働き方改革で長時間労働は是正されているかもしれないが、それは同時に「仕事をできる時間」が短くなることでもある。早く帰るためには、効率的に仕事を終える努力も必要になるだろう。

ここでポイントとなるのが、「生産性」をどうやって高めていくか。これを実現させているのが、化粧品を製造・販売する「ランクアップ」だ。2005年の創業以降、残業を減らしつつ売り上げを伸ばし、今では約100人の従業員をほぼ定時退社させているという。

企業の成長と定時退社を両立させるのは、そう簡単ではなかったことだろう。企業としてどんなことを心がけているのか、創業者で代表取締役の岩崎裕美子さんに伺った。

業務の棚卸しで従業員の負担を「見える化」

――企業成長と定時退社を両立しているというが、従業員はどんな働き方をしている?

私を含めて、長時間労働や残業を意識的にしないようにしています。

当社の勤務時間は8:30~17:30で、ほとんどの従業員が定時退社していますね。会社としては月20時間までの残業を認めていますが、どのくらい残業しているのかを従業員に意識してもらうため、社内では各個人の残業時間をまとめた「残業ランキング」というものも公表しています。残業することもありますが、減らせる負担は減らして早く帰ろうという考えです。

ランクアップの代表取締役・岩崎裕美子さん
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――従業員の業務はどのようにして効率化を図った?

通常の勤怠管理の他に、従業員全員が“業務の棚卸し”という振り返り作業を定期的に行っています。これは勤務時間をどの業務に使っているのか、業務区分・時間・頻度などの表にまとめることで、この「業務棚卸表」を見ながら、削減できるものはないのか上司と話し合うのです。

業務負担を見直すきっかけになるだけではなく、別部署に異動があったときの引き継ぎにも役立ちます。

実際の例だと、ある従業員が毎週の会議資料を作るために週8時間使っていたことがありました。1カ月換算だと「8時間×4週間」で計32時間も費やしていることになります。この従業員はデータ集計に苦労していたので、集計をシステム化することで負担を軽減できました。

ちなみに業務の棚卸しはこの定期に加え、月20時間以上の残業が3カ月続いた場合にも行います。

業務棚卸表の例。業務ごとの時間を記載することで、負担の見える化をする(提供:ランクアップ)

――業務の棚卸しはなぜ始めた?

実は従業員に定時退社を徹底させようとしたとき、「こんなに仕事が多いのに帰れません!」と猛反対にあいました。そこで残業が多い従業員にヒアリングしたところ、慣例で続けられているような、必要性の薄い業務が負担となっていたんです。このような業務を見える化して洗い出せれば、無駄な残業を減らせるのではないかと思いました。

生産性を向上させるためのポイントとは?

――生産性を向上させるためのポイントはある?

業務に必要な時間・労力と、それで得られる対価が見合っているかを考えることでしょうか。
当社の場合は業務の棚卸しをした結果、生産性を上げるためにいくつかの社内ルールを設けています。

例えば、社内資料を作り込まず、ワードで1ページに収めさせています。パワーポイントを使うと見栄えは良いですが、作成するだけで時間がかかってしまうものです。社内用なら目的や概要をシンプルにまとめて、趣旨などは口頭で補足すればそれで十分でしょう。

また、会議に関しては1回30分までという上限を設けています。企画などを進めたいときは、事前の会話やメールで共有すれば、長時間話し合う必要もありません。会議は何かを決断する場所として開くことがほとんどですね。このほか、社内間で事務連絡するときは負担を減らすため、手軽に連絡できる「チャットワーク」などのクラウドサービスを利用しています。

以前の会議資料。丁寧に作られているが、制作に時間がかかることも多かったという(提供:ランクアップ)
今の会議資料。項目は必要最低限にまとめて、詳細は口頭で補足する(提供:ランクアップ)


ちなみに、東京・銀座のオフィスには「フリーアドレス」が導入されている。

従業員が働きやすいようにと始められた試みだが、ここにも生産性を上げるさらなる工夫が。従業員は小さなロッカーに荷物を収める決まりとなっているのだ。紙の資料は大量に保管できないため、書類や資料はデジタル管理するようになり、資料を探す労力の削減につながったという。

ランクアップのオフィス。フリーアドレスを採用している

女性は「結婚・出産」でキャリアを諦めなければならない

――なぜ、従業員にこのような働き方をさせている?

実は働き方改革のようなことを目指したわけではありません。

私事ですが、当社を起業する前に広告代理店で営業本部長を務めていました。そこは土日まで働くことや終電で帰ることが当たり前の“超ブラック企業”だったんです。人の入れ替わりも激しく、私自身も「社員は使い捨て」と考えていました。

人生にはライフステージがありますが、女性は一定年齢になると「結婚・出産」が見えてきます。ですが、そこは結婚や出産を望むとキャリアを諦めなければならない状態でした。それなら、女性が結婚や出産しても「仕事を辞めたい」と思わないような職場を作りたいと思いました。


――では、広告代理店に勤めた教訓から心がけていることは?

委託できる業務はアウトソーシングするようにしています。以前勤めていた広告代理店では「できることは自分たちでやる」という社風でしたが、どんな仕事も全て自分たちだけで続けていると、結局は従業員が疲弊してしまいます。プロに任せた方が高品質のサービスを提供できる分野もあるので、今の会社では、発送業務やコールセンターなどの機能は外部委託しています。

アウトソーシングにはお金がかかりますが、専門分野をパートナー企業に委託することで、新しいことに挑戦する時間が生まれます。当社の場合は、広報部などの新事業部が誕生するきっかけとなりました。多少費用がかかっても、自分たちにしかできない仕事を自分たちで考え、それを実行できる環境を整えたほうがよいのではないでしょうか。

子供同伴での出勤も許可している。オフィスの一角には子供向けのスペースもある

ちなみにランクアップの従業員の8割が女性で、その半数がワーキングママという。
女性の労働環境や働き方改革について、思うことはあるのだろうか。

母親は残業がないだけでは仕事を続けていきにくい

――従業員の多くがワーキングママとのことだが、女性の働き方についてはどう考える?

当社には、ベビーシッターを300円の自己負担で利用できる「病児シッター制度」という福利厚生があります。なぜこの話をするかというと、女性は出産して母親になると、残業がないだけでは仕事を続けていきにくい現状があると考えているからです。

子供は体調を崩しがちですが、夫婦共働きでも、その看病やお迎えは母親がすることが多い。なぜなら父親がこのような理由で休むと、現実として出世できなかったりクビになる可能性もあるのです。男女平等と言われますが、父親はまだ休みにくいところがあると思います。

ですが、産休・育休から復職した母親が子供の看病で休むとどうしても、同僚や会社に迷惑をかけているという不安を感じます。「仕事を続けられるかな」という気持ちから、退職に傾く人もいるほどです。女性活用を進めたいなら、ここを変えなければならないでしょう。

ランクアップがワーキングマザーのために導入した制度(提供:ランクアップ)

――それでは、企業はどう環境を整えればよい?

当社の場合だと、会社を支えているのはいろいろな部署で経験を積んだ「10年選手」です。もしもこのような従業員が結婚・出産で退職していたら、今のような成長はなかったでしょう。

定年まで働くことを考えると、子供が小さな時期は「ほんの数年間」と言えます。退職者が出て新しい人を雇うよりも、育児をサポートしたり、育児休暇の後にしっかり働けるような制度や環境を整えるべきではないでしょうか。せっかく育てた人材を結婚・出産で失うことは、結果的に生産性の低下にもつながってくると思います。


――最後にランクアップのように、定時退社や生産性を向上させたい企業はどうすればよい?

個人的な意見ですが、まずは従業員が帰る時間を早めに設定することではないでしょうか。遅くまで残業している人も終電で帰ることが多いと思いますが、あれは「終電の時間」という終わりのめどがあるから。結局のところ、人は心のどこかで帰る時間を決めているのです。

これを早めの時刻に設定して、始業からの短時間で何ができるかを考えることでしょう。
具体的な取り組みとしては、企業の本質は何か、売り上げを伸ばせる要素はどこかを話し合うことからです。そうすると、労力のわりにインパクトを与えられていない業務が出てきます。生産性を高めるためには、そこを改善したり思い切ってやめるという判断が必要になるでしょう。

時間の使い方も大切です。生産性が上がって労働時間が短くなっても、新たに業務負担を増やせば従業員の退社時刻は変わりません。ワークライフバランス、アフターファイブの充実が企業成長のアイデアにつながることもあるので、新たな体験をできる余裕を持たせてはどうでしょうか。

(提供:ランクアップ)

業務の重要性や負担を洗いだして、省力化できるものは省力化。そして自分たちにしかできない仕事に集中する。そんな工夫の積み重ねが、企業成長と定時退社の両立につながっているようだ。

すぐにアウトソーシングの導入とまではいかないかもしれないが、業務の棚卸しならできるというところも多いはず。自社の強みを分析して必要性の薄い業務の負担を改善していくことが、生産性向上の近道なのかしれない。

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