超えられなかったオランダの壁。女子W杯ベスト16のなでしこジャパンが手にしたものとは

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019

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FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

届かなかったベスト8

フランス女子W杯で、なでしこジャパンはラウンド16でオランダに敗れ、大会を去ることとなった。

前半17分に、オランダのCKで、ニアに走り込んだFWリーケ・マルテンスに合わされ失点。
苦しい展開の中、43分にはゴール前で見事な連係からMF長谷川唯のゴールで1点を返した。

後半は一進一退の展開が続いたが、オランダは残り30分あたりから足が止まり始め、日本がチャンスを多く作った。だが、前半にはFW菅澤優衣香のシュートがポストに、78分のMF杉田妃和のシュートがクロスバーに嫌われ、80分のFW籾木結花のシュートは相手GKの好セーブに阻まれた。数あるチャンスを仕留めることはできず、87分にペナルティエリア内でDF熊谷紗希がハンドを取られてPKを献上し、これを決められて1-2。

DF鮫島彩が「運動量は日本の強み」と語っていたように、同点のまま試合が推移すれば、後半のように日本に流れが来ることは予想がついた。延長戦に突入していたら結果は違っていたかもしれない。

「ファーストチャンスで決めきることができなかったことが一番悔しいです。最後の局面で、国内リーグなら決まったと思える場面で決まらないのが世界との差だと感じました」

そう振り返ったのは籾木だ。72分からピッチに立つと、4本のラストパスを記録し、自身も決定的なシュートを放った。出場時間20分未満のラストパス本数は2011年以降のW杯で最多だったという。

それでも、ゴールは遠かった。

高倉ジャパンのW杯初挑戦はベスト16で幕を閉じた

観客を魅了した日本のスタイル

23名中17名がW杯初出場の日本に対し、欧州王者にも輝いた実績のあるオランダ優位との見方は強かった。その下馬評を覆す結果にはならなかったが、なでしこらしさがしっかりと発揮された試合だった。

高さやパワー、スピードなど、フィジカルで優位に立つ相手に対して丁寧にパスをつなぎ、全員が連動して相手を崩していく。なでしこジャパンのスタイルは、グループステージのアルゼンチン(△0-0)、スコットランド(○2-1)、イングランド(●0-2)、そしてオランダ(●1-2)と戦ってきた中で1試合ごとに発揮されるようになり、このオランダ戦ではたしかな輝きを放った。

この試合には21,076人もの観客が詰めかけた。オランダサポーターは熱狂的な応援で盛り上げたが、オランダから購入されたチケットは2,000枚だったという。つまり、最も多かったのが地元・フランスの人々をはじめとする、「中立」の立場の観客だった。試合の流れに関係なくスタンドでウェーブを作って盛り上げていたが、良いプレーにははっきりと拍手を送り、つまらないミスには落胆を隠さなかった。

試合が進むにつれ、多くの観客は日本のサッカーに心を動かされたようだった。オランダのプレッシャーに対して、自陣ゴール前でも数的優位を作ってボールを丁寧につないだ場面や、日本の選手が3人目の動きで抜け出してチャンスを作り出すたびに、スタンドから口笛と歓声が起こった。

後半の主導権を握れなかったことについて、オランダのサリーナ・ヴィーフマン監督は、「ボールに対するプレッシャーや、日本の素晴らしい攻撃に苦戦しました。私たちができが悪かったとは思いません。日本が優れていました」と冷静に語った。

終盤にレフェリーがペナルティスポットを指した瞬間、一瞬の間をおいて、スタンドに盛大なブーイングが鳴り響いた。それは熊谷のファウルに対してではなく、ハンドのジャッジに対する疑問符だった。結果的に明暗を分けたこの判定について、今大会で導入されたVARの結果、判定は覆らなかった。だが、熊谷の肩付近に当たっていることから、疑問の残る判定であったことや、「酷な結果だった」と、海外メディアやフランスの討論番組でも伝えていた。

試合後、オランダのキーマンで、熊谷のリヨンのチームメートであるFWシャニセ・ファンデサンデンが、号泣する熊谷を力強く抱きしめ、慰めていた。試合中のプレーやピッチ上での立ち居振る舞いも含めて、敵ながら敬意を表したい選手だった。

大会を通じて見えた課題と収穫とは

W杯で、勝者は1ヶ国だけだ。他の23チームは敗者になる。だからこそ、問われるのは「大会の去り方」だ。

なでしこジャパンの去り方は美しかった。だが、勝者になるためには足りないものも多かった。

一番の課題は、決定力だろう。90分間を通じて、両国はともに12本のシュートを打った。オランダのシュートは全て枠を捉えていたが、日本は7本が枠外だった。イングランド戦でも、決定機を一つでもものにできていたら結果は違っていたかもしれない。

守備面ではやはり、17分のセットプレーの失点が悔やまれる。相手キープレーヤーのマルテンスを完全にフリーにしてしまった。

高倉ジャパンは先制点を奪われた試合で逆転したことがない。その傾向は欧州勢に対して特に顕著で、失点はセットプレーや攻撃時のミスに起因していることが多く、高倉監督は「試合の流れを読んだ状況判断の重要性」を強調してきた。流れの中での失点は減ったが、セットプレーではフィジカル面の差があからさまに出てしまう。

試合後、選手たちの表情には、この3年間で初めて見るような悔しさが刻まれていた。

大会を通じて、若いチームを引っ張ったDF熊谷紗希とDF鮫島彩の存在はやはり大きかった。一方、国際舞台で戦えることを示した若い選手たちは、今後の日本女子サッカーの未来を照らす。

三浦は今大会でインパクトを残した選手の一人だった

個人的に、今大会でもっとも成長を感じたのがMF三浦成美だった。156cmの小柄な体に強い気持ちを秘め、クレバーなプレーで日本の攻守をスムーズにし、積極的にボールを受けて前を向くプレーに勇気付けられた。その陰には、ケガの回復に努めながら、今大会で1試合もピッチに立つことができなかったMF阪口夢穂の存在があった。

「夢穂さんが毎試合アドバイスをくれていたので、一緒にプレーできるところまで(勝って)繋げたかったです。強くなってこの借りを返したいし、4年後のW杯で結果を出したいです」(三浦)

同じく若手では、4試合にフル出場して好プレーを見せたGK山下杏也加やDF清水梨紗、オランダ戦で起死回生のゴールを決めた長谷川、三浦とともにボランチで攻守を牽引した杉田、第2戦で日本の初ゴールをアシストしたFW遠藤純。イングランド戦で屈強なディフェンダー相手にチャンスを作ったFW小林里歌子、熊谷とともにセンターバックとして最終ラインで光るプレーを見せたDF市瀬菜々、アルゼンチン戦でセンターバックに入り無失点に抑えた南萌華。そして、この試合で流れを変えた籾木も、それぞれ初のW杯の舞台で、世界で戦うことの厳しさを感じながら自身の価値を示した。

試合前にはオランダサポーターがスタジアムまで盛大な行進を行い、試合に華を添えていた

東京五輪に向けて

なでしこジャパンが次の目標とするのは、来年の東京五輪だ。

「チームとして乗り越えなければいけないことをW杯で経験できたことは、来年(東京五輪)に繋げていけると思います」

W杯優勝経験を持つ鮫島は、悔しい経験の中で得られたものについてそう話した。

今大会で出揃ったベスト8のうち、7カ国を欧州勢が占めている。国内リーグや代表の強化に力を入れる欧州各国の方針が実り始めた結果だろう。

日本も、再び世界の頂点を目指す上では、国内リーグの強化と整備が急務だ。今井純子女子委員長は、「サッカーの方向性は間違っていない」ことを強調した上で、試合ごとのプロセスを検証することを明かした。

「今まで以上に球際や勝負にこだわって、リーグ自体のレベルを上げないと世界で通用しないことがわかりました。リーグから、世界で通用できる選手に成長していきたいと思います」

三浦の言葉には力強い響きがあった。今大会を経験した選手たちが国内リーグでどのようなプレーを見せてくれるのか、期待している。

国内リーグは現在リーグカップが行われており、リーグ再開は8月末の予定だ。


(文・写真:松原渓)

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