自民党独自のルール「比例73歳定年制」めぐる世代間闘争

自民党内で適用されている、衆院選の比例代表の「73歳定年制」が、国会閉会後もベテラン議員と若手議員の間の対立の火種となっている。

自民党の現在の規定では、党内の「世代交代」を促す目的で、73歳以上の衆院選候補者は比例代表への重複立候補が認められず、小選挙区で敗北した場合、比例復活当選ができないことになっている。これは小泉政権の時から適用された、自民党独自の決まりだ。

この規定について党内のベテラン議員らが、「政府が人生100年時代を唱える中で年齢により“差別”を行うのはおかしい」と廃止を求めたのに対し、定年制維持を求める若手議員らが猛反発しているのだ。

自民党本部
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定年制廃止へ動き出したベテラン議員

6月12日、自民党の衛藤征士郎元衆院副議長(79)と平沢勝栄広報本部長(75)が、二階幹事長(81)や下村選挙対策委員長(66)と面会し、定年制廃止を直訴した。両氏は、「いやしくも候補者にハンディを附すことは著しく平等を欠く」「年齢によって優劣の差を条件にすることは、議会制民主主義に著しく逆行する」として定年制廃止を求めた「有志議員一同」名での要請書を提出した。

要請後、衛藤氏は記者団に対し、二階幹事長も定年制廃止について「当然じゃないか、当たり前じゃないか」と述べ賛同したと強調した上で、次のように若手議員をけん制した。

衛藤征士郎議員(自民党本部・6月12日)
衛藤征士郎議員(自民党本部・6月12日)

「あえて若手の候補者に一言申し上げたい。高齢者の高き志に対し、果敢に挑戦し、圧倒する意気込みと迫力を示してほしい」

若手議員らがベテランに反発

こうしたベテラン議員らの動きに対し、党内の若手議員らはすぐさま反発した。ベテラン議員らによる申し入れの直後、若手議員中心の青年局が議論を行い、小林史明青年局長(37)が、73歳定年制の維持を下村選対委員長に申し入れた。

小林局長は、その後の記者会見で次のようにベテラン議員を批判し、挑発的とも言える言葉で、定年制廃止への「断固反対」を強調した。

「コロナにおいて大変国民が厳しい状況にある中で、国会議員の立場を守るための議論が行われていることに正直、優先順位が全く違うと驚きを隠せない。新しい課題を解決したいと国政に挑戦してくる新しい方々に門戸を開くことが優先順位は最も高い。高き志を持っている先輩方にはぜひ堂々と小選挙区で戦っていただきたい

小林青年局長 自民党本部・6月12日 
小林青年局長 自民党本部・6月12日 

会見に同席した若手議員からも次のように、定年制維持を求める声が相次いだ。
「厳しい初陣を戦う人たちが国民の負託に応えるためには比例の枠を活用することもある」
「比例には選挙が脆弱な若い人たち、女性に枠を設けるべき」
「(定年制)導入の際には中曽根元総理や、宮沢元総理にも引退いただいた、ある意味多くの血を流した制度だ」

ある青年局所属議員は「ベテランは余人を持って代えがたいと言う人もいるが、選挙で選ばれているんだから誰だって余人を持って代えがたい」と強調している。現時点で73歳以上の自民党国会議員は、党の全議員の1割以上を占めていて、若手議員には党内の「世代交代」への期待の声が強い。

自民党幹部の反応は二分

この「73歳定年制」をめぐるベテラン議員と若手議員の真っ向からの対立に、党幹部である二階幹事長と岸田政調会長(62)の意見は真っ二つに分かれた。

二階幹事長:
「上の年齢なんかとやかく言うべきではなくて、選挙があるから、選挙がすべてではないか。年齢制限よりも選挙に勝つことが大事ではないか」

二階幹事長定例会見・6月15日 
二階幹事長定例会見・6月15日 

岸田政調会長:
「定年制を設けることによって、選挙基盤の弱い若手や、多様な人材により大きなチャンスを与えるという趣旨で設けられていると理解している。そういったことから意味はあると思っている

岸田政調会長定例会見・6月15日 
岸田政調会長定例会見・6月15日 

廃止賛成の二階氏と、廃止反対の岸田氏。両氏は去年の人事での幹事長ポスト争いや派閥所属議員の選挙区調整、さらにポスト安倍をめぐっても緊張関係にあるが、この定年制をめぐっても真っ向対立する形となった。

閣僚も賛成・反対分かれ“閣内不一致”に

今の安倍内閣の閣僚の中でも、それぞれの立場により意見が分かれた。定年制廃止に賛成の立場を示したのは竹本直一IT相(79)だ。かつて73歳を目前にして比例復活したこともある竹本氏は12日の記者会見で、閣僚としてではなく個人の見解として次のように述べた。

竹本直一IT相(79)
竹本直一IT相(79)

「そもそも年齢制限があるという国はあまりないんじゃないか。100歳までの人生設計を考えることを国政でやらなきゃいけないという時に、年齢で除くというのはどうかと個人的には思っている」

一方、定年制維持を明確に主張したのは小泉進次郎環境相(39)だ。小泉氏もかつて青年局長を務めた上、この定年制を導入したのは父の小泉純一郎元首相だったという経緯もある。小泉氏は会見で、「これは自民党の青年局魂が発揮されるところだと思う」と述べた上で、次のように廃止反対を訴えた。

小泉進次郎環境相(39)
小泉進次郎環境相(39)

「小選挙区は定年ありませんから。人生100年時代と合わせて今回の比例の定年制を見直せという動きがあるそうですが、小選挙区であれば人生100年時代という以上に、100歳であっても200歳であっても、小選挙区は定年制がありませんから。だから私は反対です」

党幹部への直訴“第2ラウンド”が同日に勃発

このように閣僚も参戦し賛否が入り乱れる中で、党執行部への働きかけをめぐる戦いの第2ラウンドが始まった。

小林氏率いる青年局は18日、自民党幹事長室、下村選対委員長、岸田政調会長に対し、再度申し入れを断行した。73歳定年制が堅持されることで、女性をはじめとした多様な人材が登用されやすくなると論陣を張り、地方議員らも含めた青年局の総意だと主張した。

一方で同日夜、二階幹事長と食事を共にしたのは衛藤氏、平沢氏ら定年制廃止を唱えるベテラン議員たちだった。「能力ではなく、年齢で一律に差別されるのはおかしい。選挙にはどうしても不確定要素がある。比例復活の保証があるかどうかでは安心が全然違う」と力説した出席者の1人は、二階幹事長が「不退転の決意で(定年制廃止を)やる」と明言したと廃止への自信を見せた。

平均寿命が延び、頭脳明晰なベテラン議員も活躍している中で、「年齢だけで差別されるのはおかしい」と訴えるベテランたち、一方で「世代交代への逆行」だと異を唱え、多様な人材が登用されやすくする定年制の重要性を訴える若手たち、どちらの意見も十分傾聴に値するだろう。

党内の世代間闘争にポスト安倍をめぐる政局的要素も絡み始めたこの議論。秋にも解散総選挙が行われる可能性が取りざたされる中で、どのような結論に至るか議論の推移を見守りたい。

(フジテレビ政治部 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部