今週月曜日、元タレントの中居正広氏がフジテレビ第三者委員会の調査報告書に反論する文書を発表した。

関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ」に出演した、社会学者の古市憲寿さんとジャーナリストの岸田雪子さんは中居氏とレギュラー番組で共演したこともある。
古市さんは中居氏が反論する文書を発表したことに対し「第三者委員会は真摯に向き合いを」と話す。
古市憲寿さん:第三者委員会って裁判所ではないわけですよね。裁判所でもないにも関わらず、一個人、中居正広という人物を社会的に抹消するぐらいの効果があったと思うんです。そこは第三者委員会は、今回の弁護士側の反論に対して、真摯に向き合わないといけないのかなと思います。
元毎日新聞記者のジャーナリスト石戸諭さんは「既に一致した見解であることは重い事実である」と話す。
石戸諭さん:反論する自由は誰にでもあります。ただ、一番“事の本質”としては、この今回被害を訴えた女性側の発言は常に終始一貫していたということと、産業医とかフジテレビのアナウンス室にも問題があることに関して、重大な人権侵害時間があることに関しては、もう既に一致した見解を持って来たっていうところ、ここはかなり重たいと思います。

■「報告書は配慮不足」古市憲寿氏が指摘する第三者委員会の問題点
中居氏の反論の内容について、古市憲寿さんは「報告書には配慮が非常に足りなかった」と評価した。
古市憲寿さん:第三者委員会の報告書は、今回あくまでもフジテレビのガバナンスをどうするか、フジテレビをどう再生するかってことが、メインの目的だったはずなんですね。にもかかわらず、中居さん個人に対する、『性暴力があったか、なかったか』というところに焦点を当てる必要があったのか、なかったのか。僕はなかったと思うんですね。
仮に焦点を当てるとしても、日弁連のガイドラインというのがあって、第三者委員会をやる時に弁護士の守るべきガイドラインがあるんですけど、そのガイドラインの中にも『事実認定をする場合は、その影響にも充分配慮する』という項目があるんですね。今回の第三者委員会は、果たして『充分に影響配慮して』性暴力って表現を使ったのか?やっぱりそこは配慮が足りなかったと思うんですね。
当然こういうふうに発表したら、メディア報じるのは分かってきたわけだから、しかも性暴力という言葉が躍る事態というのは、相手方女性にとっても二次被害になりかねないと思うんです。性暴力という言葉から我々は一般的に、『レイプかな?』って思って、『レイプ被害者だ』っていう、もしかしたら不当なレッテルを相手方女性に貼ることになったかもしれない。
だから中居さんにとっても、相手方女性にとっても、影響力を全く考慮してないという意味で、報告書は配慮が非常に足りなかったと思います。

■「証拠に基づく説明を」岸田雪子氏が第三者委員会に求める対応
岸田雪子さんは中居氏の反論の内容について、「(守秘義務解除について)非常に重要な違いが出てきている」と指摘した。
岸田雪子さん:守秘義務の話と、性暴力という表現の話と論点が2つあると思っていて、守秘義務に関して言えば、やはりトラブル事態の事実認定の前提になる、非常に重要なものだったと思います。第三者委員会が一部解除してもらって、お二方からお話を聞いた上で認定できるかに注目されていたところ、結局その解除がされなかったと言う時点で、やっぱりその解除されなかったことの意味は重いと思うんですね。
今回反論の中で、実は中居さん側は解除しようとしていたのに、はっきりわからないんですけれども、委員会の側がそれを受け取ろうとしなかったかのような、情報がいま出ているというところに関しては、非常に重要な違いが出てきてしまっているので、これに関しては無視できないと思います。
その意味で委員会側は、この反論に対して、なぜこうした『解除をしなかった』とあの会見で述べたのか。本当にそれはそうだったのか。代理人の側からどういうやりとりがあったのか、記録が残ってるはずですから、きちんと証拠も踏まえた上で、少なくとも中居さん側に対しては開示して説明する必要があると思ます。
青木源太キャスター:ここに関しては、第三者委員会が発表するというよりは、少なくとも中居氏側には説明する必要がある?
岸田雪子さん:証拠も含めて説明する必要があると思いますし、もし修正するのであれば、会見のやり直し、あるいはコメントを出すことも必要だと思います。

■「性暴力の定義と表現」専門家見解と岸田氏が指摘する報告書の表現問題
岸田雪子さん:性暴力という言葉に関しては、中居さん側からの反論文書を丁寧に読んでいても、性暴力じゃないという表現までは、私は読みとれないと感じたんですね。あくまでその前提条件として、『一般的に想起されるような暴力的・強制的な性的その行為というものはなかった』という表現をしていて、彼らも認定しているということで、つまり、ここでちょっとずれもあるところだと思うんですよ。
だから我々は、逆に言えば守秘義務解除されていない状況、第三者委員会も我々コメンテーターも、『あれは性暴力だったのか、ではなかったのか』は誰も言えないということは、大前提だと思うんですね。ただ、その中でこの表現が適切だったのかとなると、例えば断定調で書かないで、『性暴力の疑いがある』と書くとか、あるいは『中居さん側は6時間のヒアリングの中で、こんなふうに述べていた』という、主張も要旨だけでも書くということをすれば、より公平性を保てたのかなと思うところはある。
青木源太キャスター:一般的に想起される点で言うと、定義があいまいというか、受け止め方次第みたいな部分もあります。
性被害に詳しい上谷さくら弁護士によると、「暴力的でなくても、相手の意に反する性的言動であれば性暴力になり得る」、「女性のPTSD発症などからも、“性暴力認定”について、特に違和感はない」ということだ。

■「事実の流れは覆されず」石戸氏が指摘する中居氏反論の限界点
フジテレビの会見も、第三者委員会の会見も取材している石戸諭さんは「中居さんの反論の中に事実を覆すほどの情報はない」と指摘。
石戸諭さん:核心部分がわからなくても、という言い方をあえてしますけれども、この6月2日ですね、ことが起きたとされる、何かが起きたんだろうというようなことに関しては、6月2日時点で起きていると言うことまでは一致してます。その間、密室の中で何が起きたかっていうのが正直分からないこともあります。ですが、6月6日の時点で女性が産業医に言っている。その産業医もかなりこと重大な問題が起きているということを認識していて、6月7日の時点で、フジテレビのアナウンス室の中でも問題は共有されていると。この時に、報告書の中では性加害という言葉を使っていますが、最初から出てきたような言葉で言えば、重大な人権侵害事案があったということに関しては、この時点で一致はしているわけですね。その後7月にPTSDという診断をされているという、この一連の流れがありますので、第三者委員会が、確かにその密室でのことで何を言ったか分からない。ただ6月2日に起きた事が要因で、その後PTSDまで発症しているっていうこと。この流れは覆すこともない。
青木源太キャスター:第三者委員会の本文書の表現はあれでいい?
石戸諭さん:根本の部分に関して、何か覆すような、決定的にこれ違うんだっていうものが出てきているとは、僕は中居さんの反論を見ても思いませんでした。ただし、この性暴力という言葉はWHOの定義に基づいているということです。このWHOの定義ということ自体が、まあまあ広くとれるっていうことは1つ言えることです。かなり広い。

■「主眼はフジテレビの対応」 第三者委員会報告書の本質と表現問題
WHOよる性暴力の定義は、「強制力を用いたあらゆる性的な行為。性的な行為を求める試み。そして望まない性的な発言や誘い、売春。そのほか個人の性に向けられた行為」を指すということだ。
石戸諭さん:ここはちゃんと強調されていましたので、その中においてどれにあたるのかということまで、丁寧に説明すべきという声も分からなくはないです。(定義が)広いですから。ただ僕は、その中身がどうこうというよりも、今のところ産業医とか、精神科医とか、フジテレビのアナウンス室も含めて、フジテレビの取引先のタレントである中居さんと、その当該女性との間に重大な人権侵害行為があったんだということですね。ここは、ずれてはいない。
青木源太キャスター:第三者委員会はフジテレビに対するものじゃないですか。
石戸諭さん:その重大な人権侵害事案に対して、フジテレビ側がどう対応してきたかって、ここはやっぱり1つ主眼。

古市憲寿さん:主眼だと思います。だからこそ6月2日のこと含めてそこを性暴力認定する意味があったのか。やっぱりそこを性暴力と表現したことによって、きょうもそうですけど、3月31日の委員会の報告書の発表以降、『じゃあ結局、何があったんだ』って議論が、またメディアで盛り上がってしまったわけじゃないですか。果たしてそれは誰の人権救済になっているのか?むしろ誰の人権も救っていない。
青木源太キャスター:そこは踏み込みすぎたと?
古市憲寿さん:そこやっぱり必要なかったんです。あくまでも対象の女性がフジテレビに相談しました、相談にフジテレビが適切にちゃんと対応したのかがポイントであって、それ以前に何があったかってことが、結局、報告書でもそこは隠してあるわけですから。
青木源太キャスター:石戸さんは、そこまで踏み込むことが必要だったと?
石戸諭さん:だって取引先で、しかもフジテレビの当該社員が、例えばお見舞金を持って行くとか、あるいは弁護士の選定に関わっていたというような話もありましたから、一定、その何か問題があったのか、なかったのか、ということに関しては、踏み込んだ話をしたほうが良かったとは思います。ただし、これはメディアの特性でもあるんですけども、主眼はここじゃないんですよ。6月2日のことではないんです。6月2日に何があったかっていうことがないと、話ができないんじゃないと言ってる人もいましたが、6月2日に起きた事の中身を特定するのが主眼じゃないんですね。重大な人権侵害事案があったんだと、その後の、そっちの方が本題なので、そこをちゃんとやらなきゃいけなかった。

■「グレー認定で十分だった」 報告書表現と当事者の人権配慮
岸田雪子さん:認定そのものをグレーでよかったと思うんです。グレーの認定だったとしてもその後、社員なわけですから社員が被害を訴えたっていう事実をもとに、それに安全配慮義務があるので企業として適切だったのかっていうことを第三者委員会が認定することはできたと思うんです。
青木源太キャスター:でも第三者委員会はグレーじゃなくて、黒だといった印象ですか?
岸田雪子さん:黒というか、性暴力の被害があると認定したのは、例えば、性暴力の恐れがあると見ているが中居氏はこのように述べているという、両論併記もできただろうし、その辺りの表現について配慮が足りてないんじゃないかっていう主張なのかなということ。
あと、性暴力のそのものについても、わたしたちって今、性暴力の広義の広い範囲で、セクハラでもレイプでも性暴力ですよね。だから『なくしていかなきゃいけないですよ』ということも、これも前に進めていかなきゃいけなくて、この今回の議論の中で『いやいや日本ではまだまだ限定的ですよね』ってそういう議論にはしちゃいけないと思ってるんですよ。
青木源太キャスター:一般的に想起されるようになったら、時代の針を戻すような感じになってしまうということ?
岸田雪子さん:前に進めなきゃいけない。

古市憲寿さん:それは果たして、この報告書が過剰な正義感によって、一個人を貶めたということも、やっぱりそれはまた人権侵害だと思うんですよ。やっぱり人権っていうのは、あまねく加害者とされる人、被害者とされる人、どっちの人にも適用されるべきで、誰かの人権を守るために誰かの人権を害したらいけない。だから今回の場合だったら、全利害関係者の人権を守るような方法を第三者委員会はちゃんと探すべきだったし、その努力義務についても批判は免れないと思うんですね。
岸田雪子さん:その点では公平であったか、忠実であったか、その関わるすべてに対して配慮はあったのかっていうところが問われるべきだし、中居さんはそれに対して異論があれば反論する権利があると思います。
石戸諭さん:これは誰に対してもそうだし、中居さんは反論する権利を有している。それで僕はやっぱりその大事なのは、何らかの形で、本人が肉声…、記者会見をしろとまでは言いません。ただ本人に主張があるんだったら、肉声で自分の言葉できちんと伝えるっていうことを、ここまで異論があるというんだったら、やった方がいいと思います。守秘義務がたとえかかったとしても主張する。何かの形で、それが弁護士を立ててちゃんとチェックしてもらったりとか。
(関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」2025年5月16日放送)
