緊急事態宣言で続く休校の間、「家の中でどう学ぼうか」と悩んでいるのは中高・大学生だ。シリーズ第3回のテーマは、中高・大学生を対象にした「家にいて英語ネイティブ脳みそになる」。前回に引き続き「英語ネイティブ脳みそ」の著者で、日中英のトライリンガルである白川寧々さんに、ご自宅のあるサンフランシスコから様々なヒントを伺った。

ダラダラしつくさないと、出ないやる気もある

「英語ネイティブ脳みそ」著者の白川寧々さん
「英語ネイティブ脳みそ」著者の白川寧々さん
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――さて、第3弾はティーンに向けた「英語ネイティブ脳みそになる」です。中高生や大学生にとってこの時期は、本来であれば新しい学生生活が始まる一番楽しい時でしたね。

白川さん: 
中高生も大学生も、休校を期に好きなことをたくさんやって充実している場合もあれば、不安や焦燥にかられているパターンもあるかと思います。楽しい人も苦しい人もいるけど、いずれの場合も「普段と違うことをやってみることで世界の見え方を変える」ことをオススメしたいです。特に焦燥感を抱えている場合は、生産性がないからって自分を責めないでほしい。ダラダラしつくさないと、出ないやる気というのもあるのだから。

――コロナがいつ終わるのか、わからないのは辛いですけど、必ず終わりがくると信じて普段と違う時間を楽しむことができればいいですね。英語の学びも。

白川さん:
英語力というのは、自分の背丈より高い階段を登るように上昇するので、1つのレベルでしばらくウロウロしたあと、急にぱっと世界が明るくなることの繰り返しです。英語「を」ではなく、あえてちょっと難しく見える英語「で」学ぶ動画で思考の幅を広げて自信をつけてもいいし、ちょっと日本語字幕を見ながらでもいいし、好きなマイナー動画を飽きるくらい見たっていいです。なんでもいいから世界を広げて「好き」を大事にしよう。そしてできることなら目標を立てて友達を誘って一緒に挑戦してみるとモチベーションが続きますよ。

「観なきゃ」で慌ててポチるよりリストを見る

――友達と会うのもままならないけど、オンラインなら一緒にできますよね。英語で学ぶのであれば、ぜひ海外の大学の授業にも挑戦してほしいです。

白川さん:
インターネットにさえ繋がっていれば、どんなに有名難関大学のすごい教授の授業でも、無料ですぐに聴けるのが当たり前になったのがMOOC(Massive Open Online Course)黎明期の2012年頃ですね。

――コロナの影響でこの動きはさらに広がっています。

白川さん:
全世界的な休校で、世界中の有名大学が公開動画を増やしたようですが、せっかくですから「観なきゃ」と慌ててポチるよりも、「どんな大学がどんな学問の講座を公開しているのかな」とリストを見ることから始めてはどうでしょうか。イエール大学の有名な「音楽鑑賞のお作法」「幸せについて」「死について考える」などの名物授業など、「そんな学問あるの?」と、リストを眺めるだけで好奇心が膨らむこと請け合いですよ。

MITは講義ノートや動画を無料公開

――時間はたっぷりあるので、まずはいろいろ見て面白そうな物をピックアップすればいいですね。

白川さん:
本当に気に入ったらedXやCoursera(※)に課金して、修了すればオンライン単位が認定されます。このご時世だし体力が有り余っている、やる気のある人は、将来のために是非検討してみてはどうでしょう。オンラインとはいえTA(ティーチング・アシスタント)がつく講義もたくさんあるので、思ったよりインタラクティブですよ。

(※)大学の授業をオンラインで提供する米団体

――白川さんの卒業校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)は、かなり動画配信に力を入れていますよね。

白川さん:
MIT は20年も前から、ほぼすべての講義のノートや講義の動画をオンラインで無料公開しています。またMITでは、小中高生にSTEMに興味を持ってもらおうと、学生がクリエイティブかつ身体を張って作っている動画シリーズ「MIT K-12Videos」があります。Youtubeに公開されてます。わかりやすい上に「へええ」となること間違い無いです。

「これだけで学校教育終わりでいいんじゃね?」

――ほかに中高生以上が、英語「で」勉強するのにおススメのコンテンツはありますか?

白川さん:
TED Educationは、TEDの良質な教育コンテンツ、そしてアニメーション。3分とか5分でいろんなモノの仕組みを解説してくれるうえに、教育者用の質問集もついています。Khan Academyは、全世代向けにあらゆる知識を教えてくれる動画集でしたが、いまや「これだけで学校教育の学習は終わりでいいんじゃね?」的な素敵ツールに大変身を遂げました。SATなどの試験対策まで揃っているので、海外進学を狙っている組はぜひ。

――「終わりでいいんじゃね?」ですか笑。

白川さん:
Crash Courseはベストセラー作家のジョン・グリーン氏のチームがやっている、かなり内容が深い上にエンタメ性が高い学習動画です。無料かつ秀逸。英語字幕は完備ですが動画は早口。「へええ」感も当然高いのですが、これを完全に聴き取れれば、TOEFLやIELTSのリスニングは余裕ですね。

(画像はイメージ)
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「自分を主語にする」英語習得が大事だよ

――では最後に社会人も含めた「英語ネイティブ脳みそ」の作り方について伺います。白川さんは自分のオンラインサロン内で、幅広い層を対象に、「ねねみそ」ブートキャンプを行っているそうですね?

白川さん:
私は「国外逃亡」を志して海外進学を目指す、あらゆる世代の人たちのためにサロンをやっていますが、コロナによる休校や在宅勤務で大変なことになっているメンバーのために、何か出来ることはないかと考えました。そして「ねねみそ」メソッドをサロン限定で始めたのが、ブートキャンプです。年齢も10代から50代くらい、英語力もほぼ留学できるレベルから「割とこれから」までかなりバラバラですね。「ねねみそ」は拙著『英語ネイティブ脳みそのつくりかた』の愛称ですけど、「ねねみそ」では、「自分は英語でどんな人間になりたいのか」とか、「英語を使えるようになって何を話したり聴いたりしたいのか」など、「自分を主語にする」英語の習得が大事だよといつも語っています。

主体性を信じ、レベル設定も仮題も参加者に任せる

――ブートキャンプというと、アメリカ軍の新兵訓練プログラムを指しますが。

白川さん:
ブートキャンプというのは、短期集中でわざとキツめのことをして、参加者のマインドセットや行動パターンを半永久的に変える意味があります。私は英語をオンライン授業や補習塾みたいにやる、気の長さがないので、ひたすらマインドセットと学び方が定着するモデルを考えました。結果的に私にとっても参加者にとってもブートキャンプが楽しいものになったのは、参加者の主体性を信じ、レベル設定も課題も参加者本人に任せたからだと思います。

――ブートキャンプの具体的な方法は?

白川さん: 
オンラインの授業動画やスピーチ、英語の本やニュースなど「ネイティブスピーカーが利用している英語のコンテンツ」からメンバーが個人的に好きなものを選び、それについて自分の言葉でまとめて動画を作成して提出とか、自分の好きなTEDトークを3分間分だけ完コピして吹き替え動画を作って提出とか、そういう課題を出します。そして提出された作品をみんなで鑑賞して、私だけでなく他のメンバーもフィードバックしたりして、また次の課題を出すという繰り返しです。

「勉強する科目」から「自分らしく生きる手段」に

――そうすると大学のゼミに近い感じですかね?

白川さん:
そうなんです。英語がどうのっていうより、みんな面白さに走り出すのが狙いです。たとえば動画で気合の入ったコスプレで登場する子もいるし、親子合作のTEDトークもあったし、英語を使って英語力以外の自分らしさを表現して、それが受け入れられるという経験が、根本的に人と「英語」との関係を、「勉強するための科目」から「自分らしく生きる手段」に変えます。もちろん、その過程で英語をたくさん聴いたり内容を考えたりと、長時間英語に触れて使用するので英語力の向上になります。

――このメソッドは白川さんが発明した物ですか?

白川さん:
これは別に私が発明した思想ではなく、Challenge Based LearningやInquiry Based Learningという最近注目を集めている学びの方法です。参加者からも「最初はTEDの完コピとか、ネイティブスピードの動画を観まくるとか無理!と思っていたけど、好きなトピックだったら意外とできた」とか「4日やっただけなのに、終わったあとで英語の聞き取りが意味ごと入ってくるようになった」と、自分の能力に意外な自信をつけてくれたのはやっぱり嬉しかったですね。

コロナ以前の「普通」は戻ってこない

――「好きこそ物の上手なれ」と言いますけど、やはり英語でも主体的であることが学びの早道ですよね。

白川さん:
プロジェクトや作品を作る過程で身につけた知識や、自分の理想や憧れと関係のある知識は頭に定着しやすいです。「言語習得のあたりまえ体操」ですね。私は毎週1時間しか参加者を拘束していないし、参加者は完全にオンラインだけでのつながりなのに、こんなに圧倒的なコミットメントと楽しいコミュニティが作れたのは本当に驚いています。挑戦する価値がある課題と、創ったものが正当に評価される場さえあれば、一定割合の人は主体的に全部学べるんじゃないのかなと思うのですよね。

――白川さんの新刊は『国外逃亡塾』(アルク出版)ですが、コロナとともに世界中の価値観も、日本と世界の関係も大きく変わっていきますね。

白川さん:

現状のまま国境封鎖が続けば、どうせどの大学でも、学ぶにしてもキャリアのためのネットワーキングもオンラインで自宅で行われます。そうすると世界のどこの大学の授業も受けられますから、役に立つ方のスキルを身につければいいとなります。また、経済的自由を手に入れやすく、リモートワークができるのは、大抵海外ベースの多国籍企業だと気づきます。物理的にどこにいるかは関係なく、国境や言葉の壁、制度の壁に縛られない生き方を、コロナ前からハードモードだった日本の若い世代に今こそ検討してほしい。コロナが収束していろいろなものが再開しても、もはやコロナ以前と同じ「普通」は戻ってきません。そうすると「普通」にしがみ付くのはやめなさいと、言う必要も薄れたかもしれませんね。

――有り難うございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。