今、若い女性を中心に「マンジャロ」という薬が“やせ薬”として広まっているという。マンジャロは本来、糖尿病患者のための治療薬で、ダイエット目的の使用には、危険性が潜んでいるのだが…。美容目的にマンジャロを使った女性が直面する現実を取材した。
広がる“やせ薬”「マンジャロ」
インフルエンサーの影響で3か月ほど前から、新たなダイエットを始めたと話す福岡市内に住む女性Aさん（20代）。
自宅の冷蔵庫を開けAさんが取り出したのは、マンジャロという液体の薬。「これを開けて打つんです。
先週は、左側だったので、今週は右側に打ちます」と話すと、Aさんは、おもむろにマンジャロを腹に打ってみせた。「10秒待つんですよ。1・2・3・4・5…終わりです。そんなに痛くなかった。慣れます」とAさんは、さらりと答えた。
Aさんが使っている薬、マンジャロは、“やせ薬”として今、若い女性を中心に広がりをみせている。本当に痩せるのか尋ねると、「食欲がなくなり、食べなくなるから9キロ痩せました」とAさんは効果を実感している。
糖尿病の薬が“ネット診断”で簡単入手
本来、マンジャロは、『2型糖尿病治療』のための薬で、インスリンの分泌を促進し、食欲を抑制することで、血糖値のコントロールを助け、体重管理をサポートしてくれる。
アメリカの製薬会社「イーライリリー」が開発したもので、2023年に日本での販売が解禁されると、SNSなどで“やせ薬”として一気に広まった。一部の美容クリニックなどが、ダイエット目的（痩身目的）での適応外の処方を行っている状況も背景にあるとみられている。
Aさんが購入したマンジャロの値段は、1本約5000円。Aさんは、週1回のペースでマンジャロを接種している。
糖尿病患者ではないAさんは、どこでマンジャロを手に入れているのか？「美容クリニックのオンライン診察、ビデオ通話みたいな感じで、先生と携帯電話越しでしゃべって、何キロ痩せたいか？とか。
今、飲んでる薬を軽く聞かれて2～3分で終わりました。めっちゃテキトーな感じだった」と購入の際の医師とのやりとりを振り返る。
製造元のイーライリリーは、糖尿病患者以外が、マンジャロを使用することに対して、その危険性を自社のホームページでも公開している。「2型糖尿病のみを効能・効果として製造・販売・承認を取得しているもの」「承認された使用法以外で使用された場合、本来の効果が見込めないだけでなく思わぬ健康被害が発現する可能性も想定されます」。
マンジャロについては、厚生労働省や日本糖尿病学会も美容ダイエット目的の使用を避けるように注意を呼びかけている。
辛い副作用あるも「一種の依存症」
それでもマンジャロを打ち続けるのはなぜなのか？Aさんは、“一種の依存症のような状態”に陥っていることを自覚しているという。「周りから止められることもあるけど、やめられないから打ち続ける。依存ですよ」。
自分でも依存症だと思っているが、「食欲が沸いてきたら嫌だから。太りたくない。戻りたくない。リバウンドしたくない」とマンジャロを止めれない理由をAさんは語る。
身長163センチのAさんは、以前よりも9キロ痩せ、体重は40キロ台に落ちた。しかし、「最初、1本目を打った時は、インフルエンザみたいな症状で、全身筋肉痛と喉が痛くなり、声が出なくなった。貧血とか低血圧とか、体がだるい。体が本当にだるいので、何をしていても楽しくない」と酷い副作用に悩まされていたという。
体重減少喜ぶも副作用に苦しむ日々
当時、Aさんは、毎日、SNSにリアルな自分の心境を綴っていた。「ずっと喉痛いし、夜もちゃんと寝付けなくて、何回も目覚める。マンジャロを気軽にオススメしてはダメだね。細い子は、絶対にしないで」。
体重が減っていくのを喜ぶ一方で、酷い副作用に苦しむ毎日。Aさんのメンタルは、日を追うごとに、どんどん不安定になっていったという。「うつ病みたいな状態になる。お肉とか見ただけで吐きそうになる。食べることが幸せだったのに、一瞬で食べられなくなる」。
食べ物が喉を通らないため、栄養はサプリメントで補給。9キロ痩せた今も、彼女は、『自分は太っている』と思い続けている。「今、日本って、体型に厳しいから、インフルエンサーが細すぎて…。細い子でもぽっちゃりって言われる時代。9キロ痩せても、まだ太っていると思っているから、あと5キロ痩せなきゃ」。
糖尿病や肥満症を専門とする「二田哲博クリニック」の下野大院長は、マンジャロが本来の目的以外で処方されていることに警鐘を鳴らす。
まず、美容ダイエット目的の需要が増え、本来、薬が必要な糖尿病患者に行き渡らない事例が出ていること。次に、「普通の体型の方がもっと痩せたいという目的でマンジャロを使用した場合、その後どういった作用が出て、副作用が出るかは全くデータがない。臨床試験がなされていない薬剤は使ってはいけない」と、不適切なマンジャロの使用に強く注意を促した。
（テレビ西日本）
