迷惑な“いたずら予約”
おいしい料理や心のこもったサービスで利用客のお腹も心も満たしてくれる飲食店だが、奈良市にあるとんかつ店「まるかつ」が、あるいたずらで迷惑しているという投稿が話題になっている。
「年に1~2回ほど、電話でお弁当を何人前も注文しながら来店されない「いたずら予約」の被害にあいます。単にお忘れかもしれないので責めませんが、お弁当の無駄よりつらいのは、電話で予約を受けてくれたスタッフの申し訳なさそうな顔を見なければいけないことだということを、どうか知ってほしいです。」と投稿。
弁当を注文しながら来店しないため、お弁当が無駄になってしまっているという。確かにこれでは予約を受けたスタッフも申し訳なく感じてしまうのも無理はない。何か事情があり、どうしても取りに来れない場合もあると思うが、意図的に取りに来ないということであったら、弁当を作った人の気持ちを考えない悪質な行為である。
投稿には「食べ物には色んな方が関わっています。なぜこんなことができるのか理解できません」や「店長さんやスタッフさんの笑顔を見ているだけに悔しいです」などのコメントが寄せられ、22万超のいいねが付いている。(11月15日現在)
“いたずら予約”について「まるかつ」の店長・金子友則さんにお話しを伺った。
被害額は1度で1~3万円
ーー11月12日の投稿にあるお弁当は“いらずら予約”で無駄になったお弁当?
以前のお弁当のものです。無事お届けできたものです。「飲食店へのいたずら予約で逮捕された」というニュースを受けて、これから年末の忙しい時期に私どもも被害に遭いたくなく、ほかの飲食店のためにも日頃思っていたことを啓蒙のために今回のタイミングでツイートしました。
ーー“いたずら予約”は年に1~2回?
はい。悪意のあるいたずらなのか、忘れてしまったのか、それとも何かトラブルがあったのか当方ではわかりませんが平均1~2件です。
ーー一度にどれくらいの弁当が無駄になる?お弁当は処分される?
5から多いときで20個程度です。お店にいらっしゃるときはお客様にお土産として説明してプレゼントしたり、スタッフに持って帰ってもらったり、ご近所にお配りしたりします。
ーー被害額としてはどれくらいになる?
1~3万円です。“いたずら予約”のときは、きまってそこそこまとまったご注文や単価の高いメニューが多い気がします。飲食店がこれだけの利益を出そうと思ったらたいへんなのです。ただでさえわずかな利益がふっとびます。
ーー忘れていたというケースもあった?
忘れられているケースは2~3個など少ないご注文のときです。忘れていてわざわざ電話をしてくださったりすることもあり、そういうときはお互い様ですから、納得できますし「お金を支払う」と申し出ていただいても、いただくことはありません。お弁当もだれかにプレゼントしますので、無駄にはなりません。
ーー“いらずら予約”の電話を受けてくれたスタッフには何と声をかけている?
「悪くないので気にせんといてください(気にしないでください)」です。お名前や電話番号を聞くなど、基本的なことをしている場合は、スタッフの責任はまったくありません。やはり、そのスタッフが傷つくのがかわいそうです。今後、そのスタッフが電話にでるたびにお客様を疑ってしまうことにもなりますし。
かといって、予約の時にお客様に根掘り葉掘り、個人情報を聞くのも失礼ですし、そんなことしていたら信頼されていないという印象を与えてしまい、お弁当がおいしくなくなるのも申し訳ないですし、なかなか難しいです。
大半のお客様が当店を信じてお食事していただける以上、こちらもお客様を信じたいと思います。
ーー警察に相談するなど何か対応は考えている?
しません。実際は電話をして折り返しても、まったく出てくれなかったりしますし、違う番号を伝えてくるケースもあり、諦めます。
“いたずら予約”は年に1~2回ということだが、利益を出さなければならない中での、1~3万円の被害額は店としても経営に直接関わる深刻な問題と言えるだろう。
そして、「まるかつ」では特に対応もしていなく、諦めているという。
では、“いたずら予約”について何かしらの罪に問えるのか。
横浜西口法律事務所の飯島俊弁護士にお話しを伺った。
偽計業務妨害罪に該当
ーーお弁当を何人前も注文しながら、取りに来ない“いたずら予約”は罪に問える?
偽計業務妨害罪に該当します。刑法233条は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害したものは、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
ここにいう「偽計」とは,嘘をついて人を欺くことですので、嘘の注文をして店に作らなくてよいはずの弁当を作らせて業務を妨害したので、偽計業務妨害罪にあたります。人を騙して損害を与えるというと、真っ先に詐欺罪が思い浮かぶかと思いますが、詐欺罪は人を騙した結果、犯人などが利益を得ることで成立する犯罪ですので、いたずら注文では詐欺罪は成立しにくいと思います。
ーー“いたずら予約”は回数や予約した数によって罪の重さは変わってくる?
いたずら予約をした数日後などに、またいたずら予約をすれば、それぞれ別の犯罪として扱われます。そのため、2件の偽計業務妨害罪が成立することになります。当然1件だけの場合に比べて2件の犯罪があったほうが罪の重さは増し、刑も重くなります。
また、予約した弁当の数が増えれば、それだけ店に与える損害は大きくなり、犯罪としての重大性が大きくなっていきます。そのため、やはり罪の重さが増し、刑も重くなります。
ーー取りに来るのを単に忘れてしまっていた場合は罪になる?
犯罪が成立するには犯罪をするという意思(故意)が必要です。最初は取りに行くつもりだったのに、忘れてしまって取りに行けなかったような場合は故意がなかったといえるので、偽計業務妨害罪は成立しません。ただ、最初取りに行くつもりだったかどうかは人の気持ちの問題ですので、非常に判断が難しいところです。例えば、取りにいけるはずもない遠方の店に注文したり、会合などの予定もないのに大量の注文したりした場合には、最初からいたずら目的だったとされやすいでしょう。
ーー“いたずら予約”をされた場合どのように対応するべき?
そもそもいたずら予約ができないようなシステムを作るのが一番です。ネット予約で代金を事前にカード決済できるようにしたり、注文者の本人確認をきちんとすることができれば、いたずら注文などできなくなるはずです。
ただ、個人店や忙しい時間帯などではそのような対策にも限界があると思いますので、被害にあってしまったときは警察や弁護士に相談してください。警察が犯罪として扱ってくれなかったとしても、損害賠償請求をすることができる可能性はあると思います。
電話番号などから本人を特定できる可能性はありますが、何も情報がなければ調査も出来ません。ただ、お弁当の代金請求となると、数千円程度かと思いますので、弁護士に依頼して裁判をすると弁護士費用の方が高くなってしまい現実的でありません。やはり事前の予防策をとっておくことが最も効果的な対応かと思います。
“いたずら予約”は偽計業務妨害罪に該当するということで、電話番号など何か少しでも情報があれば警察や弁護士に相談するのが良いだろう。
「まるかつ」では無料食堂も
また、「まるかつ」ではお腹がすいても家にお金がないときやお子さんにおいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいのに事情があって難しいときなどの場合に無料でお腹いっぱい食べることができる「まるかつ無料食堂」を行っている。
子どもだけではなく、大人、高齢者の貧困なども問題視されている中、店長の金子さんが、きっと何もしないよりはいいかもしれないと思い、今ある社会のセーフティーネットで拾いきれないことが、無料食堂で拾えるかもしれないと考え「まるかつ無料食堂」を始めた。
お腹いっぱいに食べたくても食べられない人もいる中で問題になっている“いたずら予約”。社会全体でこのような悪質な行為が無くなり、弁当の無駄も無くなる仕組みを考えていく必要がある。