TwitterやInstagramなどのSNS戦略は、企業PRに大きな役割を果たすようになった。
自社情報を広告枠に縛られることなく発信でき、顧客との距離も縮められる。丁寧なやりとりが「神対応」と賞賛されれば、自社のイメージアップにもつながるといいことづくめだ。

企業によっては、公式アカウントの擬人化や自由奔放な投稿を認めるところもあり、SNSの担当社員が「中の人」として人気を集めることもある。マーケティングからは一見ほど遠い、ある種の「ユルさ」がネットユーザーとの架け橋となることもある。

意図しない炎上を招くこともある

その一方、SNSでは毎日のように何かが批判にさらされている。火種となる出来事はさまざまだが、ネットの悪評は瞬く間に広がり、企業の場合は「○○の商品は買わない」「お店に行かない」といった、不買運動にまで発展し大きなダメージを受けるケースもある
そんな状況は避けたいところだが、ネット炎上の歴史を見ると「これをやってはいけない」という傾向を導き出すのは実に難しい。

環境省の投稿は、うなぎの画像が無断転載だったことも批判された(画像はイメージ)
環境省の投稿は、うなぎの画像が無断転載だったことも批判された(画像はイメージ)
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最近では、環境省が土用の丑の日にちなみ、Twitterに「土用のウナギはご予約を」と投稿したところ、ニホンウナギが絶滅危惧種であることから批判が相次いだ。投稿文には「食品ロスにならないように大事にいただきましょう」などと、廃棄を注意喚起する意図も含まれていたものの、食べることを推奨しているようにも見て取れたためだ。

このように、思わぬ投稿が炎上するケースや、そこまでしなくても?という行動が「神対応」と賞賛されるケースもある。企業はSNSをどう使いこなし、批判にどう対処すればよいのだろう。企業のネット炎上対策サービスを提供する、株式会社エルテスに伺った。

炎上してしまったら…「これ」という方法はない

――企業のネット炎上には、どんなパターンがある?

年々パターンが増えており、かつ時代ごとの流行もあるため一概には言えません。
ですが、近年ではこの4パターンが目立ちます。

・製品不良
購入製品への不満が炎上につながるケースです。食品も含まれます。消費者側が「こんなものが入っていた」などと異物混入を訴え、拡散されることも多いです。

・CMやキャンペーン内容への批判
性別や人種への配慮がなく、差別的だと炎上することもあります。昔は「女性は家庭、男性は仕事」という考え方もありましたが、今持ち出すと「なぜ女性だけが家庭?」と批判されるでしょう。価値観を押しつけるような企画が当てはまります。

・バイトテロ
これはお分かりですね。非正規雇用の従業員が悪ふざけを投稿して、企業まで影響を受けます。

・社員による情報流出
バイトテロに近いですが、社員が情報漏洩することもあります。接客業の従業員が「うちのお店にあの芸能人が来た、政治家が来た」などと、接客情報を流出して炎上したケースもあります。

このうち、バイトテロや社員による情報流出では、個人のSNSから炎上することもあります。その場合も「管理体制がなっていない」などと、会社側に批判が集まることもあります。


個人アカウントでの投稿が企業を巻き込むことも(画像はイメージ)
個人アカウントでの投稿が企業を巻き込むことも(画像はイメージ)

――企業がネット炎上した場合、どんな対応を取るべき?

ケースバイケースです。炎上原因の投稿内容や拡散具合、ユーザーの論調(何に対する批判か)などで対応方法が変わるため、「これ」という方法はございません。その都度、状況に応じた対応を取ることが重要となります。この対応が非常に難しいため、専門家への依頼が増えています。

ただ基本的に、炎上したときよりも、炎上しないためにどうするべきかを考えるべきでしょう。一度炎上すると、その後も掘り起こされることがあります。例えば、SNSを扱うにしても、企業アカウントと個人アカウントを間違えないように、ログインできる端末を限定したり、ガイドラインを明記するなどの予防策に力を入れるべきでしょう。


初動対応のリミットは“炎上”から4時間まで

――企業の知らないところで批判されている場合は?

まずは、炎上内容が事実かどうかを確認することが大切です。SNSやネットには、事実無根の情報が多く流れていますが、気軽に利用するユーザーは情報の裏取りをせず(普通はしないですよね...)、悪意なく偽情報を拡散してしまうことがあります。

批判されていることが事実無根の場合、公的文書などで淡々と否定するべきです。事実ではない場合、ユーザーの声・意見とも捉えられます。企業方針にもよりますが、商品開発やサービス改善に生かすこともできます。


――批判内容が事実の場合、どうするべき?

企業側の迅速な対応姿勢が問われます。当社のクライアント約1,000社の経験則では、炎上が明るみとなってから4時間以内に初動対応すると収束しやすく、逆に4時間を超えると拡散も進み、対応の遅さに不満も膨らんでいました。炎上当初は、自社が100%悪いのか区別がつかないこともありますが、事実確認に時間がかかる場合も「調査中です」などと、一報しておくべきでしょう。

また、ユーザーの論調を把握することも重要です。例えば、企業の倫理観が批判されているのに「弁護士の見解では違法性はありません」などと伝えると、その姿勢が二次炎上につながります。迅速に事実を確認し、批判に対する謝罪や再発防止策を真摯に伝えるという、一見当たり前のことをしっかりとやる方が収束しやすいです。


炎上内容の確認とSNSでの一報を早めに行うことが大切(画像はイメージ)
炎上内容の確認とSNSでの一報を早めに行うことが大切(画像はイメージ)

――やっていけないこと、控えたほうがよいことは?

ユーザーに直接反論したり、うそをついたり、違法性の有無に論点をすり替えることなどは、してはいけません。不快と見なされ、企業自体の信頼性も損ねてしまいます。炎上内容が事実でないとき、反射的に謝罪するのもよくありません。非がなくても「何やってるんだ」となります。

投稿が炎上したとき、その投稿を削除するのもお勧めできません。炎上案件が発生した場合、誰かがスクリーンショットで必ず撮影しているものです。消しても意味はありませんし、削除するという行為はもみ消しをしているかのような印象も与えます。


動画でのネット炎上は海外にも伝聞する

――ネットの炎上と神対応を分ける要素はある?

これもケースバイケースで、ユーザーの受け取り方次第です。ただ、企業や企業の公式アカウントにファンが多いと、擁護する意見は集まりやすいと思います。公式アカウントでのコミュニケーション、ユーザーの困りごとに対応するなど、地道な活動が影響するのではないでしょうか。


――ネット炎上は、これからどうなっていくと思う?

SNSの種類が増えているので、企業側も対応していく必要があると思います。
例えば、バイトテロによる炎上は以前からありましたが、2019年初頭に相次いだときは、投稿内容が画像から動画に変化していました。動画はインパクトが大きく内容も伝わりやすいです。拡散力が高く、海外にも波及しやすいので注意が必要でしょう。

ネット炎上による企業へのダメージはもっと大きくなると思うので、炎上を起こさないための体制作りや予防策に力を入れ、「たかだかSNS」とあなどらず、重要なメディアと捉えるような意識改革が必要だと思います。


拡散力が高いと企業へのダメージも増えるという(画像はイメージ)
拡散力が高いと企業へのダメージも増えるという(画像はイメージ)

ネット炎上の対応を間違えて企業にマイナスイメージがつくと、長期間にわたりダメージを受ける。
炎上案件に遭遇したときは、批判内容が事実かどうかを確認した上で、必要なら真摯な謝罪と再発防止策を伝えることを心がけておきたい。そして、初動対応は4時間以内ということも覚えておこう。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。