地球温暖化対策 国連事務総長が日本を名指しで対応要請

地球規模での温暖化が加速する中、国連のグテーレス事務総長は2月4日、ニューヨークの国連本部での今年初めての記者会見を開き、「2050年にはCO2の排出量を実質ゼロにする約束を示すことが極めて重要」と言及した。

その中で、グテーレス氏は日本について「主要なCO2排出国の一つである」と名指しし、今年11月に開かれるCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議)までに対策の強化を示すよう強く求めた。

地球規模での温暖化が加速する

「脱炭素の世界が産声を上げた」安倍首相と吉野彰氏が環境問題解決にタッグ

それに先立つ1月29日、都内のホテルで経産省所管の産業総合研究所による「ゼロエミッション国際共同研究センター」設立を記念するパーティーが行われた。

この「ゼロエミッション国際共同研究センター」は、政府が掲げる「革新的環境イノベーション戦略」の中核施設として、地球温暖化の原因となるCO2を吸収する新たな素材などの研究開発を進める予定だ。今後10年間で官民合わせて30兆円が投じられる予定であるなど、金額を見ただけでも政府が大きな期待を寄せていることが分かる。

(ゼロエミッション国際共同研究センターの設立記念イベント・都内 1月29日)

パーティーの壇上には安倍首相、梶山経済産業大臣らに加え、昨年ノーベル化学賞を受賞し、今回センター長に就任した吉野彰氏の姿があった。

安倍首相はあいさつで吉野氏について「『高い目標があればあるほど、研究者は頑張れる』という大変頼もしい言葉をいただいた。イノベーションによる環境問題解決への熱い思いをお持ちだ」と評した上で「きょう、ここから脱炭素の世界が産声をあげたと後世の人たちに評価されるよう、世界的なチャレンジを必ずや成功させていただきたい」と激励した。

脱炭素社会実現のキーワード「ゼロエミッション」と「ビヨンド・ゼロ」とは

この研究センターの名称にもなっている「ゼロエミッション(Zero Emission)」とは、環境汚染や気候変動の原因になっている汚染物質を排出しない仕組みやエネルギー源のことを指している。CO2の排出を実質ゼロにすることもその1つだ。今回のプロジェクトにはアメリカや、ドイツ・フランスなどヨーロッパの5つの機関が参加を表明するなど、「ゼロエミッション」研究は世界的な流れになっている。

そしてこの「ゼロエミッション」のほかにもう1つ、安倍首相が近頃、脱炭素社会の実現のキーワードとして連呼している言葉がある。それが「ビヨンド・ゼロ」だ。あいさつの中で安倍首相は次のように述べた。
「ゼロエミッションにとどまることなく、産業革命以降増え続けてきたCO2を減少へと転じる、ビヨンド・ゼロの実現を目指してほしい」

(設立記念イベントであいさつする安倍首相・都内 1月29日)

安倍首相はこの「ビヨンド・ゼロ」という言葉を、通常国会冒頭の施政方針演説や、予算委員会での答弁でも度々使っている。では「ビヨンド・ゼロ」とはどういう意味なのか?

「ビヨンド・ゼロ」はCO2のストック削減目標 頼りはイノベーション!

経済産業省によると、『ビヨンド・ゼロ』とは「Beyond Zero=ゼロを超える」というイメージで、過去にストックされたCO2をも削減していくことを指すという。つまり、今、CO2は排出過多となっているが、まず排出されるCO2と同じ量のCO2を森林や最先端技術によって吸収・回収して、排出量を事実上ゼロにする、これがゼロエミッション。さらにそれを超えて、既に増加してしまったCO2も回収し、CO2の全体量を現状と比べマイナスにしていくというものだ。

例えるならば、現状で100あるCO2排出量を0に削減した先に、マイナス10、マイナス20と既に溜まったCO2を削減していく、今までにない技術革新目標なのだ。

では、どのように「ビヨンド・ゼロ」を実現するのか。安倍首相は「究極の脱炭素社会はこれまでの取り組みの延長線上では実現しない。非連続のイノベーションが必要」と強調していて、画期的な技術革新に期待を寄せている。そうしたイノベーションが実現するかは簡単ではないが、実現への可能性を秘めている最先端の“夢技術”の開発はすでに進行している。そのいくつかをご紹介する。

現在開発が進められている革新的“夢技術”の数々

(1)空気中から直接CO2を回収する技術(DAC)

DAC=ダイレクトエアキャプチャーと呼ばれるこの技術は、その名前の通り、空気中からCO2を直接取り除いてしまおうというもので、すでに海外では商業化されている。ファンで空気を取り込み、開発された特殊な吸着フィルターによって直接CO2を空気中から濾しとり、回収する。そして回収したCO2は大気中に流れ出ないように貯蔵、もしくは液体燃料として利用できる物質の製造に活用するという仕組みだ。ただ空気を取り込むための巨大なファンや背の高い塔の建設が必要であるなど、規模やコスト面での改良が求められており、その研究開発が進められている。

(スイスの企業によるDAC装置を搭載した工場 Climeworks社HPより)

(2)CO2を吸着させたコンクリートの製造技術

コンクリートは主要材料の一つであるセメントで砂利や水などを固めて作られる。セメントの原料の多くは石灰石なのだが、その製造過程において高温で焼成する必要があるために大量のCO2を排出することが知られている。

そこでこの技術は、CO2を強制的に吸収させる物質を開発し、その物質(特殊混和材)をセメントの一部と置き換えることによって、CO2吸着コンクリートを製造するという技術だ。すでにこのCO2吸着コンクリートが都内の住宅に使用された実績もあり、現在、強度や耐久性のさらなる向上のために研究が進められている。

(鹿島建設・中国電力・電気化学工業が共同開発したCO2-SUICOM ®のイメージ 鹿島建設HPより)

(3)人工光合成を利用したプラスチック生成技術

植物が水とCO2を吸収し、太陽の光を利用して、酸素と養分(でんぷん)などを生成する「光合成」を行っていることは理科の授業にも出てくる。この働きを再現したものが「人工光合成」と呼ばれるものだ。

まず酸化チタンを利用した「光触媒」という技術を活用し、光のエネルギーによって水を酸素と水素に分解する。そしてその先のステップとして、生成した水素をCO2と合成することで、CO2を使ったプラスチック原料をつくるという技術だ。「人工光合成」にはいくつか方法があるが、総じて、エネルギーは自然の太陽光を利用するので、クリーンに水素を作り出すことができる。その水素を使ってプラスチック原料を作り出すことで、将来的にCO2の削減につながると期待されている注目の技術だ。

(上部のライトの照射により白い「光触媒」から放出される、水が分解された水素と酸素の混合ガス 取材協力/三菱ケミカル株式会社)

ある官邸関係者は「人工光合成の技術が発展したら、逆に濃いCO2が必要になる。イノベーションで世界が大きく変わるんだ」と指摘している。

他にも様々な技術が開発中だが、これらの最新技術に共通する課題は、技術力の向上とコスト、そして安定性だという。何より一般に普及するような価格で、求められたニーズに合った技術でないとせっかくのイノベーションでも浸透していかない。そのような課題を一つずつ解決していけるかどうかが今後の環境政策のカギになってくる。

「不可能を可能にすることがイノベーション」吉野彰氏の思い

提供:EPO

新技術の研究開発のトップを託された吉野氏は、自身がノーベル賞を受賞した理由に2つの意味があると話した。1つは自身の成果であるリチウムイオン電池の開発による現代のモバイルIT社会実現へ貢献したこと。そしてもう1つ、これからの課題を与えられたとして挙げたのが「サスティナブル(持続可能な)社会の実現への貢献」だとして、次のように語っている。

(設立記念イベントであいさつする旭化成名誉フェロー 吉野彰氏・都内1月29日)

「環境問題で一番難しいのは環境性と経済性と利便性、この三つを同時に満たすこと。これが非常に難しいことだが、一見不可能に見えることを可能にするのがイノベーションだ」

現在日本は、2050年までに温室効果ガスの80%の排出削減目標を掲げ、次のステップがCO2の排出実質ゼロの状態なのだが、その目標時期については、“2000年代後半ごろ”とあいまいな時期しか示せていない。となると「ビヨンド・ゼロ」の実現はまだまだ先のことで、一見不可能かもしれない。

しかし、吉野氏が意欲を示しているとおり、一見不可能な課題を、日本の最先端技術によるイノベーションが解決すれば、まさに世界的偉業となる。政治・経済・科学の各界をあげての長期にわたるビッグプロジェクトはまだ始まったばかり、その先行きを見守りたい。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 亀岡晃伸 )