新型コロナ「緊急事態宣言」を可能とする法律成立までのドタバタ

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、国会では13日、緊急事態宣言を可能とする「新型コロナウイルス対策特別措置法」が可決・成立した。

国難とも言える状況の中、与野党が立場を超えて一体となって迅速に成立させたこの法律だったが、採決の直前には、野党側が法相の答弁に反発して審議がストップし、与党が収拾にあたった結果、成立が翌週に持ち越されかねないような場面があった。

一部の党から「国民の安心、安全を確保する事と、どちらが大事なのか。すべての審議をいつものように止める感覚が理解できない」と苦言を呈されるようなことがなぜ起きたのか。そこには国会攻防ならではの様々な事情があった。

安倍首相との会談で野党側は不満示すも、早期成立で合意

この法律の成立に向けては、3月4日に与野党党首会談が行われ、安倍首相が法整備の必要性を訴え、野党側に成立への協力を要請していた。

野党側は、旧民主党政権時代に成立した新型インフルエンザ対策特措法を直ちに適用することが可能で、急ぐならば新規の法整備は必要ないなどと主張したが、政府側が新規に法整備するならば協力するとの意向を示した。

そして、法案は3月10日に閣議決定され、与野党は3月13日までに法案を成立させることで合意していた。しかし法案の国会審議は思わぬ事態に見舞われた。

森法相「検察官は逃げた」発言で野党“審議拒否” WHO「パンデミック宣言」直後に

参院予算委での森法相の答弁・9日

きっかけは9日の参院予算委員会で森雅子法相が、新型コロナウイルスとは関係のない「検察官の定年延長問題」に関連し、唐突に「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から市民が避難していない中で最初に逃げたわけです」と答弁したことだった。

森法相としては、被災地福島の出身として、東日本大震災直後に福島地検のいわき支部は実際に「避難」は行い、釈放した容疑者が再逮捕され、当時の福島地検・検事正が事実上更迭されている事実があることを踏まえ、強い思いをもって「検察官は逃げた」と発言したのだろうが、この表現とタイミングは強い反発を招いた。

野党側は森法相の「検察官は逃げた」という答弁は事実無根であり、検察組織に対する誹謗中傷だと問題視し、立憲民主党の安住国対委員長は「衆参ともにこの(森)大臣のもとで国会を全部動かすことはできない。委員会・本会議・例外なく国会は止まることになる」と述べ、森法相発言に対する政府見解が出ない限り、審議に応じられないと表明した。

折しもWHO(世界保健機関)が「新型コロナウイルスはパンデミックといえる」と表明した直後のタイミングで、国会としてもこの未知のウイルスの感染拡大防止に断固とした措置を取る姿勢を国民にアピールする“見せ場”だった。

しかし立憲民主党など野党側は、法相の発言を理由に政府与党との協調路線を転換し、新型コロナ特措法の採決も含めて国会審議をストップした。

12日午後1時に予定されていた法案の採決を行う衆議院本会議は、始まらなかった。森法相の発言が衆院の法務委員会、参院の予算委員会と衆参両院にまたがっていたことから森山国対委員長ら衆参自民党の国会対応の責任者らは対応に追われた。

自民党議員からは「野党が欠席しても法案の重要性を考えれば採決はやむを得ない」とする声も上がり国会は緊張感に包まれた。

WHOテドロス事務局長・12日

野党が森法相発言に強硬に反発した背景は…

では野党側が、強い対応を取った背景は何だったのだろうか。

1つには森法相の東日本大震災に関する発言が、なぜか黒川東京高検検事長の人事問題とも絡む検察官の定年延長問題の質疑中に飛び出したという点で、看過できなかったということがあるだろう。

森法相の発言については、公明党からも「なんでそんな答弁したのか脈略がよくわからない。定年延長がどう関わっているのか」(北側中央幹事会会長)と疑問の声が噴出し、自民党内からも「現職の法務大臣が検察官批判は控えるべき」との声があがっていた。

こうした中で野党側は参議院で「森法務大臣の暴言によって政府与党による審議妨害が起こっている」(立憲・蓮舫副代表)、「野党は特措法の審議も国会の審議もまったく邪魔していない、責任は政府与党にある」などと主張した。

一方、野党側が強硬姿勢をとった背景のもう1点は、これまで政府与党を厳しく批判してきたのに一転して協調路線をとることへの逡巡・焦りがあったのはないか。

野党側は「(新型インフルエンザ)特措法を適用できないと言い続けて対応を遅らせ、場当たり的に対応し感染を大きくした安倍政権の責任は極めて重い」(立憲・福山幹事長)と批判していたほか、人権を制限する権限を安倍首相に与えるのは好ましくないとの思いもあり、重要な法律とは言え、すんなりと成立させることへの逡巡があった可能性がある。

謝罪する森法相

野党の反発に与党の対応は「軟着陸」 森法相の謝罪と安倍首相コメントで“手打ち”

この野党の姿勢に対し、自民党がとった対応はいわば軟着陸路線だった。自民党内には「野党側が欠席した状態でも採決すべき」との強硬論があった一方で、森山国対委員長は「大事な法案なので野党の出席の下に採決することが大事だ」と表明し、与野党一致での成立にこだわった。森法相発言に対する与党内の反発の声も判断材料になったと見られる。

こうした中で、立憲民主党の安住国対委員長は「やはり何らかの政治責任はきちんと取る。国民や我々にわかるような責任の取り方、謝罪の仕方をやらないと、なかなか国会すぐには動かないと思っている」と、与党側にサインを送った。

与野党は水面下で折衝した結果、安倍首相が森法相を注意し、森法相がカメラの前で改めて謝罪の意を示し、安倍首相もコメントするという落としどころで合意した。

森法相を厳重注意した安倍首相

このシナリオは、衆議院本会議が開かれない中で予定通りに進行し、午後2時半過ぎに安倍首相は森法相を首相官邸に呼んだ。首相との会談を終えた森法相は「首相から厳重注意を受けた」と明かした上で「誠に不適切なものだと真摯に反省をして私の発言を撤回し、深くお詫びを申し上げる」と謝罪した。

さらに安倍首相は、森法相の謝罪後に、「森法務大臣の国会の答弁における不適切な発言について私から本人に厳重に注意をいたしました。今後より一層緊張感を持って職務を果たしていってもらいたい」とコメントした。

与野党は、この一連の動きを見届けると、これもシナリオ通りに議長からの助言を受け、直ちに衆院本会議を開き、新型コロナウイルス特措法案は可決された。採決を終えると自民党議員は安堵の表情を見せた。時刻は午後4時45分になっていた。

そして翌13日、緊急事態における民放の放送内容に政府が関与することもありうるとの答弁が問題になった宮下内閣府副大臣が発言を撤回するなどの混乱があったが、午後4時半ごろ、参院本会議で新型コロナ特措法は本来の予定通りに可決・成立した。

参院本会議で可決された新型コロナ特措法

維新「すべての審議をいつものように止める感覚が理解できない」と野党を批判

結局、与野党が事前に合意していた13日中の成立は成し遂げられ、政府の「緊急事態宣言」の判断に影響も出ていない。野党は結果として、与党との約束のスケジュールを守った形だ。一方で新型コロナウイルスという未知の脅威に国民が不安にさらされている中で、一時的とはいえ「国会が空転」したことについては、「理解できない」という声が国民の間で少なくない。

日本維新の会の馬場幹事長は「森法相のクビと危機的な国家状況の中、国民の安心、安全を確保する事と、どちらが大事なのか?すべての審議をいつものように止める感覚が理解できない」「何のための時間ロスだったのか」などと野党を批判した。

法相発言を理由に国民の生命に直結する今回の特措法の審議を含め、すべての国会審議ストップを宣言した立憲民主党などの野党と、与野党一致での法案成立にこだわった与党との間で繰り広げられた一連の国会攻防。感染拡大でウイルスとのまさに“瀬戸際”の戦いが続くという特殊な状況の中で、与党、野党、そして国会自体が、何に労力をかけ、どのような姿勢で審議に臨むのかが問われている。

安倍首相の国民への呼びかけ・14日

(フジテレビ政治部・門脇 功樹)