「(台風)接近とともに世界が変わる」 呼びかけの“言葉”から読み解く気象庁の危機感

台風15号はどう国民に伝えられたのか

カテゴリ:国内

  • 気象庁が緊急記者会見を行う基準とは
  • 台風15号接近を伝えるタイミングの難しさを検証
  • 気象庁が発信する、危機感を伝える“言葉”の変化

台風15号は9月8日(日)深夜から9日(月)朝にかけて首都圏を駆け抜け各地に大きな被害をもたらした。週明け月曜日の交通機関は大きく乱れ、台風に対する首都圏の脆弱性が改めて浮き彫りになった。

気象庁は台風15号が接近する9月8日(日)の午前11時から緊急記者会見を行い、首都圏に上陸する恐れのある台風に最大限の警戒を呼びかけたが、気象庁の緊急会見が示す危機感とはどれくらいのものなのか。

9月8日に緊急記者会見を行った気象庁

気象庁が緊急記者会見を行う基準は基本的に以下のように定められている。
① 地震:国内最大震度5弱以上発生(遠地地震M7.9以上発生)
② 津波:大津波警報・津波警報・津波注意報発表
③ 火山:噴火警報(噴火警戒レベル3相当以上)発表
④ 南海トラフ地震:南海トラフ地震臨時情報発表など
⑤ 気象:特別警報発表
※上記基準に関わらず記者クラブからの要請があれば緊急記者会見を行う。

台風接近に伴う緊急記者会見は、どんな場合に行われるのか

実はすべての台風について緊急記者会見が行われるわけではなく、気象庁予報部は社会への影響の大きさによって判断していて、首都圏や広い範囲で顕著な災害が予想されるような台風が接近する場合という目安を設けている。
具体的には非常に強い台風の上陸や、強い台風の接近・上陸によって広範囲に記録的な大雨、暴風、高潮の被害が予想される場合、首都圏で広域な交通障害などが発生するような台風を想定している。

今回の台風15号に関して緊急記者会見が開かれるまでを取材をもとに振り返ってみる。
気象庁は9月5日(木)午後3時の実況で熱帯低気圧から台風に変わったと発表、その後の進路予想と勢力については、台風が日本近海に広がる30度以上の海水面温度の高い海域からエネルギーを吸い上げて勢力を強めるのか、一方で上空にある空気が乾燥している領域を通過することで逆に減衰するのか、不確定要素が多いとして慎重に判断していた。

9月6日午後3時に発表された台風15号の進路予想

6日(金)の取材ではコンパクトな台風なので接近とともに急激に強まる雨と風に警戒するよう呼びかけていたが、進路は東寄りを進み房総半島をかすめる程度で、東海や関東への上陸の可能性はむしろ低い予想となっていた。7日(土)になると台風は発達傾向で、進路はやや西寄りに変わり首都圏を通過する可能性が出てきたが、緊急記者会見を開くような状況ではないということだった。

7日に発表された進路予想図

しかし8日(日)朝の予報で状況は一変した。台風15号は70%の確率で幅を持たせた予報円のどのルートを通っても首都圏を直撃する進路に絞られたのだ。

8日午前11時に発表された予想進路

この予報を受けて気象庁は午前11時から緊急記者会見を行い、「強い勢力を維持して静岡県から関東地方に上陸する見込みで、首都圏を含め記録的な暴風の恐れ」があると最大限の警戒を呼び掛けたのだ。

社会的影響の大きい台風などの予報に関して、気象庁はいたずらに危機感をあおることを避け慎重に確度の高い予報を心掛けている。逆に言えば気象庁が緊急記者会見という手段をとった場合はかなり危険な状況を予測しているといってよい。
この日の緊急記者会見は、明るいうちに台風への備えができるギリギリのタイミングだったと言える。この会見を受けて鉄道など交通機関は台風の接近に備えて計画運休などの対策をとることになった。

ここ数年の気象庁の緊急記者会見の回数を見ると、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が噴火した2014年度や熊本地震が発生した2016年度は会見数が多くなっていることがわかる。
「災」の年となった2018年は35回で、2012年度から2018年度の平均約32回を上回っている。2019年度これまで11回の開催は平均と比べて特に多くはない。

気象庁が発信する言葉の変化

気象庁が緊急記者会見で呼びかける“言葉”にも最近大きな変化を感じる。
2018年7月23日、記録的な暑さについて開いた異例の緊急記者会見では、この年の流行語にも選ばれた「災害級の暑さ」という言葉を使って熱中症で命を落とす危険を伝えたことは記憶に新しい。

難しい専門用語を避け、危機感を正しくわかりやすく伝えるために、気象庁予報部が行う緊急記者会見では、今年度から冒頭でなぜ会見を開くのかを明らかにするようにしている。
8日の会見を担当した予報官は冒頭で「台風の直撃を受ける地域では時間は短いが、たいへんな大荒れとなる恐れがある。日中に暴風への備え、災害から身を守る行動を早め早めにとっていただきたく会見の場を設けた」と発言している。

本来は気象庁に避難を呼びかける法律上の権限は無いのだが、自治体から発令される避難準備、避難勧告、避難指示などの避難情報の根拠となる防災気象情報の発表や会見の場でも、早期避難、安全確保の手助けとなるよう「早めの備えと避難の呼びかけ」は気象庁として積極的に行う姿勢を長官会見でも表明している。
そのため会見で国民に切迫した危機感を伝える「呼びかけの文言」も、ありきたりの言葉から、聞く人の耳に留まるような言葉を選ぶような変化がみられている。

会見に立つ予報官は、災害を我が事と捉えて早めの行動を起こすよう「自分の命、大切な人の命を守るために」とカメラに向かって訴えかけるようになった。

「接近とともに世界が変わる」

強風による倒木で道路は通行不可能に

今回の会見で予報官は、これまで経験したことのないような台風が首都圏を襲うことについていたずらに煽るのではなく、過去に関東に上陸した台風の規模ときちんと数字を比べたうえで「関東を直撃する台風としては、これまでで最強クラスといっていい。記録的な暴風となる恐れがあるので、風が強まる前に、早め早めの避難や安全確保を」と警戒を呼びかけた。

さらに比較的コンパクトな台風で接近すると急に雨風が強まることを、これまでの予報官は使わなかった言葉で伝えた。
「今晴れているということで安心している人も多いかもしれないが、夜になって接近とともに世界が変わる
「接近とともに世界が変わる」という印象的な言葉は耳に留まり心に響いたに違いない。

そのうえで取るべき行動については「猛烈な雨風に備え明るいうちに、ベランダの飛びそうなものをしまっておく、雨戸を閉めるなどしてほしい」と非常に具体的に呼びかけた。

気象庁が本当に危ない時に行う緊急記者会見で伝えたいこと、それは切迫する重大な危機に対する早めの備えと早期避難を含めた安全確保の行動に他ならない。

【執筆:フジテレビ 社会部 気象庁防災担当記者 長坂哲夫】

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