東京都に住んでいるのに「きょうからあなたは神奈川県民になって下さい」と言われたら…

これはエイプリルフールのネタではない。東京・町田市と隣接する神奈川・相模原市では、その一部地域の住所を入れ替えることをご存じだろうか。簡単に言うと、今まで東京都だったところが神奈川県になり、その逆の現象も起きるというのだ。

町田市によると、この境界変更は2019年12月23日の市議会本会議にて全員一致で可決され、すでに東京都議会と神奈川県議会も通過し、2020年12月1日に施行される予定だという。

しかし、なぜ東京都と神奈川県の境界を変更するのか?住民が反対したらどうするのだろうか?
東京都町田市の担当者に聞いてみた。
 

境界変更は「飛び地」問題を解消するのが目的

――なぜ境界変更をするの?

町田市と相模原市の境界線になっている境川は、もともとジグザグに蛇行していたため、氾濫が起きやすい川でした。

それが昭和30~40年代に市街化が進むと、今まで田んぼだったところが宅地になったため、水が染み込みにくい環境がどんどん増え、いっそう氾濫しやすい川になってしまいました。そこで河川の氾濫を防ぐため、ジグザグの川を真っ直ぐにして水を流れやすくするための河川改修が始まりました。

このジグザグだった川が境界線になっていたため、川を真っ直ぐにしたとき反対岸に相模原市や町田市があるという「飛び地」ができたのです。
 

境界変更された場所(前回の第6期計画)出典:相模原市
境界変更された場所(前回の第6期計画)出典:相模原市
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このような「飛び地」ができると、例えば川を渡った相模原市の中に町田市があるとは思われず郵便物が届かなくなったり、ゴミの回収もより手間がかかるようになったり、住んでいる人にも行政にも不便が生じました

これを解消するために行政境界の変更を行っているということです。
 

全体計画(強調されているのは前回の第6期計画)出典:町田市
全体計画(強調されているのは前回の第6期計画)出典:町田市

実は、町田市と相模原市は1995年からこの問題の解消に取り組んできた。
境川をはさんで両市が接する約22kmを9つの区域に分け、下流から上流に向かって、だいたい3~4年ごとに2kmずつ工事と境界変更を行い、今年12月に変更される部分は第7期にあたるということだ。

――なぜ9回に分けている?1度でできないの?

河川改修も行政変更の手続きも、まとめてやると予算がすごい金額になってしまいます。そこで、河川改修が終わったところから行政変更を行い、毎回、同じような予算で収まるように小分けに実施しています。
 

1人でも反対意見があれば境界変更は行わない

――境界変更に住民が反対したらどうなるの?

「飛び地」の中に1人でも反対意見があれば境界変更は行いません。反対をいただいたところはそのまま残っています。

反対する理由は、土地への愛着や人間関係など様々です。「別の自治会に入るのは嫌だ」という人や、「今住んでいるところがいい」「銀行・免許証などの住所変更の手続きが煩わしい」「学校が転校するのが嫌」など様々な反対をいただいています。

また、今まで町田市に関わる仕事をしていて、相模原市民になったら仕事が受けられなくなるというような事もあったようです。
 

――境界変更で影響があるのは何人ぐらい?

全区間で約1000人ぐらい住所の変更が行われる予定でしたが、1期から7期までで実際に変更したのは70人ぐらいです。

基本的に、人が住んでいない地域は簡単に変更できるんですが、人が住んでいるところは反対をいただくと変更ができません。

ただ、計画当初から人口が変わっているので、現在の工事についての影響は正確には分かっていません。
 

――「飛び地」ってどのぐらいあるの?

全ての数は集計していないので…100か200か正確には分かりません。ただ、7期まででの区間で、反対をいただいて残っている「飛び地」は約30カ所ぐらいです。
 

――住民には何か支援はあるの?

住所が変わるという事に対して手続きの情報をお伝えしたり、その手続きを極力簡略化できるようお手伝いをするという事はしています。ただ金銭的に何か補助が出るということはございません
 

――相模原市とはどんな協力体制なの?現在の活動は?

境界変更は、両市が共同して取り組んでいます。両市の行政境界の職員が一緒に地域の説明会を行ったり、地権者に会ったり、議会だけ意見を合わせているのではなく、お互いに一緒に動き、様々な形で協力しています。
現在の活動としては、12月に住所が変わるよう準備を進めているところでございます。


 

町田市の担当者は、このような境界変更は全国にまったくないわけではないとしつつ、両市のような規模も期間も大きなものは珍しいのではないかと話す。計画は残すところあと2期あるので、この話題はまた数年後に注目を浴びるのかもしれない。

 

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プライムオンライン編集部
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