『EXHIBITIONISM – ザ・ローリング・ストーンズ展』(以下、ストーンズ展)が、60、70代のファンを中心に高い人気を集めている。この現象をふまえ、2012年以降の日本ではシニア層が新たな消費のムーブメントを生み出していると解説してくれた経済ジャーナリストの渋谷和宏さん。

数々の写真や日記など貴重なアイテムを展示
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インタビュー後半は、シニアの消費傾向からこれからのブームを予想。合わせて、これから伸びるであろう団塊ジュニア世代に向けたビジネスについても聞いた。

(聞き手:新美有加アナウンサー)

モノより時間の質、消費の変化

 
 

――渋谷さんは、今のシニア層をどう見ていますか?

侮れないです。彼らはずっと日本の消費市場をリードしてきた人たちで、その自負があり、いまだに新しいモノ好き。とはいえ、残りの時間も意識するのもこの世代。そうなると消費の質が変わり、一番大切になるのが時間。モノを買うより、楽しい時間を過ごしたい、エモーショナルな感動を味わいたい。

これからは情に訴えかけるような消費が増えていくのではと予想しています。旅行や食事、スポーツ、あるいは友人たちとの語らいだけでなく、「ストーンズ展」のようなエンタメ市場においても、シニア層からの支持はとても重要になっていると思います。

これから増える?脱フラリーマンビジネス

 
 

――では、10〜30代のあまり消費しない世代についてはどう思いますか?

合理的でスマートな知恵を持っているので尊敬しています。僕が10〜30代だった頃は物欲がものすごくあった。でも、今の10〜30代の人たちはシェアしてもいいという考えですよね。音楽はCDを買わずにストリーミング、モノを持つよりもライブを楽しんだ方がいいみたいな。若い人の方が消費のステージとしては上だと思います。

――では、団塊ジュニア世代(=45歳半ば)はどういう消費層だと思いますか?

彼らの多くは働き方改革によって、長時間勤務が改善されました。しかし、仕事が早く終わってもすぐには帰宅せず街をふらふらしている“フラリーマン”が増えたとも言われています。

僕、原稿に行き詰まったらファミリーレストランに行って書くことがあるんですが、夕方になるとPCを持ち込んで仕事をしている団塊ジュニア世代を見かけます。家に帰ってもすることがないし、時間つぶしに仕事でもしようかな、という感じなんでしょうね。でも、彼らの意識もこれから変わると思います。

英会話を学びに行こうとかAIについて研鑽を深めようとか、スキルアップに意識を向けるようになる。あとは、バンドを始めてみるとか趣味を充実させたり。あと数年のうちに、自分の価値を高めるもの、自分を勇気づけるもの、癒すものに目を向けるはずです。この団塊ジュニアたちの意識が変化すれば、ものすごい経済効果を生むでしょう。

社会に出ると、知識や教養は大事だと改めて気づきますよね。語学学校も毎年1%ずつくらい市場規模が拡大しています。英語を学ぶ子どもが増えたこともありますが、ビジネスパーソンも確実に増えている。自己研鑽市場はコト消費の中でもかなり大きい。“脱フラリーマンビジネス”がこれから増えていくと思いますね。

シニアの心をつかむ、人生を豊かにする普遍的な価値

 
 

――最近、若い世代の消費についてよく考えます。私は今27歳で、同世代には将来に備えて貯金しようという人も多い。一方でシニア層の“使うことへの喜び”というのは私たちの世代よりも勝る気がします。

たしかに、昔欲しくて仕方なかったモノや体験したかったコトにお金をかけることに対して積極的かもしれません。新美さん世代は将来的に寿命も延びると言われ、社会保障がどうなるかわからないプレッシャーもあるから賢く使いたい。それはシニア層も同じで、だからこそ、時間を彩るモノやコトにお金をかける。

逆にいうと、シニアの心をつかんだものって普遍的な価値があると思うんです。また、人生100年時代に突入するとおそらく65歳引退ではなく、生涯現役が前提になります。学校へ行って、会社で働いて、引退する、という3ステージではなく、働きながら自己投資をし、ワーカビリティを高めてマルチステージで働く人生を組む必要がある。

――そういったシニア層に響く普遍的な価値は、下の世代にも影響を与えているのでしょうか。

そうだと思います。2013、2014年頃からファストフード店が健康メニューを導入するようになりました。シニア層にとって健康は重要なキーワードで、結果として若い人にも健康は大事だと啓蒙されました。健康はシニア層だけでなく、年齢に関係なく普遍的な価値です。シニアの人たちが「君たちもどう?」って消費のトレンドというバトンを若い人へ渡している。しかも普遍的な価値があるから、こうして生まれたトレンドはけっこう息が長いと思います。

190点以上のオリジナル・アートワークも
190点以上のオリジナル・アートワークも

――70歳を超えたストーンズがいまだ現役で、セルフプロデュースで展示をすることについてはどう感じますか?

多くの人にとってセルフプロデュースしながら働くことは重要です。会社がずっと「あなたのキャリアパスはこれです」といざなってくれるわけではないですから、自分の得意分野や市場価値を把握し、やりたいことを常に発信していかないと仕事はこないですし、やりがいも得られない。ストーンズのメンバーは生涯現役ということを意識しながら、さらに次のステージへ進んでいる。

しかも、人から役割を与えてもらうんじゃなくて、自分たちで道を切り開いている。すごいロールモデルですよね。

仕事を辞めても、自分の人生を歩むという点では我々自身もずっと現役です。だったら、引退後でも自分なりに仕事をやろうとか、自分らしい生き方について考えることは大切ですよね。70歳を過ぎて、『(I Can’t Get No)Satisfaction』を歌うミックの姿を見ると、「人生まだまだ満足してないぜ、もっと楽しんでやるぜ」って言ってるような気がして胸が熱くなりました。


『EXHIBITIONISM – ザ・ローリング・ストーンズ展』
■開催会場:TOC五反田メッセ(東京都品川区西五反田6-6-19)
■開催日程:〜6月5日
■開館時間:月~土 10:00~20:00 ※最終入館 19:30まで/日 10:00~18:00 ※最終入館 17:30まで
(10連休期間 4/27~5/5  10:00~20:00 ※最終入館 19:30まで、5/6  10:00~18:00 ※最終入館 17:30まで)
■チケット:一般   3500円、学生2000円、小学生以下入場無料(但し保護者同伴に限る)、VIPチケット 8800円、土日祝限定・優先入場チケット (指定日前日まで)3700円、(指定日当日)4000円、トートバッグ付き入場チケット 5500円 、ピンバッジセット付き入場チケット 13500円
https://stonesexhibitionism.jp/

文・浦本真梨子

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。