夏休みの人気観光スポットになっていた石川・津幡町の「大滝観光流しそうめん」で、93人が被害を訴える集団食中毒が発生した。原因は、湧き水に潜んでいた細菌「カンピロバクター」。なぜ涌き水に細菌が混入したのかを追跡すると、ある可能性が浮かび上がってきた。

カンピロバクターによる集団食中毒

「大滝観光流しそうめん」は、石川・津幡町で30年以上続く夏の名物だ。週末には大行列ができるその賑わいをFNNが取材したのは、8月12日。まさかこの日、そうめんを流す湧き水に危険が潜んでいたとは知る由もなかった。

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8月11日と12日に食事をした複数の客から下痢や発熱などの訴えがあり、保健所が流しそうめんなどに使う湧き水を調査したところ、食中毒を引き起こす「カンピロバクター」と呼ばれる細菌が検出された。これまでに93人の患者が確認され、県に相談した人の数は500人にも上るという。

流しそうめんを食べた家族4人全員(夫(34)、妻(38)、長男(10)、次男(7))が食中毒になったという女性によると、湧き水に違和感などは全くなく、「むしろおいしいと感じたくらい」だった。店からは、そうめんをすくう用の箸と食べる用の箸を渡され、使い分けて使用するように言われていたという。女性は、食中毒の症状について「(トイレに行っても)30分後ぐらいにはまたトイレに行って、という感じ。熱はひどいし、下痢もひどい。(熱は)一番高くて39.8度まで上がった」と話す。

小学生の息子たちも38度台と39度台の高熱が出て、その後、腹痛や下痢の症状が現れ、回復まで1週間以上かかったという。女性は、「(息子の)パンツ何回洗ったか、分からないぐらいです。おなかが痛いもあるんですけど、熱がすごく高くなるので、そっちのつらさの方がかわいそうでした」と振り返った。

細菌感染症に詳しい、東京医科大学の中村明子兼任教授は、「カンピロバクターの場合は、普通の食中毒よりも熱が出るということから言うと、症状が重いと言ってよろしいかと思います」との見解を示した。

管から水が噴出…檻にかかったイノシシも

本来、カンピロバクターは、野生動物や家畜などが持っている細菌で、鶏肉などを加熱が不十分な状態で食べた時などに下痢や腹痛、発熱などの症状を引き起こすという。それがなぜ湧き水に混入していたのか。

管から水が噴き出している所があった
管から水が噴き出している所があった

現地を取材すると、流しそうめんの営業は終わっていたが、山から伸びている黒い管からは冷たい湧き水が出ていた。管をたどっていくと、水が噴き出ている箇所を発見した。

現場の映像を東京医科大学の中村兼任教授に見てもらったところ、「ここから水が噴き出しているということは、ここに外部から菌が混入する場所だと考えてもおかしくない」と指摘。「野生(動物)のふん便の中にカンピロバクターが存在していないと言えませんよね。小さなピンホールみたいなとこから菌っていうのは自由に出入りしますから」と説明した。

野生動物の腸内にいるカンピロバクターは、ふん便にも含まれる。自然に24時間さらされた管の隙間から、細菌が湧き水に入り込んだ可能性が考えられるという。

また、地上に見えていただけでも約100mある湧き水の管についても、中村氏は「(管が)長いとそれだけリスクが大きい。地中に埋めた方が安全で、外に出してるとやっぱり野生の動物がかじったり。流しそうめんの場合は、水がやっぱり重要な一つの材料になるわけで、水の管理というのがちょっとお粗末な気がします」と疑問を呈した。

取水口の近くで出くわした檻にかかったイノシシ
取水口の近くで出くわした檻にかかったイノシシ

管が地中に埋まっていた地点から約500メートル山頂側に向かうと、湧き水の取水口だという場所にだどりついた。その近くでは、檻にかかった3匹のイノシシに出くわした。身近に野生動物がいることがわかる。

中村氏は、「やっぱりこういった野生動物の腸には(カンピロバクターが)存在していると考えて、間違いないと思います」と話した。

営業優先し水質検査せず

湧き水を引くルートの途中には、「土砂崩れ危険 立入禁止」と書かれ、入れなくなっている場所もあった。さらに、流しそうめんが行われていた木窪大滝のすぐ横には、斜面が大きく崩れている箇所があった。

木窪大滝のすぐ横には、斜面が大きく崩れている箇所があった
木窪大滝のすぐ横には、斜面が大きく崩れている箇所があった

地元の住民によると、土砂崩れが発生したのは7月12日。この日、石川県には線状降水帯が発生し、津幡町は約2700世帯に避難指示が出されるほどの豪雨となり、滝の周辺各地で土砂災害が起きていた。この豪雨の影響で、湧き水にカンピロバクターが混入した可能性も指摘されている。

流しそうめんの運営会社は、謝罪コメントを出した上で、「7月中旬に発生した線状降水帯の影響により、塩素投入装置が被災し、急ぎ復旧させましたが、営業を優先し、営業開始前に水質検査を実施しなかったことが今回の事態を招いてしまったと考えています」と説明した。

7月の豪雨で湧水を消毒する装置が被災し、例年行っていた営業開始前の水質検査を実施していなかったという。運営会社によると、2023年度の水質検査は食中毒が起きた後の8月16日に実施された。

水質検査は時期を問わず、年に1回以上行えばルール違反にはならないという。石川県健康福祉部・事業衛生の出雲和彦担当課長も「食品衛生法では、営業者は1年に1回以上、水質検査を含めた衛生管理を行う必要がある。(実施する時期の指定は)ない」としている。

一方、食中毒になった客側は、「水の検査とか環境を整えてると信じて行って、それでも検査してなかったっていうのがあまりにも衝撃的過ぎて、せっかくの夏休みが体調不良で、家族の思い出がなくなっちゃったなぁって」と思いを述べた。

9月も食中毒に厳重警戒

夏休み終盤を揺るがした集団食中毒。しかし、専門家は8月以上に9月こそが一般的な食中毒の危険な時期だと指摘する。

中村氏は、「真夏の暑い時は『食中毒を起こしちゃいけない』とすぐ残り物を冷蔵庫にしまうとか、室温に放置するなんてことはしないのに、9月ぐらいになると朝晩はちょっと涼しくなり食品の扱いがちょっとずさんになる。(9月は)食中毒にむしろ気をつけなければいけない月」だと注意を促す。

やりがちなことで特に注意が必要なのが、カレーやシチューなどの煮込み料理の管理だ。鍋に置いたままにしておくと、冷める際に食中毒の原因となる「ウェルシュ菌」が増殖する。ウェルシュ菌は、100℃で1時間の加熱にも耐え、一度菌が繁殖してしまうと再加熱しても死滅しないため、作り置きのカレーなどを食べる際は、粗熱が取れた状態で小分けにし、冷蔵庫に入れることが大切だという。
(「Mr.サンデー」9月3日放送より)

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