突然配信された安倍首相による動画メッセージ

「最後となりましたが、今晩8時から山中伸弥先生と一緒に皆さんからいただいたご意見などにお答えする番組を放送する予定です」

“国民の意見に答える番組を放送する”と突然宣言した安倍首相のメッセージが6日昼、インターネット番組で配信された。安倍首相が、このような形でインターネット番組の生放送に出演するのは初めてのことだ。「インターネットは、自由な空間。既存メディアの発想には、まったく、とらわれない。SNSなどを通して、誰もが、自由に、自分の意見を表明できる」との安倍首相の言葉通り、番組では首相に対し様々な声がリアルタイムで寄せられた。

番組で安倍首相が対談したのは、ノーベル医学生理学賞受賞者で京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授。山中氏は感染症の専門家ではないものの、自身の強い危機感からブログやSNSなどを通して、日々コロナウイルスに関する情報発信を行っている。番組では、ウイルスの有無を調べるPCR検査体制の拡充や緊急事態宣言の解除の判断基準、五輪開催に向けた治療薬やワクチンの開発状況などストレートな質問が首相にぶつけられた。

日本の検査体制めぐり山中教授が首相に“提案”

「日本のPCR検査数は諸外国と比べ少ない」との声に対し、安倍首相は、「特に東京を中心に、目詰まりがある。保健所の業務過多や検体採取態勢に課題があるのは事実なので、早急に強化したい」と述べた。そして、インフルエンザ検査と同様の検査手法である「抗原検査」について、近く実用化すると明らかにした。

(インターネット番組ニコニコ生放送  安倍首相に質問!みんなが聞きたい新型コロナ対応に答える生放送)

すると、山中教授が“提案がある”と切り込み、自身が所属するiPS研究所にはPCR検査ができる機械が30台あることを説明した上で「自粛要請により実験をせず在宅している研究者をうまく活用すれば、検査能力は10万件にも拡大できる可能性がある」と述べたのだ。視聴者からは、「ほう!」「ふむふむ」「いい提案」といったコメントが寄せられた。安倍首相は「あの、是非あのそういう調整もさせていただきたい、活用したいと思う」と理解を示し、ネット上は「言った」「完全に一致した。あとは調整」「前向きだ」といったリアルな声で溢れた。

“解除基準がないとどこに向かって頑張れば”との声に首相は…

続いて、緊急事態宣言の解除に関し「明確な数値がないとどこに向かって頑張ればいいのか分からない」という質問が取り上げられた。その途端、コメント欄は「いい質問」「数値を」「質問にこたえて!」といった声が絶えなかった。というのも4日に行われた記者会見で、安倍首相は「5月は出口に向かってまっすぐ進んでいく1ヶ月だ」と力強く述べたものの、明確な“出口戦略”が示されなかったためだ。

こうした視聴者の注目が集まるなか、安倍首相は「専門家はギリギリまで分析し、基準を作りたい意向だ」としつつも「早期に解除の基準を作って欲しい」と述べ、専門家らに作成を依頼する考えを示した。すると、「明言した!」「準備中か!」「もっと早く」といった声があがった。ただ、この基準の策定には課題があることも以下のやりとりで浮き彫りになった。

山中教授:
「『R』(=1人の感染者が何人に移すかをあらわす数値「実効再生産数」)をできるだけリアルタイムに首相に報告するという体制が今一番必要ではないかなと。ぜひこの「R」が、ドイツとかほぼ毎日ぐらい出していると思うので、専門家が首相に毎日報告すると、『さあ安倍首相決めてください』という体制が日本も必要だと」

安倍首相:
「3月14日においては東京は(Rが)2.6だったんですね。それが一時は0.5近くまで下がっています。日本全体で見ると0.7までは下がってきています。これをしっかりと下げていきたいというのと、実効再生産数を正しく見るためにはですね、保健所が大変だと思いますができるだけ頑張ってですね、その日その日の数値を出していただきたいと」

安倍首相は、政府が実効再生産数を示せないのは「東京都の日々の新規感染者数が正確に報告されていないためだ」と説明したが山中氏は、「今、自粛に協力するために仕事をしたくてもできない優秀な(研究者)方がいる。こうした人材を活用することで、保健所や厚労省の過重労働もましになるし、より正確な『R』を正確にリアルタイムに出せる。それにより安倍首相の政策判断も科学に基づいて迅速にできる体制になる」と要望した。

山中氏“幸運が重ならない限りワクチンだけでは五輪開催は難しい”

「来年に延期された東京五輪の開催までに、ワクチンが開発される目途はあるのか」との質問に対し、安倍首相は「レムデシビル」や「アビガン」、またアフリカなどで寄生虫による感染症の撲滅に効果をあげている「イベルメクチン」などに言及し、「五輪成功のためにも、治療薬やワクチンの開発を日本も中心になって進めていきたい」と述べた。

これに対し山中教授は、「人間の大移動が起こる大会を可能にするだけのワクチン量を1年で準備できるかというと、これは研究者として、率直に、かなり幸運が重ならない限りワクチンだけでは難しい」と述べた上で、今月中の承認を目指すと首相が表明した国産の「アビガン」について、「何とか首相の鶴の一声でやっていただけないか。特に日本は五輪という大きな目標があるので、これを実現させるためには相当普段と違うことをやらないと駄目な状態だと思う。ぜひ首相にもうひと頑張りしていただきたい」と早期承認を切望する場面もあった。

レムデシビル

国民への“発信”に苦戦 非常事態で求められるリーダー像

新型コロナウイルスの対応をめぐり、安倍首相は国民への発信方法に苦戦している。新型コロナウイルスに関してこれまで6回記者会見に臨み国民に対して説明を行っているが、国民からは“総理の思いが伝わってこない”といった声が出ている。

ちなみに今回の企画を担当したのは、“星野源さんとのコラボ映像”を発案したとされる関係者とは別の政府関係者だ。ゴールデンウイークの外出自粛に緩みを生じさせまいと企画されたものだということだが、海外で実践されているような国民との対話型の発信を行うことで、政府と世論の乖離を埋めたいとの狙いもあったのだろうか。

国民が求めているのは、国会で官僚の作った応答要領通りに答える首相でもなく、記者会見の冒頭などにおいて用意された原稿をきれいに読む首相でもなく、国民に寄り添いその疑問に正面から答える首相の姿だろう。安倍首相がインターネットやSNSを駆使し、リアルで真摯な思いを発信できるなら、そのメッセージは国民の心によりストレートに届くのではないだろうか。

(フジテレビ政治部 総理番記者 阿部桃子)