ドイツは零細企業や個人事業主に「補助金」

「補償はありがたいと思っています。ただ、どうしようもないですから。政治家の方も大変だと思いますが、どうしていけばいいかわからない状況。」

ドイツ・ベルリンで日本料理店「ささや」を経営する佐々木勲さんは、今の心境をこう話してくれた。欧州各国で続く厳しい外出禁止措置。感染リスクに加え、経済面でも多くの人たちが困難を抱え、不安の中で暮らしている。各国の補償制度はどうなっているのか。

ベルリンで日本料理店「ささや」を営む佐々木さん。補助金は出たが「どうしていいかわからない状況」
ベルリンで日本料理店「ささや」を営む佐々木さん。補助金は出たが「どうしていいかわからない状況」
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ドイツでは3月16日にバーやクラブ、スポーツジムが閉鎖、22日には全ての飲食店が閉鎖され外出制限が続く。これに伴い、政府は25日、総額7500億ユーロ(約90兆円)の経済対策を打ち出した。大企業への債務保証に加え、中小企業、個人事業主に対する支援策もとられた。ここではベルリンの例を見る。従業員数が10人までの中小零細企業、個人事業主、フリーランスを対象に、政府から補助金が支払われる。27日より申請が開始された。

補助金の支給は従業員の数によって額面が異なり、
①従業員5人までの企業→ 9000ユーロ(約105万円)
②従業員10人までの企業→15000ユーロ(約175万円)となる。
使用目的は家賃や人件費などの事業費用に限定される。

個人事業主には6か月分、企業には3か月分に相当する補助金が支給される。申請から3営業日で支払われるということだ。中には申請した翌日に支払われるケースもあるという。
(注:これに加え2年間50万ユーロ(約5800万円)まで無利子融資の制度があるが、想定を超える申請があり、現在は停止中。)

次々と先手の対策を打ち出すドイツ・メルケル首相 各国首脳の中でも存在感が際立つ
次々と先手の対策を打ち出すドイツ・メルケル首相 各国首脳の中でも存在感が際立つ

「補助金はありがたい。でも人件費と家賃で消えていく」

ドイツは1月の時点でいち早く感染対策をとったことが奏功し、欧州の中で死亡率がひときわ低く、社会政策への着手も早かった。市民の間ではメルケル首相への評価が高まっている。

「ささや」の店主・佐々木さんも申し込みから3日で入金を確認したとのこと。ドイツの補償制度は「ありがたい」としながらも「補助金で固定費の家賃、人件費などを払っているが、これで大概なくなっていく。自分の生活はこれまでの蓄えでやっていくしかないですね。」と話す。テイクアウトやデリバリーは認められているが、感染リスクがある中、従業員を店に出さなければいけないので現在は控えている。結局、店を休まざるを得ない出口の見えない日々が続く。

店舗閉鎖以前の「ささや」 リラックスした雰囲気で本物の日本料理が楽しめる人気店だ
店舗閉鎖以前の「ささや」 リラックスした雰囲気で本物の日本料理が楽しめる人気店だ

佐々木さんは「自分じゃどうしようもできない。これはどうしようもない。家にいるしかない。鎮まってくれないと困るんですよね。」と今の気持ちを話してくれた。

イギリスは「休業企業」の給与8割を国が負担

続いてはイギリス。
政府は3月17日に総額3500億ポンド(約45.5兆円)の追加経済対策を発表。その3日後には休業に追い込まれた企業への給与補助を発表した。会社の大きさに関わらず、休業を余儀なくされた会社が、従業員の雇用を維持する場合、2500ポンド(約33万円)を上限に給与の8割を負担する。期間は現時点で3月分から6月まで。この制度は一部例外を除き個人事業主も認められる。

ロンドン市内のパブで働くニッキー・エフスタシウーさんは「この制度があるおかげで店も助かっている。給料の8割もらえるし、いつになるかわからないけど、店が再開したらまた働けると思う。」と歓迎する。

ロンドン市内のパブで働くニッキーさん(19)「仕事が維持できて安心」
ロンドン市内のパブで働くニッキーさん(19)「仕事が維持できて安心」

また、中小企業には無利子融資、大企業も含めてVAT(付加価値税)納付の6月までの延期、7月の所得税納付に6か月の猶予を設定するなどの対策がとられる。

外出禁止は延長の方向 人々には「希望」が必要

ロンドン・ウエストエンドの劇場街 人影は消えた
ロンドン・ウエストエンドの劇場街 人影は消えた

もし外出制限が緩和されれば、再び感染が拡大することが懸念され、各国は出口政策をなかなか見いだせない状況に陥っている。

ドイツは4月15日に外出制限を5月3日まで延長することを決定した一方で、飲食店を除き中小規模の店舗については条件付きで営業を認めた。イタリアやオーストリアでも感染者数の減少を受け、一部商店の営業が再開された。欧州では一部の国で経済活動の再開が認められつつあるが、一方で人々の経済的不安や心の荒廃が進めば、外出制限もほころびが生じる。

WHOはワクチンの開発には、少なくとも12か月から18か月かかるとしている。人々がわずかでも希望の光を見出せるような施策をとりながら、根本的な解決を目指す厳しいかじ取りが各国に求められている。

【執筆:FNNロンドン支局長 立石修】

立石修
立石修

テレビ局に務める私たちは「視聴者」という言葉をよく使います。告白しますが僕はこの言葉が好きではありません。
視聴者という人間は存在しないからです。僭越ですが、読んでくれる、見てくれる人の心と知的好奇心のどこかを刺激する、そんなコンテンツ作りを目指します。
フジテレビ取材センター室長、フジテレビ系列「イット!」コーナーキャスター。
鹿児島県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
政治部、社会部などで記者を務めた後、報道番組制作にあたる。
その後、海外特派員として欧州に赴任。ロシアによるクリミア編入、ウクライナ戦争などを現地取材。