新型センチュリーお目見え
4月13日朝、安倍首相が首相官邸に入る様子に大きな変化があった。この日、政府の「総理大臣専用車」がリニューアルされ、安倍首相は新たに専用車となった最新型のトヨタ・センチュリーで官邸に登場したのだ。
この記事の画像(7枚)首相の専用車は、戦前から長らくアメリカ製の車が用いられていたが、佐藤栄作首相の頃から国産車に切り替えられ、長らくトヨタの最上位モデルであるセンチュリーが使用されてきた。その後、2008年の福田康夫首相在任時に、北海道洞爺湖サミットにあわせて低燃費で環境性能に優れた特性ゆえにトヨタのレクサスが新たに導入されると、第2次安倍政権下の2015年にレクサスLS600hLにモデルチェンジされ直近まで使用されてきた。
しかし、今回のモデルチェンジをもって、伝統あるセンチュリーが復活した形だ。今回、5年ぶりに専用車がモデルチェンジされた理由を内閣府に問い合わせたところ「走行距離や車両の状況などを総合的に鑑みた」ということで、車種の選定は「環境性能などを踏まえ各種比較検討した結果」だという。
政府関係者によると、今回のモデルチェンジは2年ほど前から調整されており、所要の改造などを経て3月末に納車され、運転手の訓練が終わったタイミングで運用が開始されたという。また、別の関係者は、去年の天皇陛下の即位パレード「祝賀御列の儀」に用いられたオープンカーが、同じく新型センチュリーをベースに改造したものだったため、メーカーが総理大臣専用車を改造生産するのに時間を要したと語る。
なお、先代のレクサスは廃車とはならず、今後も予備車として保有されるという。
総理車は防弾?防爆?気になる特殊装備は
では、その首相の専用車はどんな特別なものなのか。専用車ならではの装備として外見上わかるのは、フロントグリル(車全面の網部分)の青色灯のほか、奉祝行事等での国旗掲揚に使う器具や、警護官向けの助手席用ミラーくらいで、ほかは一般的なセンチュリーと変わらないように見える。
そうなると、専用車ならではの目に見えない特殊装備、とりわけ防弾仕様なのかはたまた防爆仕様なのかなどが気になるところだ。政府関係者は「セキュリティ上、詳しくはお答えできない」としつつも、「少なくとも防弾仕様だ」と明かしてくれた。
一方で、完全な防爆仕様の場合は、車両底部に厚い鉄板を敷くなどの改造が必要となるため、車体重量が重くなり、燃費や走行音の面で普段使いには向かないという。かつての小泉政権のメールマガジンでは、当時の専用車は「防弾ガラスや特殊鋼でつくられた」とされているが、首相が毎日使う車にどこまでの特殊装備が施されているのかは、謎に包まれている。
さて気になる乗り心地だが、実際に新しい専用車に乗ったことのある首相周辺に話を聞くと、「特に(先代との)違いは感じられなかった」とのことだった。
ナンバーは?内部は?首相専用車のトリビア
首相専用車としては、前述の通り、現行のセンチュリーのほか、歴代のレクサスやセンチュリーも予備車として複数台が活用されている。例えば首相が地方で視察を行う場合、現地での移動には、セキュリティの観点から、わざわざ東京から回送させた予備車が用いられる。
首相専用車のナンバーは原則として、現行の「20-00」、先代の「50-00」のように“キリ番”となっている。なぜキリ番なのか気になるが、内閣府担当者によると「伝統を踏襲している」ということで、明確な理由はわからないそうだ。今使われている「20-00」には特段の意味は無く、「空いているキリ番をあてがった」という。
専用車の前後を挟む警視庁の警護車両は、運転技能に長けた担当の警護官(SP)が運転するが、専用車そのものの運転は専門の訓練を受けた職員(技官)が担う。この技官には、当然ながら首相の会話が筒抜けであるため、セキュリティの観点から身元は明かされない。隣に座るのは首相警護の指揮を執る警護官だ。そして、後部座席に首相夫人が乗らない場合、首相秘書官が交代で同乗する。
車内には後部座席で視聴できるテレビが装備されているほか、新聞各紙が用意され、移動中も首相は情報収集にあたっているという。関係者によると、首相はタイトスケジュールのため、移動中も首相への「レク」(秘書官による説明)が行われ、次の日程で行うスピーチの読み合わせなどを行うこともあるという。選挙の際、専用車の中を垣間見る機会があったが、次の遊説場所に関する歴史や特産品などの資料が積んであり、移動中に演説準備を行っていることがわかった。
外国首脳の専用車は?
一方、外国要人が来日する際は、自前の専用車を空輸してくるアメリカやロシアなどを除き、原則として日本側が専用車を手配することとなっている。そのため、政府は外国要人向けに、“最強の防弾仕様車”と評される、メルセデスベンツの最高峰「マイバッハ」の防弾仕様車、また防爆仕様の施された警護車両などを保有している。そして、どの車があてがわれるかは、警備体制も勘案した各国の“待遇”による。
韓国・文在寅大統領のように防弾のマイバッハが用意されるときもあれば、多数の国が集まる「アフリカ開発会議(TICAD)」や「太平洋・島サミット(PALM)」では、各国にセンチュリーやクラウンの一般ハイヤーがあてがわれていた。かたや、国賓待遇の場合は、天皇皇后両陛下が乗られる宮内庁の御料車が提供されることもある。このように、専用車一つとっても、その国への接遇基準を垣間見ることができ、興味深い。
各国の自動車メーカーが競い合う中、「日本の首相が乗る車」というのは国際的にも一つのステータスといえ、重要な意味合いを持つといえるだろう。未だに謎の多い専用車だが、少しでもその秘密を紹介できたならば幸いだ。
(フジテレビ政治部 山田勇)