FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集
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舞台はノックアウトステージへ

フランスで行われている女子W杯は、22日から決勝トーナメントに突入した。

なでしこジャパンは、ベスト8進出をかけて、25日の夜9:00(日本時間26日早朝4:00)にオランダとの一戦を迎える。

日本はグループステージでアルゼンチン(△0-0)、スコットランド(○2-1)、イングランド(●0-2)に1勝1分1敗のグループ2位で勝ち上がった。

日本は過去2大会連続で決勝に進出してきたが、今大会は高倉麻子監督の下で世代交代後、初のW杯。23名中W杯経験者はわずか6名で、平均年齢(選出時)は出場国中2番目に若く、立場はチャレンジャーだ。まず、グループステージ突破という第一ノルマを突破できたことは大きい。

若い選手たちの奮起に期待がかかる
若い選手たちの奮起に期待がかかる

だが、日本にとってここまでの戦いは想像以上に厳しかった。

その要因の一つがケガ人の多さだ。FW岩渕真奈やFW小林里歌子がケガから復帰した一方、負傷明けのMF阪口夢穂に加え、主力のMF籾木結花やDF宇津木瑠美らも別メニューが続き、未だにピッチに立っていない。交代も含めて選択肢が限られた中、3試合を戦ってきた。

「このチームはまだ(本来持っている)引き出しを開けていないと思います。選手の良さを出させてあげたいですし、勝ってあと3つ、(決勝まで)試合をぜひやりたいです」

高倉麻子監督はここまでの試合を振り返り、熱い口調で語った。

それでも、日本が置かれている状況は悪くない。トーナメントを見ると、FIFAランク上位4ヶ国のうちアメリカ、フランス、イングランドの3カ国が逆の山に。2位のドイツも準決勝までは当たらず、優勝から逆算すれば理想的な山に入った。

また、このタイミングで中5日の休みを取れたことは良かった(1位の場合は中3日だった)。 敗戦からしっかりと気持ちを切り替えてオランダ戦に臨むことができる。他の国の試合を見ておくことができたのもアドバンテージだろう。今大会はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が試合の流れや結果に大きく影響しており、アディショナルタイムがとにかく長い。その上で、延長やPK戦突入もあり得る。

「ゲームの入り、流れ、締め方も含めて臨機応変にゲームを読み、変化させる力が試されます。そうしたことを選手に話し、確認したうえで選手自身がゲームをコントロールできたらいいと思います」(高倉監督)

オランダは、FIFAランク8位。同7位の日本よりも下だが、近年力をつけており、自国開催だった2017年の女子ユーロで初の欧州王者に輝いた。今大会はグループステージでニュージーランド(○1-0)、カメルーン(○3-1)、カナダ(○2-1)と同居するグループEを3連勝で勝ち上がってきた勢いがある。

高倉ジャパンはオランダと3度対戦しており、結果は1勝2敗と分が悪い。だが、敗れた2試合は、いずれもチームの幅を広げるために様々なチャレンジをした結果の敗戦だった。また、国内リーグのエールディビジがシーズン佳境を迎えていたオランダに対し、日本はシーズンオフで、コンディションにも差があった。現在、日本のリーグはシーズン中で、エールディビジはオフに入っている。

オランダはどのようなチームか?

会場のロアゾン・パークはスコットランド戦で勝利したスタジアム
会場のロアゾン・パークはスコットランド戦で勝利したスタジアム

オランダは高さと速さを兼ね備えたチームだ。「守備力に欠点がある」という声も聞こえるが、リーチの長さや球際の強さを生かしたアグレッシブな守備を甘く見ると痛い目にあう。

今大会のメンバー23名のうち17名が海外組で、国内リーグ(エールディビジ)とイングランド女子1部リーグ(FA WSL)が6名ずつ、他にはドイツ(4名)、スペイン(3名)、フランス(2名)、スウェーデン(1名)、ノルウェー(1名)と、7カ国のリーグに散っている。23名中21名が国内組で構成される高倉ジャパンとは対照的だ。

特に注意したいのは、破壊力抜群の3トップ。中央のFWフィフィアンヌ・ミーデマ は、ポストプレーと決定力を兼ね備えており、先日のカメルーン戦で代表60得点目を記録。22歳で代表の最多得点記録を塗り替えた。バイエルン・ミュンヘン時代にチームメートだったFW岩渕真奈は、彼女の特徴について「大きくて(175cm)ヘディングが強く、シュートや足元の技術もある」と分析する一方、「ガツガツ来られる相手は嫌だと思う」と話した。

左サイドのリーケ・マルテンスは、17年の女子ユーロで優勝に貢献し、MVPに輝いた。昨年、日本との対戦で、先制点を含む2ゴールを決めた要注意人物だ。

圧倒的なスピードを武器とする右サイドのシャニス・ファンデサンデンは、女子チャンピオンズリーグ4連覇中のリヨン(フランス)所属で、DF熊谷紗希とチームメートだ。熊谷は、「シャニスは一歩目から爆発的なスピードが出ます。パワーもあって、縦への突破が彼女の特徴。(彼女へのパスの)出どころを抑えて、彼女にいい形でボールが入らないようにしたい」と警戒する。

その3トップへのパスの供給源として、司令塔のMFダニエレ・ファンデドンク、柔道で鍛えたフィジカルを生かしたボール奪取が特徴のMFジャッキー・フルーネン、代表通算最多出場記録を更新中のMFシェリダ・スピツェにはしっかりとプレッシャーをかけてパスコースを遮断したい。

オランダとの対戦経験が豊富なDF鮫島彩は、立ち上がりの失点を警戒した上で、サイドを突破された場合でも「クロス対応やペナルティエリア内で負けないようにしたい」と話す。それは、欧州勢とのテストマッチを多く組む中で、直面し続けてきた課題だ。その成果を、この大舞台でしっかりと示してほしい。

攻撃陣への期待

今週からフランス全土に熱波が来るとの予報も
今週からフランス全土に熱波が来るとの予報も

粘り強い守備でオランダの攻撃力を抑え、「我慢比べ」の試合展開に持ち込めれば、運動量のある若手選手が多い日本が優位に立てるかもしれない。チーム屈指のスタミナを誇る右サイドバックのDF清水梨紗が試合に出れば、後半は攻め上がりがじわじわと効いてくるはずだ。

オランダは長身選手が多いため、セットプレーは与えたくない。そのためにもなるべく高い位置でボールを奪い、相手のプレッシャーを、なでしこらしいパスワークで外してゴールに迫りたい。今大会で好パフォーマンスを維持しているFW菅澤優衣香のポストプレーや岩渕のドリブルを足がかりに、過去3戦で2ゴールを決めている“オランダキラー”、FW横山久美の一発にも期待している。イングランド戦は出場しなかったMF長谷川唯のゲームメイクや、籾木、小林、FW宝田沙織、FW遠藤純ら、若き攻撃陣にも、ブレイクの気配はある。

スタンドをオレンジ色に染めるであろうオランダサポーターの大声援には、しっかり心の準備をしておきたい。6月1日に行われた、オーストラリアとのテストマッチには30,640人もの観客が入ったという。今大会関連のSNSでも、オランダサポーターの華やかな応援が随所でアップされている。

鮫島はそういった「完全アウェー」の雰囲気も含めて、様々な試合展開をイメージした上で、「日本人は逆境に強いと信じています」と語る。苦しい時には、鮫島やキャプテンの熊谷、菅澤や岩渕ら、W杯経験者たちが背中で見せてくれるだろう。

欧州勢にとって今大会は、来年の東京五輪の予選も兼ねている。上位3枠に出場権が与えられるため、オランダは日本に負ければ五輪に出場できない。開催国の日本にそのプレッシャーはない。そして、会場となるレンヌのロアゾン・パークは、日本が今大会で唯一勝利を挙げた、縁起の良いスタジアムだ。

乗り越えなければならない壁は高いが、日本には追い風が吹いている。23人全員のパワーを結集して、未来への扉を開く一勝を掴みとって欲しい。


(文・写真:松原渓)

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集
松原 渓
松原 渓

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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