新型コロナウイルスの影響で、いまや神社寺院でさえ近寄ることがままならなくなっている。「大変な時だからこそ神仏に祈りたい」という人々の不安の声をうけ登場したのが、オンラインを利用した神社やお寺への参拝だ。

ITベンチャーが挑戦する「コロナ時代」の新たな「参拝」を取材した。

コロナで参拝客激減・拝観停止相次ぐ

「観光客が来なくなったことから、参拝客が激減した神社やお寺は多いです。また、観光スポット以外のお寺も、日頃お参りに来る檀家さんが激減したと聞いています」

コロナによる神社寺院への影響についてこう語るのは、仏教フリーマガジン「わげんせ」の和栗由美子編集長だ。

大阪の住吉大社は閉門、奈良の法隆寺は拝観を停止、四国お遍路の納経所の多くも閉鎖されている。ほかにも行事や人気の御朱印を中止した神社寺院は数えきれない。

さらにコロナは葬儀や法要にも影響を与えている。

全日本仏教会では、葬儀や法要の実施には「遺族の意向を尊重しながらも、寺院がウイルスの媒介とならないよう」対応を求めている。「首都圏にある一部の納骨堂では、緊急事態宣言が発出されるかもしれないと言われた頃から、法要のキャンセル、参拝中止の準備を始めていました。宣言が出た日には、一斉に法要中止の連絡を施主に伝えたそうです」(和栗氏)

「心の拠り所」を求める人たちは増加

一方でコロナに対する不安から、「心の拠り所」を求める人々は増えている。月間100万人以上が訪れる神社仏閣の検索サイト「ホトカミ」には、多くの困惑の声がユーザーから寄せられているという。

サイトの運営会社「DO THE SAMURAI」の吉田亮代表取締役はこう語る。
「私たちは日頃から『足を運んでお参りする』ことを大切にしていますが、新型コロナウイルスの影響で大変難しくなっています。ユーザーさんからは『子どものお宮参りに行けない』『厄年だけど、まだ厄除けに行けていない』など多くの声が寄せられています」

月間100万人以上が訪れる神社仏閣の検索サイト「ホトカミ」には多くの困惑の声が寄せられる
月間100万人以上が訪れる神社仏閣の検索サイト「ホトカミ」には多くの困惑の声が寄せられる
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Zoomで「オンラインご祈祷」開始

そこでホトカミでは、これまで付き合いのあった神社寺院に、ZOOMやYouTubeでのライブ配信を通じて自宅からご祈祷を受けられる「オンラインご祈祷」の実施を依頼した。4月9日に初めて開催した「オンラインご祈祷」には、8人のユーザーが参加したという。

「開催して頂いた横浜御嶽神社さんに、私も事前にお願い事をお送りし、護摩木(ごまき)にお願い事を書いて頂きました。ユーザーさんの中には、自分のお願い事を祈願する方だけでなく、地球や世界など自分以外の誰かの為の願い事をお願いされている方が半数以上だったのが印象的でした」(吉田さん)

吉田氏の護摩木
吉田氏の護摩木
参加者の護摩木には自分以外の為の願い事が多かった
参加者の護摩木には自分以外の為の願い事が多かった

「不安があるが、ご祈祷を受けて救われた」

9日午後1時から始まった護摩祈祷に、参加者がZOOMを通じたライブ配信で「参列」した。また、リアルタイムで参加できなかったユーザーにも、24時間の限定公開で録画視聴を可能にした。

「介護職で休みがとりづらい中、ライブ配信だから参列できた」という参加者は、「とても感動しました。日に日に増えている感染者の数に不安もありますが、ご祈祷を受けてとても救われました」と述べた。

また「リアルタイムには参加できなかったので、動画配信で参列した」という参加者からは、「直接参拝した時に身心で感じるものにはかなわないと思うのですが、映像から読み取れるものも本当に素晴らしくて有り難かったです」と語った。

Zoomを通じて護摩祈祷のライブ配信が行われた
Zoomを通じて護摩祈祷のライブ配信が行われた

「今だからこそお参りのお手伝いをと」

「オンラインご祈祷」を行った横浜御嶽神社の権禰宜(ごんねぎ)渡邊氏は「オンラインで画面を通してはいるが、祈願者は神さまに対して心を向けお参りして頂きます。これは、『遥拝(ようはい)』する事と同じと考えます」と語る。

「新型コロナウイルスにより大変な状況だからこそ、神仏に祈る。『古より続く祈りを自宅から気軽に出来る様にお手伝いしたい』という思いから、遙か遠くからでも想いを向けて参拝する『遥拝』と「お伊勢参り」などで行われていた『代参(だいさん)』をヒントに、今だからこそお参りなされたい皆様のお手伝いを出来たらと思い始めました」

手探りの中始めた「オンラインご祈祷」だったが、渡邊氏は当初「不安だった」と言う。
「実際に行ってみて不安でしたが、参加された方から『感動して涙が出ました』とご連絡いただき、驚きと同時に『行ってよかった』と感じました。困難な時に結べたご縁を大切に、思いを一つに出来たことを嬉しく思います」

横浜御嶽神社
横浜御嶽神社

オンラインで座禅や写経、仏教講座も

オンラインによる参拝には、すでに全国の寺院から関心が寄せられており、ホトカミでは複数の僧侶たちと毎日のように打ち合わせを進めている。この後も4月28日には「オンライン護摩祈祷」を開催予定だ。吉田氏は言う。

「新型コロナウイルスによる外出自粛の長期化が予測されるなか、ホトカミでは「#おうちで神社お寺を身近に」を合言葉に、神社寺院のオンライン化をサポートし、オンライン行事の情報をまとめた『神社寺院のオンライン行事カレンダー』もつくりました」

「オンラインご祈祷」がきっかけとなり、今後「オンライン仏教講座」や「オンライン座禅会」、「オンライン写経会」や「オンライン古事記講座」なども開催を検討中だ。

「新型コロナウイルスの影響により、これまでなかなかインターネットの活用に積極的でなかった神社寺院が、インターネットを通じて人々とご縁を結ぼうという新たな取り組みが増えています」(吉田氏)

ホトカミでは毎日のように僧侶たちとオンラインで打ち合わせを行っている(左上が吉田氏)
ホトカミでは毎日のように僧侶たちとオンラインで打ち合わせを行っている(左上が吉田氏)

「コロナ時代」の神社寺院との新たなつながり

ホトカミが目指すのは『100年後にも神社お寺を残す』ことだ。

「新型コロナウイルスが落ち着いたら、ぜひ皆さんに神社お寺にたくさん足を運んでお参りして頂けたら嬉しいです」(吉田氏)

「ウイズコロナ」「アフターコロナ」の時代には、これまでと違うかたちで神社寺院と人々がつながっていくのもいいのではないだろうか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。