4日間で17万人を集客する「CES」

豪華絢爛なホテルが立ち並ぶアメリカ・ラスベガス。実はその宿泊料は意外と安い。カジノでお金を使ってもらえばいいということなのか、どでかいカジノリゾートですら日によっては50ドルほどで泊まれる。しかし、それが4倍にも5倍にも一気に高騰する時期がある。毎年1月に開かれる「CES」のシーズンだ。ことしは1月7日からの4日間で17万人以上が訪れたとされ、どこのホテルもCESの入場パスを首からぶら下げた人たちで溢れ返っていた。

17万人以上が訪れたCES。会場内の移動も一苦労

「家電見本市」からの脱却

「CES」とは「Consumer Electronics Show」として1967年に始まった世界最大級の「消費者向け家電見本市」のこと。例年テレビや冷蔵庫、洗濯機など生活に欠かせない電化製品の最新バージョンが発表される場として注目されていて、今年は約4万5千の企業が出展した。

LGが発表した最新型テレビ。これぞCESという光景

CESではまず、世界の大手企業がメディア向けの新製品発表会を行う。

今回私が最初に向かったLGの発表会では「AI(人工知能)」を取り入れた冷蔵庫や洗濯機、8Kのテレビなどが次々と紹介された。なるほどなるほど、これこそ「家電見本市」という感じだ。しかし、次々行われる発表会を取材していくと、どうも様子がおかしいことに気付く。

次に取材したのがパナソニックの発表会。冒頭、空手選手による演武から始まったかと思えば、水泳の金メダリスト、マイケル・フェルプス選手が登場し、「パナソニックがいかにオリンピックをサポートしている企業か」というプレゼンに多くの時間が割かれた。終盤にワイヤレスイヤフォンの最新モデルも紹介されたものの、時間としてはごくわずか。あれ、これって何のイベントだったっけ?と思ったのは私だけではなかったようで、その後に行われたパナソニック担当者の囲み取材では、記者たちから「何が狙いだったのか」という質問が相次いだ。

「商品」より「企業」をPRする作戦

担当者によると「商品を紹介するよりもまず、“パナソニックってどんな会社なのか”をPRする作戦だった」という。アメリカなどでは、消費者がパナソニックの商品を手にする機会が減っていて、特に若い世代から「パナソニックって何の会社?」と思われてしまっていることに危機感を覚えているのだという。

水泳界のレジェンド、マイケル・フェルプス選手も登場

「商品をPRしない発表会って、CESでそんなんあり!?」と驚いたのだが、続くトヨタの発表会で更なるサプライズが待っていた。

豊田章男社長が登壇し、発表したのはなんと「富士山のふもとに新しい街を作る計画」だった。街全体にAIが導入され、自動運転の車が走る。そんな街にトヨタの社員など約2千人を実際に住まわせ、未来の街作りの実証実験をするという計画。あっけにとられる会場に向かって豊田社長はこうスピーチした。「この人、正気じゃないのか?と思うかもしれません(笑)。でもこれは、トヨタだけではなく、全ての人に喜びをもたらすプロジェクトです。トヨタは最初、車作りから始めたわけではなく、織機メーカーから始めました。そして今、私たちの技術を使って新しい街を、人生を楽しむ新しい方法を織りなそうとしています

1時間予定されていた発表会は新製品の発表がないまま20分ほどで終了。「未来都市計画」を見せつけられてどよめきが残る聴衆を尻目に、豊田社長は嵐のように去っていった。ここでも「もっと詳細を教えてくれ」と押し掛けた記者たちが、トヨタの広報担当者をしばらく取り囲むこととなった・・。

車のメーカーが車の発表をしない・・。

トヨタの「実証都市プロジェクト」イメージ図。ちょっと住んでみたい

「ソニーが車を作った!」

驚きと興奮冷めやらぬまま、続いて始まったソニーの発表会で披露されたのは、何と「車」だった。え、ソニーが車!?

披露された本格的な「電気自動車」は、高機能センサーを備え高い安全性能を誇るほか、車内のディスプレーやスピーカーも当然ソニークオリティ。快適な車内空間を売りにしていて、まさにソニーらしさを詰め込んだ一台だった。

吉田憲一郎社長は「過去10年はモバイルの時代だったが、これからのメガトレンドはモビリティーだ」と語り、次の時代への一手を印象付けた。その後ブースに展示された車には、常に近寄れない程の人だかり。「ソニーが車を作った!」の衝撃がよく分かる光景だった。

ソニーの電気自動車。将来的には完全自動運転を目指すという
“ソニーらしさ”が詰まった車内

その他の出展企業を見てみても、まるで豚ひき肉のような植物由来の最新代用肉が展示されていたり、保険会社がブースを構えていたりと、CESはもはや「新しい技術なら何でもあり」の場となっていた。そんなトレンドもあり、実は主催者側も今「Consumer Electronics Show」という呼び名は使っていない。

これも最新テクノロジー。会場で代用肉ハンバーガーが振舞われた

「CES」のことは「CES」と表現し、「家電見本市」という表現からの脱却を図っている。

車メーカーも家電メーカーも、もはや「これまでの製品の最新版」を作るだけでは生き残れない時代。どの企業も最新技術のトレンドに乗り遅れぬよう、業界の枠を超えて勝負しているのがとても印象的だった今年のCES。

来年はどんな驚きが待っているのか、今から楽しみだ。次の1月もラスベガスに出張して取材しよう・・とホテルを検索してみると、既に料金が高騰していたのは言うまでもない。

【執筆:FNNロサンゼルス支局長 益野智行】