鳥取・倉吉市に2025年3月にオープンする「鳥取県立美術館」。鳥取県の新しいアートの拠点として新しい形の施設を目指している。そして地元の倉吉市もアートの町として盛り上がりを見せるなど、オープンに向けて相乗効果が表れ始めている。鳥取県でこの年屈指の注目度となるスポットの魅力とオープンにかける関係者の思いを聞いた。

2024年春に完成した建物 オブジェが迎える
2024年春に完成した建物 オブジェが迎える
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2025年3月30日に鳥取・倉吉市に開館する鳥取県立美術館。総工費約70億円をかけた建物はすでに2024年春に完成しており、作品の搬入など開館に向けた準備が進んでいる。館内を県立美術館の尾﨑信一郎館長に案内していただいた。

1階にひろがる「ひろま」3階まで吹き抜けに
1階にひろがる「ひろま」3階まで吹き抜けに

3階建ての美術館は、各階の床面積を合わせた延べ床面積は約1万600平方メートル。来館者をまず迎えるのは1階に広がる「ひろま」。3階まで吹き抜けになっていて、高窓からの光が降り注ぎこみ、文字通り自由に入れてくつろいでもらう場所だ。

尾﨑館長が美術館の特色を解説
尾﨑館長が美術館の特色を解説

尾﨑館長は、この美術館の特徴として「非常に明るいスペースが用意されている所」であることを挙げ、内装には鳥取県内産の木材をふんだんに使い、休憩スペースとして、また展示会やワークショップ、コンサートなど様々な使い道がある空間になっているとしている。

館内のようす 木の温かみが感じられるスペースに
館内のようす 木の温かみが感じられるスペースに

2階は「コレクションギャラリー」で、美術館が収蔵している作品を常時見られる5つの常設展示室が設けられている。これまでに県が収集してきた1万点を超えるコレクションが展示される予定だ。

特に「ギャラリー3」は、一番天井の高いギャラリーで、上部に窓が設けられている。作品に太陽光があたるとダメージを与えるため、普通は展示室に窓はないが、尾﨑館長は、彫刻を展示する部屋としてあえて設けたとし、「彫刻は太陽光、自然光が一番きれいに見えるため、意図的に自然光が入る部屋にした」と話す。

展示室には効果的な作品展示の工夫 日本に「例のない」展望も

そして3階からの眺めにも特徴が…。尾﨑館長によると「この美術館は、空間によって見え方が違ってくるので面白い。良く計算されていて3階からの眺め、2階からの眺め、全く違うので面白い」と館内を巡るだけも楽しめる工夫が施されているのが分かる。

また3階には、天井までの高さ5m、面積約1000平方メートルの企画展示室があり、この広々とした空間を生かし、美術館主催の企画展を中心に年4回、展覧会を開く予定だという。

展望テラスからの眺め 正面に広い緑地を配置
展望テラスからの眺め 正面に広い緑地を配置

さらに解放感のある展望テラス。尾﨑館長は、「美術館前の正面に広い緑地をおいた美術館は日本でも例がない」と話す。このほか、県民がだれでも利用できるギャラリーや「キッズスペース」も設けられている。

約3億円の購入費が物議「ブリロの箱」
約3億円の購入費が物議「ブリロの箱」

展示作品の目玉のひとつがアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」だ。2022年に県が約3億円で購入したことを発表すると、その価値を巡り県の内外から賛否の声が上がった。現在はまだ鳥取市の県立博物館で保管されていて、今回特別に展示を控える「ブリロの箱」を見せていただいた。アメリカの大衆文化を「アート」で表現し、芸術の価値観を変えたとされる「ブリロの箱」。国内で本物を鑑賞できるのは鳥取県立美術館だけだという。ブリロのソープパッド洗剤付きたわしの箱と同じサイズで、全部で5つある。これらを最初は企画展示室に展示し、その周りにも他のウォーホルの作品を並べる予定だとしている。

山下清作「鳥取砂丘」も目玉の一つに
山下清作「鳥取砂丘」も目玉の一つに

そのほかの注目の作品が、「裸の大将」として知られる山下清が描いた「鳥取砂丘」。1956年に鳥取砂丘を訪れ、雄大な砂丘の風景を独特の緻密なタッチで描いている。県立美術館の学芸担当・三浦努さんは、「鳥取市の鳥取砂丘に行って、倉吉の県立美術館に行って、山下清の作品を見ようかなと思ってもらえるような、代表的なコレクションになるのでは」と期待を寄せる。

鳥取県立美術館・尾﨑信一郎館長:
この美術館のブランドワードは「OPENNESS!(オープンネス)」、「開かれている」ということ。いろいろな人に来ていただきたい、いろいろな人に対して開かれているといった意味を考えていますので、建築と美術館の理念が非常に見事に一致していると思う。

開館を待ちわびる市民 「アートの街」としての盛り上がりを

オープンを4カ月後に控えたこの日、美術館の「ひろま」でワークショップが開かれた。開館日に、記念パレードで披露する「POP音頭」を作っていた。集まった人たちは、自由な発想で振り付けのアイデアを出し、オリジナルの振り付けを披露した。

参加者は「地域の人たちが盛り上げていけるというのは、とてもうれしい」、「今まで美術館というカテゴリの施設が無かったので楽しみにしている」と話し、開館の日を心待ちにしている。

市内のギャラリーも開館効果に期待
市内のギャラリーも開館効果に期待

待望のオープンに向けて、美術館の地元の倉吉市でもアートへの関心が高まってきている。倉吉市の「アート格納庫M」。創業70年を超える市内の商社が2024年4月に開設したギャラリーだ。空き倉庫を改修した展示場では、巨大な鉄のアートが目を引く。日本を代表するアーティスト「原口典之」さんの作品を中心に展示されている。アート格納庫Mの岡野稔さんは、「アートはもともと好きでなかなか踏み切れなかったが、県立美術館が出来て、お客さまの流れがどんどん増えてくると、ここも生きてくる」と話し、相乗効果を狙う。

「まちなかアート事業」の盛り上がりに期待
「まちなかアート事業」の盛り上がりに期待

その岡野さんが取り組んでいるのが、「まちなかアート事業」だ。県中部の飲食店や宿泊施設などに絵画など地元作家の作品を展示し、購入にもつなげる狙いだ。岡野さんは「街の中でアートがどんどん盛んな街というのは、街としても県としても面白くなる」と語り、県立美術館オープンをきっかけに市のさらなる変化に期待している。

「ポップカルチャーの街」の拠点・円形劇場
「ポップカルチャーの街」の拠点・円形劇場

実は倉吉市では、2014年に国内有数のフィギュア工場が進出したのをきっかけに、「ポップカルチャーのまち」としての認知度も上げていた。フィギュアを集めたミュージアム・円形劇場や代表的な観光地・白壁土蔵群でアニメの聖地としてPRするなど、さまざまな形で「アートのまち」として盛り上がりを見せている。

「県立美術館」拠点に“回遊”と“滞在”へ 日本一小さな県の取り組みに注目

鳥取県立美術館・尾﨑信一郎館長:
新しい美術館の一つのキーワードは、「回遊することと、滞在すること」。起爆剤になりうると思う。最後発だからできるというか、小さな県だからできる。そうした自信を持って美術館の運営を進めたい。

2025年3月30日にオープンする鳥取県立美術館、鳥取県の新たなアートの拠点として期待がかかる。

TSKさんいん中央テレビ
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