高齢化による在宅医療の増加を受け、調剤薬局のあり方が変わりつつある。『病院の後に寄って、薬をもらう場所』から薬剤師が薬の飲み残しがないかなど、患者の自宅を訪問し、服用状況の確認などを行うサービス拠点としても重要性が増してきている。
外来向け薬剤師訪問サービス
福岡・須恵町の『さかなし薬局』。一見、普通の調剤薬局だが、サービスに特徴があると代表の坂梨健太さんは話す。
その特徴とは『外来患者向けの薬剤師訪問サービス』。薬剤師が依頼を受けて薬を飲んでいる人の元へ駆けつける訪問サービスのことだ。このサービスに医師の指示や手続きは必要ない。

「外来で普通に通われている方でも、薬の管理ができていない人はたくさんいる。私の場合は、医師の指示なども必要ないし、患者と話をして必要であれば自宅まで訪問するというサービスです」と坂梨さんは、薬剤師ならではのサービスだと説明する。

特に在宅で治療を受けている高齢者やその家族にとっては、非常に安心できるサービスだが、「患者はもちろん、医師や看護師、介護士も含めて薬局がこういうサービスができるというのをあまり知られていない」と坂梨さんは、認知度の低さを残念がる。

坂梨さんがこの訪問サービスを始めようと思ったきっかけは、管理薬剤師の才津敬一さんと一緒に働くようになったこと。

才津さんは、2年前まで大分県で訪問サービスを行っていた経験から「毎日決まった時間に、ずっと薬を飲むのは、結構、難しいと思う。飲めていると思い込んでいる人もいます」と実感している。

体の回復や症状を和らげるために飲むべき薬が飲めていない人などが多く、才津さんは、訪問サービスを推進してきたと話す。
“飲み残し”が減り会話で気分転換も
この日、才津さんの訪問サービスに同行した。才津さんが向かったのは、月に1度訪問している79歳の1人暮らしの女性宅。

訪問サービスを受けるようになるまで薬の飲み忘れが多かったという。「どうですか?体調、お変わりないですか?」才津さんは、女性に挨拶しながら部屋に入ると、真っ先に缶を開けた。「お!完璧じゃないですか!」と女性を褒める才津さん。

この缶は、薬の飲み残しを入れておく缶で、飲み忘れ分を入れている。

2つの病院に通っている女性は、飲み薬だけでも5種類処方されていることもあり、最初はタイミングを逃して飲み忘れることが多かったという。

そこで、才津さんは、“飲み忘れ防止策”として、2つの病院から処方された薬がどちらも『朝食後』だったので、1日分全部を1つの袋にまとめて入れておくことにした。

当初は、朝と夕方に飲む薬が分かれていたが、夕方分の薬が、朝飲んでも効果が変わらない薬であることに気づき、才津さんが全ての薬を1日1回、朝にまとめて飲むように変更。更に、日付を入れることで、飲み忘れはどんどん減っていったという。

訪問中、才津さんは薬以外のことも積極的に話をし、聞くようにしている。「日記を書いたほうがいいと言われて、ボケないかなと思って書いているけど、いろんなことを書きすぎて、何冊か溜まっているんだけど…」と女性が日記について話してきたので、才津さんは、すぐに「いいじゃないですか!たくさん書くことがあるのはいいことですよ」と女性が日記をつけていることを褒めて肯定する。日記は、薬の飲み忘れを防ぐだけでなく、記憶を整理するのにも役立っているからだ。

更に、訪問を受けることでコミュニケーションの時間が増え、気持ちを前向きにする効果も出ているようだ。「1人でポツンといて、することがたくさんあっても、したくてもできないことがたくさんあるので、他愛のないことでも話をしたら気持ちが明るくなります。本当に有難いです。感謝しています」と女性は才津さんの訪問を楽しみにしていた。

薬を必要とする人にとっては、飲み忘れを防げ、更に気持ちも盛り上げてくれる薬剤師の訪問サービスだが、なぜ広がらないのか?そこには、薬剤師業界の事情が関係していると坂梨さんは話す。「どうしても人員の問題や、訪問するとなると移動の時間などもあるので、そういった事情で取り組めていない薬局もたくさんある」。

人手不足や移動の負担などが壁となり、こうしたサービスを行うことができる薬局は、全国的にも珍しいという。
“在宅”増す中、薬剤師の役割とは
実際に、薬剤師が自宅を訪問する際の費用は、1割負担の場合、『さかなし薬局』が力を入れている『外来患者』の場合、185円と自己負担額が低いのが現状。(*外来服薬支援料1で185点)
しかし、2026年度から『かかりつけ薬剤師訪問加算』という制度も新設され、才津さんによると、「薬剤師が果たせる役割が少しずつ評価されていて、認知され始めている。もっと必要な患者さんにこの制度を知って利用してもらえれば」と話していた。
薬局側にとって負担が多いサービスだが、『さかなし薬局』代表の坂梨健太さんは「見過ごされてしまった人を絶対に見逃したくない。処方箋がなくても健康に関することなど相談に来てくれるような、そんな薬局にしていきたい」と坂梨さんは、今後も訪問サービスを続けていきたいとしている。
(テレビ西日本)

