特集、シリーズ「岐路に立つ書店」の第5弾です。
ネット書店の台頭など時代の変化とともに「町の本屋さん」がなくなりつつあります。
番組では、1年前に県北の山間部に誕生したある書店に注目してきました。
温もりにあふれる本屋さんの姿がそこにはありました。
【常連客は】
「こんにちは!きょうで1周年ですね」
【「ほなび」原田彩花店長】「ありがとうございます」
サプライズでお客さんから祝福を受けたのは20代の若き店長です。
【「ほなび」原田彩花店長(23)】
「身に余るくらいうれしいです」
庄原市中心部の空き店舗だった場所にできた書店「ほなび」。
今月、オープンから1年が経ちました。
祝いに駆けつけたのは常連客。
地域には欠かせない存在だといいます。
【常連客は】
「私の毎日に”ほなび”ありなんですよ、とにかく。ただ単に本を買っている売っている関係ではではないところが、”ほなび”の一番の魅力かなと思っています」
「ほなび」は去年、書店が消えた山間部の町で産声をあげました。
森林浴をするように「本」を優しく「浴びてほしい」との願いを店舗の名前に込めています。
「デジタル化」や「本離れ」の影響で全国の書店が少しずつその姿を消しています。
そんな中、人口3万人の中山間地域で始まった新たな挑戦は、県内外の業界関係者から注目を集めました。
【出店を決めた「ほなび」運営会社・佐藤友則社長】
「たぶん僕は本だけでやれる時代がもう1回くると思う。それの試金石だと思っています。地域に本屋があるということが、きっと10年後20年後、新しい世の中をつくっていく子どもたちの礎になると思うので」
オープンを待ちわびる地域の人がボランティアで本を並べるなど、まさに地域と共に創り上げてきた「町の本屋さん」です。
【高校生は】
「なんかいいなそれ!」
「でしょ」
「会計のときなどに話をしてくださってとても温かい本屋さんだなと思っています」
「ありがたい」
【常連客は】
「ないといけないものですね、自分にとってはね」
オープンから1年。
幅広い世代が訪れます。
特に週末は若い世代が目立ちます。
【「ほなび」原田彩花店長】
「長かったけどもう1周年か…と不思議な感じです。書店員として経験が少ない部分と店長として(の責任)という部分と正直に言ったら自分との葛藤ですね」
幼いころから本が好きで、隣町の系列店から初代店長に抜擢された23歳の原田彩花さん。
ベテランスタッフに支えられながら、大型書店には出せない、自分たちの存在意義を模索してきた1年でした。
【「ほなび」原田彩花店長】
「触ってくれています」
Q:わかるんですか?
「元々はこう背の順になるように並べていて背表紙もこうじゃなくてこうなるように全部並べていたので」
子どもから大人まで、何を求めきてくれるのか…
デジタルの数字だけではわからない「アナログ」の手法を試します。
大切なのは「声なき声」にどう向き合っていくか。
【「ほなび」原田彩花店長】
「並べた本が乱れてるから直すっていうよりは、触られたんだなとか気になって見られたんだなとか。ここの間だけが抜けていたら、ここに入れとったあれが売れたんだとか」
「ほなび」の運営会社社長で書店員でもある佐藤友則さん。
売り上げはなんとか目標ラインに届いているものの、「書店」として生き残るため現状に満足してはいられないと考えています。
【原田店長を抜擢した「ほなび」運営会社・佐藤友則社長】
「棚を触ることでお客様が見えてくるし時代が見えてくるし、遠くで言うと世界が分かる。技術を身につけないといけないところももちろんあります。でもそれ以上にお客様のことを知っていくという接客の奥行きというか」
ひたすら人と向き合い続ける書店の理念は、この1年で子どもたちの心にしっかり届きました。
【小学6年・妹尾明莉さん】
「友達からおすすめされたやつで、きょう買おうかなって」
母親と一緒にやってきた市内の小学6年生・妹尾明莉さん。
「ほなび」ができて、日常生活の読書が当たり前になりました。
【小学6年・妹尾明莉さん】
「私は本が嫌いだったから、本を好きになることはないだろう」
【母・ひとみさん】
「(ほなびで)こんな本が面白いよと教えてもらったり、明莉が反応してどんどん明るくなっていったり」
【小学6年・妹尾明莉さん】
「あれ面白いじゃんと思ったらどんどん買ってしまい、(冊数は)制限をかけられている」
文庫本やマンガを読み漁る毎日。
心配した両親が1カ月間に買っていい本は3冊までという驚きのルールまで作ってしまいました
【「ほなび」原田彩花店長】
「人気ですよと言われて知らんかったと思って仕入れたんよ」
明莉さんと原田さん…新しく出版された本の話に花が咲きます。
【小学6年・妹尾明莉さん】
「あ、読んでみようと思って読んでみたらおもしろいじゃないか。おもしろいじゃんって。店員さんも優しいし(自宅から)近いっていうのがいいですね。今では本当ね、なくなってほしくない」
「ほなび」の存在をきっかけに庄原の子どもたちが、本が持つ温もりに気づき始めました。
【小学4年生は】
Q:本は好きですか?
「好きです。私はこれが読みたかったら…これも読みたいなと迷う派で、どうするかちょっと時間がかかっちゃう、っていう派かな」
店長の原田さんが、1人で来店した小学生にそっと近づき声をかけます。
【「ほなび」原田彩花店長・小学生】
「きょう1人で来た?本を選びにお出かけしてくれた?」
「うん」
「これが4月に出たやつ。これも4月に出たやつ。これも4月に出たやつ」
「え!知っとるこれ。流行っとる」
何を買おうか「迷う」と話していた小学生の声を引き出し、納得がいくまで一緒に探します。
【小学生】
「これが…」
【「ほなび」原田彩花店長】
「それがネコちゃんのやつ。もう1個すみっコぐらしがあるよ」
【小学生】「すみっコ嫌い」
小遣いの範囲内で本当に欲しかった2冊を選ぶことができました。
【小学生・原田さん】
「またあんな新しい本がほしいと思った」
「いいのがあってよかった」
本を大切に背負いルンルン気分で帰っていきました。
【「ほなび」原田彩花店長】
「めちゃ嬉しいです。あそこまで仲良くなれると思わなかったので癒されました。(客との距離が)縮まっていたら嬉しいです」
Q:もっと自信をもっていいんじゃないですか?
「縮まっていると思います」
試行錯誤の連続だったこの1年間。
「町の本屋さん」ならではの温もりが山間部の町に広がっています。
【「ほなび」運営会社・佐藤友則社長】
「本屋というものがこれだけ必要とされているかというのは、ほなびを出してびっくりしました。これだけ「ポチッ」っとやったら届く時代にわざわざ店に来てもらって購入してもらう意味をよく考えないといけないと思う。それはわざわざ来てくれたお客さまがもっていることなので、それを教えてもらうことでしか僕らは生き残れない」
《スタジオ》
【コメンテーター:叡啓大学・早田吉伸教授】
「誰かに勧められたりリアルなものがあるからこそ、偶発的に一冊の本に出合う。まさに文化拠点として交流の場としていろいろな繋がりが生まれている。すごく魅力的な場所になっています」