストランイベントをめぐっては、10月9日、標茶町のJR塘路駅付近でも、鉄道ファンとみられる2人による危険な行為が目撃された。
9日午前11時30分ごろ、大きな撮影機材を抱えた男性とみられる2人が線路内に侵入。北西方向へ線路上を走り、その後、姿が確認できなくなったという。
線路は列車が走るための場所であり、撮影者が自由に立ち入れる空間ではない。列車が近づいてからでは回避できない危険があり、乗務員や周囲の人々にも大きな負担を与えかねない。
2人は荷物や服装などから、車両の撮影を目的とする”撮り鉄”とみられている。
■ 「いい写真」のためなら何をしてもいいのか
鉄道写真を撮影すること自体に問題があるわけではない。沿線の風景と列車の姿を記録し、鉄道の魅力を広く伝える活動も、鉄道文化の一つだ。
一方で、撮影場所を確保するために樹木や設備を傷つけたり、立ち入りが禁止された線路内へ侵入したりする行為は、列車の安全運行を脅かしかねない。
列車の運行には、乗客だけでなく、乗務員や駅係員、保守作業に携わる人々の安全もかかっている。通信設備への被害や線路内への侵入は、列車の運行に支障をきたすだけでなく、重大な事故につながるおそれもある。
「自分だけなら大丈夫」「少しだけなら問題ない」―。そうした考えが、取り返しのつかない事態を招く可能性がある。
鉄道会社や地域住民の理解があってこそ成り立つ撮影活動。決められたルールを守り、周囲への迷惑を避け、安全な場所から撮影することが求められる。
問われているのは、写真の出来栄えだけではない。鉄道を撮影する一人ひとりの安全意識も問われている。
