2020年の東京オリンピックまで1年を切った。

そんな中でも、日本のお家芸である「柔道」はメダル獲得が期待されている競技だ。

この柔道のオリンピック代表を左右する運命の大会、「世界柔道」が9年ぶりに東京で開催される。舞台は東京オリンピックと同じ柔道の聖地・日本武道館だ。

8月18日放送の「ジャンクSPORTS」(フジテレビ系)では、世界柔道に出場する男子の精鋭5人が登場し、井上康生監督率いる日本男子柔道界の秘密を徹底解剖した。

「違う時代に生まれていたら…」

熱戦が期待される世界柔道の見どころを、バルセロナオリンピック金メダリスト・古賀稔彦さんは「66キロ、60キロの2階級にエントリーされている選手達は、誰を出しても世界で一番になれる選手が揃っている。この階級でどちらが優勝するのか、井上監督は非常に悩むところではないでしょうか」と話した。

オリンピックに出場できるのは各階級1人だけ。しかし、今回の世界柔道には60キロ級と66キロ級に2人の選手がエントリー。そのため、オリンピック代表の座である1枠を賭け、実力が拮抗する選手が激しい戦いを繰り広げている。

ひときわ熱い火花を散らすのが、60キロ級の2人。リオデジャネイロオリンピック銅メダリストの髙藤直寿選手と、2019年の全日本選抜柔道体重別選手権王者の永山竜樹選手。

(左から)髙藤直寿選手、永山竜樹選手
(左から)髙藤直寿選手、永山竜樹選手
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同じ東海大学出身で3学年差の2人。先輩・髙藤選手と後輩・永山選手はリオオリンピック後に4度対戦した。

1戦目の2016年グランドスラム東京・決勝では、髙藤選手にとってメダル獲得直後の大会となり、勢いそのまま勝つかに思われたが、永山選手に軍配が上がった。2戦目の2017年4月に行われた全日本体重別選手権・決勝でも、永山選手が勝利した。

2連敗で負けられない髙藤選手。そして、2017年12月のグランドスラム東京・準決勝では髙藤選手が勝利。そして、最後の対戦は2018年9月の世界柔道・準決勝。実力伯仲の両者は時間内に勝負が決まらず、先にポイントを取った方が勝ちとなる、ゴールデンスコア方式の延長戦に突入し、髙藤選手が技ありで勝利。そのまま世界柔道の連覇を達成した。

この熱い戦いに番組MCの浜田雅功さんが2人に「意識する?」と聞くと、髙藤選手は「しますね。先輩・後輩だったので仲が良かったんですけど、距離を感じます。本当に強いので倒さないといけないと思っています」と真剣な表情に。一方、永山選手は「乱取りとかお願いしてもやってくれなくなりました…」と明かした。

東京オリンピックを間近に感じ、勢いのある後輩を意識する髙藤選手は「そりゃ強いです。認めていますし、誰がなんと言おうと、僕が一番身をもって竜樹の強さを知っているので、そこは経験値で頑張りたいです」と意気込んだ。

篠原信一さん
篠原信一さん

世界柔道のリポーターを担当する松山三四六さんは「髙藤選手は常に進化するんです。(世界柔道では永山選手から)逃げ切るんじゃないかと。ただ、髙藤を倒すのは世界で永山しかいなくて、永山を倒すのは世界で髙藤しかいない状態。シビれますよね、違う時代に生まれていたら…」と熱弁。

さらに、ゲストの篠原信一さんも「ちょっとずれるだけで、日本は60キロ級、世界選手権とオリンピックで金・金・金となりますから。野村の後に髙藤、髙藤の後に永山だったらずっと金が続く。それくらいの選手です」と絶賛した。

堀川は“ヨイショの鬼”

ウルフ・アロン選手
ウルフ・アロン選手

2017年の世界王者で、2019年全日本チャンピオン、100キロ級のウルフ・アロン選手。

彼の強さの秘密は、大学の後輩でウルフ選手を支える、「付き人」の堀川拓哉さんの存在にある。この2人は普通では考えられない関係だという。

相撲の「付け人」は、身の回りの世話をする人との意味合いが強いが、柔道界の「付き人」は常にマンツーマンで練習相手を務めるパートナー的な役割。

堀川さんも元々は選手としてトップレベルの実力で全国大会の常連。篠原さんのシドニーオリンピック時の付き人が、アテネオリンピックで金メダルを獲得した鈴木桂治さんであるように、付き人の存在が選手の成績を左右すると言っても過言ではないほど、重要な存在なのだ。

練習以外でも堀川さんはウルフ選手と行動を共にし、公私にわたって支えているが、付き人としてのポテンシャルは、「堀川は“ヨイショの鬼”。彼にとってはベストパートナーなんじゃないですかね」と、井上監督も絶賛している。

例えば、試合前の練習でウルフ選手に堀川さんが投げられまくると、終わった後に少し離れた位置から、ウルフ選手にギリギリ聞こえる声で「マジ、強い」とこぼし、ダメ押しで「先輩が一番練習しているから、絶対大丈夫」と背中を押し、気持ちを乗せる。

その気遣いは練習の時だけではなく、2017年ハンガリー・ブダペストで行われた世界柔道の時、宿舎だったホテルで2人は同じ部屋に泊まることになるが、試合前日のウルフ選手は闘争モードになり神経が過敏に。少しの物音も気になって眠れなくなってしまうことに気づいた堀川さん。

すると、ウルフ選手が快適に眠れるように、自分の気配を消すため、バスタブで一夜を明かしたという。堀川さんのおかげで十分に睡眠を取ることができたウルフ選手は、見事世界チャンピオンに輝いたのだ。

髙藤直寿選手
髙藤直寿選手

一方、髙藤選手の付き人は、先輩が付き人という他の人とは少し違うケースだという。

髙藤選手の付き人である、伊丹直喜さんは1学年上の先輩で、後輩が付き人になることが多い柔道界では珍しい存在。

2人の出会いは小学校の時の柔道クラブ。幼い頃から切磋琢磨してきた2人だが、2011年に伊丹さんに転機が訪れた。

当時、高校3年生だった髙藤選手が出場した講道館杯。並み居る強豪シニア選手に混ざり、見事、髙藤選手が準優勝した姿を見た伊丹さんは「同階級の同年代の勝ちを喜べるのはどうなのだろう…というのが日に日に湧いてきた」とし、全国大会に出場するほどの実力だったが、大学3年生の大会を最後に髙藤選手の付き人となった。

伊丹さんの支えの元、髙藤選手は20歳にして世界柔道を制覇するなど、日本柔道界の中心選手に成長。そんな2人にとって忘れられない大会が、2016年のリオデジャネイロオリンピック。

髙藤選手は金メダル候補だったが、準々決勝で負け、銅メダルに終わってしまう。メダル獲得後の取材を終え、2人でトイレへ向かうと、髙藤選手は突然、四つん這いになり泣きながら、伊丹さんに謝罪したという。

髙藤選手の予想外の行動に驚き、金メダルへの思いも理解していたからこそ、その時の伊丹さんは背中をさするのが精一杯で、自身の無力さも感じたという。

そんな思いを抱えたまま、伊丹さんがホテルへ戻った夜、携帯電話に髙藤選手から「4年後、またこの舞台に必ず帰ってきましょう」というメッセージが届いた。「リオは僕としては集大成のつもりで臨んでいました。自分でも相当悔しかったので、絶対悔しいはずの直寿が強がりだとしても、前向きな言葉を、何の言葉も掛けられなかった自分に対してくれたので、やるしかないと思いました」と話す。

永山竜樹選手
永山竜樹選手

スタジオでは、髙藤選手と伊丹さんの強い絆を見た永山選手に浜田さんが感想を求めると「すごく良い関係だなと思うので、羨ましいです。でも、最終的には自分が勝ちます」と宣言した。

“天才”阿部一二三にライバル登場

藤原崇太郎選手
藤原崇太郎選手

2018年、パリで開かれたグランドスラムで並み居る強豪を倒し、初の国際大会で優勝を決めた、若手実力派の藤原崇太郎選手。

藤原選手が戦う81キロ級は、国内外の猛者が集まる激戦区。そこでしのぎを削る藤原選手の体は、まさに鋼の肉体。

当然、その体を作り上げるために食べる量もすごく、藤原選手のインスタグラムにはデカ盛り料理がたくさんアップされている。

そんな藤原選手の伝説は「マクドナルド30個を完食した」こと。「大学の友達にハンバーガーだったら無限に食べられると言ったら、『今から30個買ってくるから、食べきったら俺のおごり』と言われて、ハンバーガー10個、チーズバーガー10個、チキンクリスプ10個を食べきりました」と明かし、浜田さんも「すごいな!」と驚きを見せた。

向翔一郎選手
向翔一郎選手

超低空で放つ背負い投げが必殺技の柔道界の異端児・向翔一郎選手。

2109年4月の体重別選手権では、悲願の個人初代表を決め、思わず男泣き。実力もさることながら、一方で練習にキックボクシングを取り入れるなど、柔道界で異彩を放つ個性派キャラとして知られている。

そんな向選手の伝説は「こだわりすぎるヘアスタイル」。大切な試合の前には、必ず勝負ヘアにするという向選手だが、普通の髪形では飽き足らず、EXILEのATSUSHI風に切り込みを入れた髪形にもチャレンジ。髪形を変えるたびに、柔道選手を感じさせないオシャレな画像をインスタグラムにもアップしている。

中でも、「コーンロウ」は周囲がドン引きするほどだったといい、攻めの髪形で柔道界に波紋を起こし続けている。

こうしたこだわりのヘアスタイルに浜田さんは「監督に何も言われないの?」と疑問を持つと、向選手は「言われるには言われますけど、悪いと思ってこれをやっているわけじゃないので…」と話し、篠原さんも「井上監督は基本的にどんな髪形でもいいんです。ただ、結果を残しなさいよと毎回言っていました」とフォロー。しかし、髙藤選手が「これをやるほど、まだ勝っていないと思います」と苦笑した。

 
 

そして、オリンピック代表の座である1枠を争うもう一つの階級が66キロ級。

中でも“天才”と称される阿部一二三選手は、得意技の「袖釣込腰」を武器に、2017年、18年の世界柔道を連覇。日本柔道界に彗星のごとく現れた天才は、東京オリンピックで金メダル確実と言われていたが、そこに一人のライバルが現れた。

それが、4歳年上の苦労人・丸山城志郎選手。

2019年4月に行われた体重別選手権の決勝で2人は対戦。延長戦に突入し、場外までもつれ込むほどの死力を尽くした戦いは、延長9分、試合開始から13分が経過した時、一瞬の隙を突いて繰り出した丸山選手の巴投げが技ありの判定で勝利した。

この戦いについて松山さんは「実は2014年から世界柔道連盟(IJF)がIJFTVといって、同時ネット配信で、世界中パソコンのある柔道家だったら生で見られるようになったんです。衝撃的なデビューを果たした阿部選手は、その日のうちに丸裸です。研究され尽くしているから苦労しているんです」と明かした。

8月25日(日)から始まる「世界柔道」。優勝すれば東京オリンピック代表に大きく近づく運命の大会から目が離せない。

『ジャンクSPORTS』毎週日曜日夜7:00~8:00放送