SNS上に「コンサートのチケットを販売する」とうその投稿をし現金をだまし取った詐欺の疑いで、4月10日に女が逮捕された。実際にはチケットを持っていないのに、チケットがあるように装って、被害者に代金を振り込ませていたのだという。このように、入手困難なチケットが欲しいファンの心理につけこんだ詐欺事件や、チケット転売(売買)のトラブルは後を絶たない。その多くはSNS上で起こっている…と思ったところで、疑問が湧く。

今は「チケット不正転売禁止法」という法律があるから、個人間のチケット転売は違法ではないのか? だとすれば、SNS上に掲載すること自体、いけないのでは? それとも、定価や定価以下なら、SNS上で知らない人に転売してもよいのだろうか? 

チケット不正転売の実情に詳しい、永岡法律事務所の永岡孝裕弁護士に話を聞いた。


■チケット不正転売禁止法とは?

【永岡孝裕弁護士】
令和元年から施行されている、いわゆる「チケット不正転売禁止法」における構成要件(犯罪が成立する要件のこと)は次のとおりです。(同法第3条、第4条)

*「特定興行入場券」を「不正転売(興行主の事前の同意なく、反復継続する意思をもって、販売価格を超える価格で転売する行為)を行う」
*「不正転売を目的とした特定興行入場券の譲受を行うこと」

分かりやすく言うと、法律で禁止されている特定興行入場券(チケット)の不正転売とは、興行主の許可なく、自分が儲ける目的で、定価より高い価格での販売を繰り返し行うことです。この不正転売をしたり、不正転売を目的としてチケットを入手したりすると「違法」になります。


■SNSでのチケット転売(売買)は違法ではない ただし入場拒否されても文句は言えない

ですからSNS上でチケットを販売すること自体は違法ではありません。ですが、定価や定価以下での販売(購入)だったとしても、事前に興行主の同意を得られることはまずないでしょうから、興行主との関係では「禁止された行為」に当たる可能性が高いです。入場時に身分照会を求められ、名義が違うといった理由で入場できないといったリスクは十分に起こり得るものですし、その場合は、興行主の判断に従うしかありません。

つまり、定価あるいはそれ以下の価格での転売そのものは(ダフ屋行為を除いては)法律上は「適法行為」ですが、トラブルに発展するリスクはあります。これは家族や知人との間の譲渡(有償・無償問わず)であっても同じです


■「ただちに違法」ではないものの…

「定価より高い価格での転売=ただちに違法」ということではありません。ただし、定価より高い価格での販売が「本当に人生で1度きり」との証明ができる人はいないでしょうから、警察の捜査が行われ、「反復継続する意思」があると判断されれば、警察から電話がかかってきて呼び出されたり、最悪の場合には逮捕される可能性は否定できません。

仮に、自分が本当に1回きりのつもりで、定価より高い価格でチケットを売ろうとして、SNS上で呼びかけたとしても、閲覧者によって警察に通報されたり、あるいは当該投稿が捜査機関の目に留まって犯罪の嫌疑ありと判断された場合には、それだけで警察から呼び出しが行われたり、捜査されて携帯電話やパソコンを差し押さえられたりする可能性もあります。

実際に、私が過去に取り扱った実例としても、人気のチケットの応募を、複数アカウントを作成して大量に行い、当選した中でもっとも良い座席のチケットのみ自分で使用し、それ以外のチケットを定価以上の価格で転売するという行為を数回行った人が逮捕され、罰金刑となり前科がついてしまったという事例があります。
(永岡孝裕弁護士)


■チケット詐欺にあわないために

SNS上での他人へのチケット転売(定価か定価以下の場合)自体は「適法」なのは分かった。しかし、買う立場から見れば、定価や定価以下であっても詐欺の心配はある。となると、「詐欺」や「違法転売」にだまされないよう、どのように気を付けるべきなのか。引き続き、永岡弁護士に聞く。

【永岡孝裕弁護士】
まず押さえたいことは「個人情報を安易に発信しないこと」と「リセールサイトの利用」です。

<個人情報を安易に発信しない>
チケット転売に限らず、インターネット上での取引については、安易に自分の個人情報を発信したりしないようにするのが適切です。

<リセールサイトを利用する>
最近では興行主がリセールサイトを開設している場合がありますので、正規のリセールサイトが存在する場合には、それを通じて購入するようにしましょう。正規のリセールサイトからの購入であれば、公演中止等の場合にも正式に払い戻し等の補償も受けることができますし、名義違い等で入場拒否などの憂き目に遭う心配もありません。ただし、正式サイトを模した転売用サイトもありますから、サイト運営者の所在地や氏名等をきちんと確認した上で利用しましょう。


■どうしても買いたい場合は

以下は、決して推奨する方法ではありませんが、リセールサイトがなく、どうしてもSNS等で見知らぬ人から購入したいという場合に注意してほしい点を記します。基本は「支払方法で見極める」ことで、そのポイントは次の通りです。

<人通りのある公共の場でチケットの受け取りと同時に代金を渡す>
相手が極端に先払いにこだわっていたり、自分が手渡し等他の支払方法を提案したにもかかわらず、それを相手が頑なに拒否したりするなど、怪しいと思ったら、詐欺の可能性が高いと判断し、取引はやめるようにしましょう。

<手渡しが難しい場合は銀行振り込みで 免許証などの確認を>
また、遠方等の理由で現金手渡しが難しい場合には、銀行振り込みで取引を行い、口座名義や口座番号を確認して下さい。他人名義の口座を利用している場合も多いため、免許証等の公的な証明書の写真も送ってもらい、銀行口座の名義と一致しているかを確認するのも重要です。免許証まで送らせるのはやりすぎではと思うかもしれませんが、お金のやり取りが発生し、売買契約という契約を行う以上、素性の知れない相手とそもそも金銭のやり取りをすべきではないです。

<プリペイドカード・急がせる相手…取引ストップを>
銀行振込を何かしらの理由をつけて断ってきた上、プリペイドカード番号を教えるよう指定してくる、入金を急がせる、アカウントが真新しいなどの場合も、詐欺の可能性が高いといえますので、取引はやめるべきです。


<電話番号は必ず確認>
そして最も重要なことの一つとして、相手の電話番号を必ず確認して下さい。電話番号は、番号を聞くのみではなく、その番号が相手本人のものであるか否か、必ずその番号に電話して確認しましょう。その際には、前述の免許証等の人物の年齢や性別と一致しているか、違和感がないかも併せて確認し、何か違和感があれば惜しいと思わず取引を中止してください。

電話番号を把握していれば、万が一のトラブルの時に、警察が対応してくれなかった場合でも、弁護士会照会という制度で、弁護士が電話番号の契約者の住所氏名を調査することができます。そうすれば、金を振り込んだのにチケットは送られてこず、返金もなく、かつ警察も動いてくれないという事案であっても、相手方が受領したチケット代は相手方が受け取る法的根拠のない金なので、「不当利得返還請求訴訟」で回収できる可能性があります。


■詐欺はファン心理につけ込む

応援している人気の歌手のコンサートにどうしても行きたい、生で見て応援したいという気持ちは非常によく分かりますし、いつでも参加できるものでないからこそ、定価より高値を払ってでも観劇したいという気持ちもよく分かります。しかし、上記のようなチケット詐欺はそのようなファンの心理に狡猾につけ込む卑劣な犯罪です。犯人もファン心理を理解しており、「どうしても行きたかったが、家族の急病で行けなくなってしまい、チケットが無駄になってしまうのでファンの方にお譲りします。」等と、もっともらしい理由をつけて公演日目前を狙って募集を行っていることが多く、文面から詐欺師かどうかを見抜くことは非常に困難です。

購入した結果、もしチケットが送られてこなかったり、相手がアカウントを削除して逃げてしまった場合には、当然コンサートには行けませんし、お金だけ失った挙句、上述のように警察や弁護士に相談したり、自分で裁判を起こしたりしなければならないという手間と悔しい思いが残ってしまいます。

再転売目的でない限り、チケット転売の購入者側が犯罪になることはありませんが、定価より高い価格で購入する人がいるからこそ、不正転売屋や詐欺師が存在し、購入者が転売屋の存在を助長している側面もありますから、トラブルに巻き込まれないためには、やはり自分で当選したチケット以外は買わない、買うとしても正規のリセールサイトのみを利用して購入するというのが一番です。
(永岡孝裕弁護士)

関西テレビ
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