電柱にかかる大量の電線・電話線

タイの街に設置されている電柱には、日本では考えられないくらい大量の電線や電話線がかかっている。電線類のケーブルは太いものから細いものまで様々で、絡まったり束ねられたりしながら、市内の隅々まで張り巡らされている。その風景は、もはや「タイ名物」とも言えるほどで、日本からタイに来た人たちは、その電線の多さに驚き、記念写真を撮っていくほどである。こうした電線類は、生活に不可欠な電気や通信を市民に届ける重要インフラである一方、管理が行き届いていないものも多く、既に使われていないケーブルもそのまま残っていることが多い。

大量の電線類がかかっているタイの電柱(バンコク市内)
大量の電線類がかかっているタイの電柱(バンコク市内)
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電線がバイク運転手の首に・・・

こうした管理が行き届いていない電線や電話線は度々、タイで死亡事故や重大事故を引き起こしていて、社会問題化している。最も多い事故の一つが、運転中のバイク運転手の首に電線が引っかかるというものだ。

1月19日、スペイン人とアルゼンチン人の女性観光客が、タイ西部カンチャナブリの道路上をレンタルバイクで走行していたところ、垂れ下がっていた電話線が首に引っかかる事故が起きた。スペイン人女性は電話線で首を深く切り、何十針も縫う重傷を負った。もう一人のアルゼンチン人女性は、電話線によってバイクから転落し、軽傷を負った。いずれの女性もバイクの速度が遅かったため、奇跡的に死亡事故に至らなかったとみられている。

女性観光客の首に絡まった電話線(タイ・カンチャナブリ県)
女性観光客の首に絡まった電話線(タイ・カンチャナブリ県)
女性観光客が運転していたバイク(タイ・カンチャナブリ県)
女性観光客が運転していたバイク(タイ・カンチャナブリ県)
病院に運ばれ手当を受けるスペイン人女性(タイ・カンチャナブリ県)
病院に運ばれ手当を受けるスペイン人女性(タイ・カンチャナブリ県)

垂れ下がった電線類が凶器と化す、このような事故は後をたたない。2019年7月には首都バンコクで、バイクを運転していた男性の首に、垂れ下がっていたケーブルが絡まり、ドライバーの男性が死亡した。2018年にもタイ北東部コーンケン県で、垂れ下がったケーブルで首が切れた女性運転手の死亡事故が起きている。さらにフェイスブック上には「バイク運転中に電線・電話線が首に絡まりケガをした」という画像つきの投稿は多い。道に垂れ下がった電線・電話線は、バイク運転手にとっては、死につながりかねない凶器そのものなのだ。

通信ケーブルに絡まったバイク
通信ケーブルに絡まったバイク

垂れ下がった電線による感電事故も

交通事故だけではない。2019年3月には、タイ南部ナコンシータマラート県で、35歳の男性が自宅の前に垂れ下がっていた電線を片付けようとしたところ、感電して死亡する事故が起きた。しかし、この感電事故の責任を誰も取らなかったことから、遺族ら100人が市役所の前でデモを行う事態に発展。遺族らは責任の所在を明らかにするよう要求した。元々、電線や電話線の敷設や管理は、それぞれ電力会社や電話会社が責任をもって行うものだ。しかし万が一事故が起きたとしても、管理不十分な電線・電話線の責任を取ってもらえない可能性が高い。

歩道に放置された通信ケーブル(バンコク市内)
歩道に放置された通信ケーブル(バンコク市内)

観光や仕事でタイを訪れる日本人は多い。タイの街で垂れ下がった電線を見つけたら、安易に近づかないよう気をつけることが、身を守るためには大事である。

【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】

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佐々木亮
佐々木亮

物事を一方的に見るのではなく、必ず立ち止まり、多角的な視点で取材をする。
どちらが正しい、といった先入観を一度捨ててから取材に当たる。
海外で起きている分かりにくい事象を、映像で「分かりやすく面白く」伝える。
紛争等の危険地域でも諦めず、状況を分析し、可能な限り前線で取材する。
フジテレビ 報道センター所属 元FNNバンコク支局長。政治部、外信部を経て2011年よりカイロ支局長。 中東地域を中心に、リビア・シリア内戦の前線やガザ紛争、中東の民主化運動「アラブの春」などを取材。 夕方ニュースのプログラムディレクターを経て、東南アジア担当記者に。