岩手県西和賀町にある西和賀高校には近年入学の志願者が増えています。
県立高校としては20年ぶりに募集定員が増加した西和賀高校の魅力に迫ります。
岩手県立西和賀高校は、全校生徒105人、1学年1クラスの小規模校です。
西和賀高校には2024年、定員を4人超える44人が入学。
県内に11ある1学年1クラスだけの高校のうち唯一定員を満たし、現在、町の外から入学した生徒は全校の約7割を占めます。
このため募集定員は40人から80人に増加し、県立高校としては20年ぶりに募集定員が増えました。3月の入学試験では67人が合格していて、4月に入学する1年生からはクラスが2つに増えます。
生徒からは「めちゃくちゃ楽しい」「先生との距離も近くて相談できるところがいい」「自分に合った環境でいいと思った。ぜひ西和賀高校に入ってください」という声が聞かれました。
少子化などにより、県立高校の生徒数が年々減少する中、西和賀高校への入学者が増える背景には、生徒への手厚い授業や支援、そして地域の人とのつながりがありました。
秋田県境に接する人口約4600人(2025年2月末時点)の西和賀町。人口に対し65歳以上の人が占める割合を示す高齢化率は県内で最も高い55.2%(2024年10月時点)に上り、町は関係人口の増加をねらい高校生たちの支援を進めてきました。
西和賀町教育委員会の柿崎肇教育長は、小規模校ならではの教員とコミュニケーションを取りやすい授業が生徒の増加に結びついていると話します。
西和賀町教育委員会 柿崎肇教育長
「知らないことは正直に『わからない』としっかり言えて、自分の学びを深めていける環境があるので、それを求めて子どもたちは西和賀高校を目指している。そして(生徒が)増えてきたと認識をしている」
この言葉通り最大の魅力は授業にあります。
数学と英語で行われている習熟度別の授業では、学びの深さに合わせ1つの教科が3つのクラスに分けられます。
小規模校のクラスを細分化することで、生徒と教諭の距離がより近くなるため、授業中は積極的に発言が飛び交い学びはより深まります。
1年生(北上市から通学)
「自分の発言に先生たちが応えてくれるので、自分が思ったことを言える環境があるのはいいと思う」
Q:教諭の教え方について
1年生(北上市から通学)
「確かにそう、めちゃくちゃおもしろい。先生の過去の経験とか雑談も入ってくるので(授業中は)元気だし、大変わかりやすい」
町の人たちと連携した授業もあります。それが「総合的な探求の時間」です。
この日、2年生の生徒たちが発表していたのは地域資源を活用し町の魅力を発信するアイデアです。
この考案に2024年から取り組んできた2年生たちは、これまでアドバイスなど協力をしてくれた地域の事業者らにその成果をお披露目しました。
生徒の中には、町の名物「ビスケットの天ぷら」を多くの人に食べてもらうため、急速冷凍して土産品として販売するアイデアを発表。
町をあげて地域の課題解決に取り組む授業も西和賀高校の特徴です。
2年生(町内から通学)
「自分のやりたいことについて探求できるというのは、楽しみながらできるので、すごくいい時間になっている」
町内のカフェ経営 瀬川瑛子さん
「自分が考えたものが形になって食べてもらって『おいしい』と言われたら純粋にうれしいと思う。何かつくり上げるのはおもしろいと思ってもらえたらいいなと思う」
経済的な支援もあります。
通学には町内で運行されている「高校生以下無料」のバスを利用できるほか、昼食の時間に合わせて高校に届けられるおかずは町が代金の一部を補助しています。
こうした取り組みは保護者のサポートすることにもつながっています。
西和賀高校 千葉賢一副校長
「町・地域・保護者の支援は絶大。それを生徒たちが受けて私たちの想像以上、予想以上の成果を見せてくれている」
全国大会の常連ローイング部の指導にあたる笹川美紀子教諭は、かつてこのローイング部に所属していた西和賀高校の卒業生でもあります。
今の母校はどのように見えているのでしょうか。
西和賀高校 笹川美紀子教諭
「生徒一人一人がいろんな活動にチャレンジできる機会が増えている。地域の人たちと接する機会も増えたし、私がいたときより可能性が広げられる学校になっていると思う」
高校生活から離れた住環境も充実しています。
高校から1キロほど離れた女子寮「遊古林」は、町内にある温泉街の湯本地区でかつて旅館だった建物を町がリフォームしたものです。
男子寮も含め町内には西和賀高校の生徒の寮が3棟整備されていて、ここも町が費用の一部を補助しています。
寮の風呂はなんとも贅沢な温泉。西和賀の豪雪で冷えた体も一気に温まりそうです。
埼玉県出身の寮生・木村朱里さんは、親元を離れ何かに挑戦したいという思いから西和賀高校に進学したといいます。
西和賀高校1年 木村朱里さん(埼玉県出身)
「ローイング部があるというのがすごく惹かれたし、寮もすごく良さそうだったので(高校に)ここなら安心して行けると思った。目指しているのは医療系、作業療法士とか看護師とか。西和賀さわうち病院の話をよく聞かせてもらうので」
6年前から遊古林の寮母を務める高橋順子さんは、生活を共にしながら不安と希望を抱え西和賀高校を選んだ寮生たちの心の移り変わりを見つめてきました。
遊古林寮母 高橋順子さん
「もちろんかわいいです。何を食べたいかなとか、何をしたいかなとか常に(考えている)。(考えを)話してもくれるので、気持ちにちゃんと応えたい。かわいいです、とても」
高橋さんの愛情はこの町で3年間を過ごす生徒たちの心の拠り所にもなっています。
西和賀高校1年 根岸菜乃陽さん(埼玉県出身)
「(高橋さんに)自分の家のレシピを教えると、自分の家(の料理)と似たような味をつくってくれることもあって、家と変わらない、お母さんみたいな存在」
西和賀高校を選び、毎日を生き生きと過ごす生徒たち。
教諭や町の人の温かさに触れ豊かな心を育みながらさらなる学びを深めています。