火事で夫亡くした妻 「早く通報できる方法があれば」

毎朝、仏壇に向かって手を合わせる岡山市中区の入星弘子さん(74)。2016年2月、火事で聴覚障害のある夫・隆さんを亡くした。

ーー火事の時の様子を教えてください

入星弘子さん:
起きたら、ものすごく煙があり、主人の肩をたたいたら熱くて(体が)燃えていた

自宅2階で寝ていた時に火事に気づいた弘子さん。慌てて1階に下りたが、目にしたのは火元の居間で倒れていた隆さんだった。
すぐに近くに住む娘の家に向かったが、手話で状況を伝えるのに時間がかかり、結局、そのやり取りに気づいた近所の人が消防に通報。普段、入星さん夫婦が周囲との連絡に使うFAXは焼け焦げていた。

入星弘子さん:
消防に早く通報できる方法があればよかった。

スマホのGPSでどこからでも通報 Net119緊急通報システムとは

音声による通話ができない聴覚障害者の迅速な通報の実現のために、総務省消防庁が今、全国に導入を呼びかけているのが「Net119緊急通報システム」。
スマートフォンなどのGPSによる位置情報を使って、全国どこからでも119番通報ができるもの。画面の案内に従い、けがの場所や程度が伝えられるほか、状況を撮影して送ることも可能。

2019年10月に岡山市消防局も導入した。
岡山市消防局の情報指令課では、通報を受理すると、パソコン画面の地図上に通報した人の位置情報と、通報内容が表示される。あらかじめ質問や回答の選択肢が用意されているので、複雑な操作をすることなく、迅速に状況を伝えることができる。

これまでは、通報内容を紙に書いてFAXで送ったり、状況を文字で入力し、インターネット経由で伝えたりするシステムがあったが、消防側が正確な位置情報をつかめないため、自分が住むエリアの消防本部管内に使用が限られていた。
一方、このNet119では、全国どこからでも最寄りの消防に直接通報できる。

岡山市消防局情報指令課 小原知也消防士長:
これまで、外出先での通報に不安を覚えられていた方もいらっしゃると思いますが、どこからでも通報ができるということで、安心して外出ができるようになったのでは。わたしたちが、少しでも心理的なネックを取り払うサポートができるようになったのではないか

このシステムの製作を担当したのが、岡山市南区の「両備システムズ」。
岡山市消防局以外にも、横浜市や名古屋市、金沢市など、全国30以上でNet119を請け負っていて、使いやすさに力を入れている。

両備システムズ ヘルスケアソリューションカンパニー 大野功二郎さん:
緊急時の通報なので、より簡単に内容を伝えないといけないので、ボタンで回答ができるところと色合いですね。目の悪い方もいらっしゃるので、そういう方に伝わるユニバーサルデザインを採用した

2020年度末には全国の消防本部で運用予定…2019年には意見交換も

消防庁によると、Net119は全国726の消防本部のうち、168の本部が導入していて、岡山では岡山市や倉敷市、香川では高松市や丸亀市などで運用されている。
2020年度末には全国の残る全ての本部に広がる予定で、2019年 仙台市で開かれた「全国ろうあ者大会」では、全国の聴覚障害者と消防庁の担当者との意見交換が行われた。

全日本ろうあ者連盟 石野富志三郎理事長:
東日本大震災の時には、今ほどスマートフォンが普及していなかった。私たち、ろう者にとっては、いかに早くスムーズに通報できるかが問題だと思う

総務省消防庁防災情報室 田中雄章室長(当時):
消防としては、一刻も早く皆さまのもとに行き、救うために、(通報者の)位置情報が大事。早く全国どこでもつながるように引き続き頑張っていきたい

利用には事前の登録が必要で、岡山市では導入にともなって、2019年11月に登録説明会が開かれた。2018年の西日本豪雨で被災した聴覚障害者も、Net119に期待を寄せている。

ーー西日本豪雨の時は通報できましたか?

西日本豪雨の被災者:
できなかったです。すぐに連絡できて、消防や救急に来てもらえるのはいい

使用方法を定期的に確認 娘「母には父と同じようになってほしくない」

2016年に火事で夫を亡くした入星さんも、娘の川井千鶴さんに登録を手伝ってもらい、いざという時のために定期的に使い方を確認している。

川井千鶴さん:
母親に父親と同じようになってほしくないという思いがあり、必ずNet119を登録するように話した

入星弘子さん:
何かあった時のために練習をしたい。健常者と聞こえない人が同じようにすぐ通報できるようになったらいい

いつでも・どこでも、手軽に通報できるNet119。
聴覚障害者の通報のバリアフリー化につながるはず。

(岡山放送)

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