2019年4月から、働き方改革関連法の改正が順次施行されているが、主な目的は「長時間労働の解消」「非正規社員と正社員の格差是正」「高齢者の就労促進」の3つだ。

その中でも、現役で働いているビジネスマンと関係が深いものの一つが「長時間労働の解消」だろう。

長時間労働抑制の策として、「時間外労働の上限は、原則月45時間、年360時間」とされ、「毎年5日の年次有給休暇の取得」も義務付けられた。

最初の改正施行から半年以上が経ち、企業も退社時刻を管理したり、リモートワークを推し進めたりと工夫している。しかし、労働環境が変わったことを実感している人は、決して多くないだろう。『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』の著者で、立教大学経営学部教授の中原淳さんに、働き方改革の現状について聞いた。

長年続く慣行を変えるために必要な期間は“10年以上”

「戦後、高度経済成長期から製造業を中心に、働けば働くほど待遇がよくなる雇用形態が生まれ、長時間労働が当たり前のものとされてきました。そのため、法改正されたからといって、2~3カ月で働き方が変わるとは思えません。長年続いた慣行をアンインストールするには、10年単位で見ていった方がいいでしょうね」

こう中原さんが語るように、働き方改革の効果がすぐに見られないのは、日本の企業が築いてきた雇用の形に原因があったのだ。

「ただ、企業によっては、働き方改革をスムーズに進めているところもあります。うまくいっている企業は、経営者が自社の働き方の問題を経営課題に位置付け、仕事のやり方を見直していますね」

「長時間労働の解消」は「職場の習慣の見直し」と同義

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働き方改革を進める上で、具体的に取るべき対策を教えてもらった。

「残業のタイムリミットを決める、一定時間でPCが自動的にシャットダウンするように設定するなど、労働時間を管理する“外科手術”的な手法は必要です。僕が過去に行った調査で、日本人の2割ほどは就業時間を意識していない、という結果が出ていますから」

社員に就業時間を認識させるためにも、時間管理のルールは作るべき。しかし、それだけでは働き方改革は進んでいかないという。

「残業時間を減らしても、仕事が減っていなければ、『サービス残業が増える』『管理職が仕事を抱え込む』『できない仕事を放置する』など、悪い方向に進んでしまいます。並行して、会社全体で“漢方治療”的な組織の体質改善を進めないと、働き方は変わりません」

「会社全体で行うことが必要」とのことだが、社員1人ひとりが仕事の進め方を工夫し、効率化していく方法ではダメなのだろうか。

「長時間労働の要因は、その多くが職場にあるといえます。仕事の割り振り方や会議の進め方は、社内や部署内のルールで決まっていることがほとんど。その部分を見直していかないと、何も変わらないんです」

例えば、社員2人連れで営業に出向く企業があるとしたら、本当に2人必要なのか考えるべきだろう。長時間の会議や頻繁な出張は、簡略化できるかもしれない。そして、ルールや習慣を変えるには、いち社員ではなく経営陣が動かなければならない。

「近年は、個人のスキルを高めるノウハウが書かれた書籍も多く出版されていますが、仕事術を身に付けても、残業時間は減りません。むしろ、できる人になれば、上司から仕事を振られやすくなり、かえって残業は増えるかもしれない。2000年代以降、仕事ができる人ほど残業するようになっているんです」

スキルの高い社員が、仕事を振られるのは当然。個人では、長時間労働の問題を解決できないのだ。そして、もう1つ、重要なポイントがあるという。

「仕事を効率化し、残業を減らしても、売り上げが下がらないのであれば、そのインセンティブを従業員に与えるべきです。つまり、浮いた残業代の還元ですね。予算達成した社員にボーナスを支給する企業や、福利厚生を手厚くしている企業もあります」

働き方改革を進めることが“企業の存続”に直結する

「長時間労働の解消は、日本の企業すべてにおける経営課題といえる時代になっています。今、もっとも騒がれている人手不足問題の解決に、直結するからです。ちなみに、2030年には、人材の採用が現在の2倍くらい困難になると予想されています」

さらなる人手不足が予測される今、企業に求められるものは「いい職場」であること。社員の働きやすさを優先している企業に、人が集まっていく。

「給料が高いことよりも、ブラック企業でないことが人を集めるし、離職を避けることにもつながるでしょう。活躍が期待されている女性やシニア層、外国人は、特に長時間労働を嫌う傾向にあります。労働力を確保するためにも、長時間労働の解消は必須です」

今の日本では長時間労働が慣行となってしまっているため、妊娠や出産、親の介護などを機に、離職せざるを得ない人が多い。中原さんは、「働き方を見直さないことには、労働力率(生産年齢〈15歳以上〉人口のうち、労働力として経済活動に参加している者の比率) は上がらない」という。

「働く社員からしても、働き方改革は重要。長時間労働は、精神疾患のリスクを2~3倍上げるといわれています。また、仕事に追われて技術を学び直す時間がなければ、職場の変化やテクノロジーの進化についていけず、企業に求められる人材であり続けることが難しくなるでしょう」

人生100年時代といわれている今、定年を超えても働こうと考えている人は多いはずだ。しかし、長時間労働によって休息や学びの時間が取れなければ、早々にリタイアを迎える可能性は高まる。“長期間労働”を実現するには、バランスの取れた働き方を目指すことが必須になるだろう。

中原淳
立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。著書に『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』など多数。

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取材・文=有竹亮介(verb)

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