インドネシアで、主要20カ国・地域の首脳会議「G20サミット」が開かれた。3年ぶりとなった日韓首脳会談、米中首脳会談など、注目の首脳会談について東アジアの安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センター特任助教の山口亮氏の解説だ。

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日韓関係について

13日にカンボジアで開催された、ASEAN(東南アジア諸国連合)の会合。各国首脳が個別の会談を行う中、岸田首相は韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。日韓首脳の会談は、約3年ぶりのことだ。

日韓の最大の懸案は、いわゆる“徴用工問題”。「戦時中に強制労働させられた」と主張する韓国人らが起こした裁判で、2018年に韓国の最高裁が日本企業に対して賠償を命令したが、すでに「解決済み」として支払いを拒否する日本側と韓国側の対立が続いていた。

両国は今回の首脳会談で、「懸案の早期解決を図ることで改めて一致した」としているが、具体的な内容などは明らかになっていない。

(Q.徴用工問題は解決に向かうのでしょうか?)
東京大学 山口特任助教:
解決にどう向かうかは、韓国がどう動くかにかかっています。具体策が示されていないのも問題だと思いますし、『解決』の定義が日韓の間で一致しているかが不明です。日韓関係は常に韓国の内政に振り回されるので、これが長期的に続くかどうかも懸念点です。政権交代すればまた振り出しに戻ってしまう可能性もなくはないので、まだ出発点にしか立っていないと思います

(Q.日本側は、解決策が明示されない限り会談をすべきではないとしていた時期もありましたが、今回はなぜ会談したのでしょうか?)
東京大学 山口特任助教:
徴用工問題を含め、日韓関係のさまざまな問題は解決しなければならないんですが、それと同時に、北朝鮮の軍事的脅威や朝鮮半島情勢の緊張が高止まりしています。また中国の戦略と動向や、朝鮮半島有事と台湾有事の連動性のこともあり、日韓と日米韓の安全保障の連携と協力が不可欠だということで、この会談に踏み切った面もあると思います

中国について

ASEANには中国の首脳も出席していました。李克強首相と立ち話をした岸田首相は、「建設的な日中関係の構築に向け努力したい」と伝えたということだ。

しかしその後開かれた「東アジアサミット」で、岸田首相は中国を名指しで批判。海洋進出を進める中国を強くけん制し、「東シナ海では、日本の主権を侵害する活動が継続・強化されている」などと指摘した。

(Q.中国の李克強首相が同席している中での発言ですが、ここまで強く出たのにはどんな狙いがあるのでしょうか?)
東京大学 山口特任助教:
政権運営上、強気に出なければいけないという面はありますが、それ以上に、中国の戦略と行動が高圧的で強行的なものになってきているので、くぎを刺す必要があるということが大きいと思います。また、同席しているインド・太平洋諸国には、中国に対して不安を抱いている国もありますから、日本としては足並みをそろえるだけでなく、安全保障の観点からリーダーシップを取ろうとしているのではないかと思います

関西テレビ 神崎デスク:
ASEANの会合の中では中国の経済的な影響が大きいので、これまでは名指ししないことが多かったんですが、8月に日本の排他的経済水域の中に中国の弾道ミサイルが落下したこともあり、今回は強く出ようと中国を名指ししたんだと思います。ASEANの中でも温度差があり、今回の議長国のカンボジアなど中国の影響を受けている国もある一方で、シンガポールやインドネシア、ベトナムは中国に対して強硬姿勢を取っています。また『東アジアサミット』というのは参加国が多く、韓国やオーストラリアも入っているので、言いやすい環境のところで中国に厳しく出たんだと思います

米中会談

「G20サミット」の場では、バイデン大統領と習近平国家主席による、対面形式では初となる米中会談も行われた。

課題が山積みとなっているアメリカと中国だが、中でも台湾有事に関しては、「侵攻なら防衛」と強くけん制してきたバイデン大統領に対し、習近平国家主席は「内政干渉だ」と強く反発していた。
今回の会談では、この台湾情勢を巡る“レッドライン”の協議が行われた。

(Q.レッドラインの協議とは)
東京大学 山口特任助教:

米中関係にはいろいろな問題があり、たくさんのレッドラインがあります。台湾問題に関しては、軍事的なものだと台湾上陸、海上封鎖、ミサイル攻撃、サイバー攻撃などです。

アメリカ中間選挙の影響は

複数のアメリカ主要メディアは16日、定数435の下院で、野党・共和党が218議席を獲得し、多数派を奪還したと報じた。

一方、トランプ前大統領は、自身の推薦する候補を各地に擁立し、共和党の陰の主役として存在感を示していたが、ネバダ州、アリゾナ州、ペンシルベニア州といった激戦州で“トランプチルドレン”が次々と敗北。党内ではトランプ氏の責任を問う声も出ている。

こうした中、トランプ氏は2年後に行われるアメリカ大統領選への再出馬を表明した。

(Q.アメリカ大統領選は、今後の東アジア情勢にどんな影響があるとみますか?)
東京大学 山口特任助教:
今回の選挙は、どちらかというと内政へ影響するものだと思います。東アジア情勢に関しては、短期的にはそこまで変わらないのでは。ただ、この選挙の結果に、中国や北朝鮮、ロシアがどう動くかは一つの注目点です。それに対してアメリカや日本、韓国がどう対応するかも一つの焦点になります

(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月14日放送)

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