東京の駅構内が迷路のようで、自分がどこにいるのか分からず、目的の場所にたどり着くまでにひと苦労した経験は一度や二度にとどまらないはず。

これがベビーカー利用者の場合、状況はさらに厳しい。ベビーカーを押しながらエレベーターやおむつ替えのスペースを探してウロウロし、「位置がすぐ分かるようになればいいのに…」と願っている人も多いだろう。

そんな苦労の絶えない人たちにとって、東京メトロの「ありがたい」サービスが登場した。

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こちらの画像は、東京メトロの「表参道」駅の駅情報が表示されている。
「地上・ホーム間」「のりかえ」「おむつ替え」「ホームベンチ」といった、すべての項目に「○」がイラスト付きで表示されており、見たところ「表参道」駅の評価は高いようだが…。

これは、東京メトロの開発したサービス「ベビーメトロ」
ベビーカーの利用客が抱える、「あの駅、ベビーカーで行っても大丈夫かな?」という不安の解消を目的としたサービスだ。

操作は、公式サイトにアクセス後、東京メトロの9路線(銀座線、東西線、半蔵門線、丸ノ内線、千代田線、南北線、日比谷線、有楽町線、副都心線)から自身の気になる駅を選択するだけ。すると、当該駅における

1. 赤ちゃんをベビーカーに乗せたまま、エレベーターのみの移動でホームと地上を行き来できる環境にあるか

2. 赤ちゃんをベビーカーに乗せたまま、エレベーターのみの移動で他路線への乗り換えができる環境にあるか

3. 赤ちゃんのおむつ替えが可能な環境が整っているか

4. 休憩が可能なホームベンチが設置されているか

といった点を「○」「△」「×」で表示してくれるのだ。さらに乗り換えや目的地別の「乗車位置案内」や、イラストなどを駆使してエレベーターやおむつ替え施設が当該駅構内のどこに位置しているか、一目で分かるような「地図・構内図」という機能もある。

「表参道」駅ではすべて「○」の反面、「上野広小路」駅では「のりかえ」に「×」、「地上・ホーム間」と「おむつ替え」に「△」の表示があった。
「表参道」駅ではすべて「○」の反面、「上野広小路」駅では「のりかえ」に「×」、「地上・ホーム間」と「おむつ替え」に「△」の表示があった。

このサービスは、東京メトロの社内提案制度「メトロのたまご」を通じて2016年に提案後、開発開始。機能の絞り込みや審査・検証等を重ね、2019年8月1日より正式サービス実施となった。

注目すべきは、東京メトロ自身が開発したサービスでありながら「×(ない)」ということも表示している点だ。

ユーザーにとってありがたい「○」はともかく、「×」はベビーカー利用客にとって優しくない駅と思われる可能性もある。
なぜ「×」まで表示することにしたのか?それは駅構内の今後の環境整備で「×」がなくなるからということなのだろうか?
東京メトロの担当者に話を聞いてみた。

妊娠中の妻が漏らした一言が開発のきっかけに

ーー「ベビーメトロ」を手がけたきっかけは?

提案者の妻が妊娠中の頃に漏らした、「地下鉄って分かりづらいよね」という一言をきっかけに、何かサポートできることはないかと考えた結果、妊婦やお子さまをお持ちのお客さまに対し、分かりやすい情報を素早くシンプルにお届けするサービスを思いつきました。

ーーサービス全体の開発体制を教えて。

開発会社様が約5名、弊社側は提案者含む3名の体制でプロジェクトを進めておりました。弊社側は社内提案でのプロジェクトであるため、本業務のかたわらでの取組みとなりました。

ーーサービス開発の際に、一番気を遣ったことは何?

機能を取捨選択しながら最適化していったことです。
当初は、機能をたくさん盛り込んだ万能ご案内サービスを目指していたこともありましたが、お客様の求めるものについて、プロジェクトメンバーで深く考え、ベビーメトロの根幹でもある「本当に必要なものをよりシンプルに分かり易く情報提供する」ということを常に心がけていました。

2019年8月1日からの本サービス化を知らせる広告
2019年8月1日からの本サービス化を知らせる広告

「×」を表示することで、「回避する」という選択ができる

ーー今回、「×(ない)」という情報も出すことにしたのはなぜ?

お出かけ時の弊害(例えば段差)を取り除こうとする場合、

・ハード面として弊害を物理的に除去するか(エレベーターを設置するなど)
・ソフト面で弊害を間接的に解消するか(駅係員による補助など)

が主な手段ですが、 「×(ない)」という情報を表示することで、第3の「回避する」という選択をすることができるようになると考え、あえて表示することとしました。

ーー「×(ない)」という情報を出すことに、社内から反対の声はあった?

先にお答えした意図での公開となるため、「×(ない)」という情報を出すことについては反対の声はありませんでした。

ーーおむつ替えやホームベンチの「△」や「×」は全体のどのくらいを占めている?

現在時点での情報ですが、おむつ替えの「△」や「×」は約24%となっております。ホームベンチは、「×」のみですが約3%となっております。

ーー「ベビーメトロ」の内容を参考に、駅の環境や造りを今後見直していく、ということもある?

駅については、「バリアフリー整備ガイドライン」に基づき整備に努めているところではありますが、今後は2020年のオリンピック・パラリンピックなども見すえ、エレベーター1ルート(地上からホームまでエレベーターを使って移動できるルートが1つはある)、複数ルートの整備を進めております。

エレベーター1ルート整備については、2020年夏時点で177駅(98%)が整備完了となる予定です。

ユーザーだけでなく、駅係員も「大変助かっている」

ーー「ベビーメトロ」の現在の利用者数とその構成は?

ユーザ全体の40%程度で属性を取得できておりますが、20代から30代の利用者が多い状況です。また、利用者に関しましては、月間平均1万5千ユーザーの利用がございます。

ーーこれまでのユーザーからの反応は?

「こういうサービスを待っていた!」「ベビーカー時代に利用したかった!」「ベビーカー利用者だけでなく車いすや旅行者などにも使えそう」など、さまざまな前向きなご意見をいただいております。

ーー現在寄せられている要望には、どんなものがあるの?

弊社事情で申し訳ないのですが、思いのほか駅係員から、「ベビーメトロ」を駅係員用iPadで使い、お客様からのご質問に対するご案内に活用しており、大変助かっているという声がありました。
シンプルな構成かつウェブサービスならではの表示の早さが、お客様へのご対応時に役立っているということでした。

ーーサービス開始後、予想しなかったような反応や声はあった?

「他鉄道の情報を掲載してほしい」というご要望は多く寄せられています。
少しでも皆さまのお役に立てるよう、いただいたご要望を真摯に受け止め、検討を進めてまいります。

ーー今後、実装を考えている機能などはある?

まだ検討段階ですが、「現在地情報を表示する」など、地図機能の充実を図りたいと考えております。ウェブサービスならではのレスポンスの早さやデバイスを問わないという点が、「ベビーメトロ」の良いところですので、スマホでアプリ化する予定はございません。

ベビーカーだけでなく車いす利用客にとっても便利なこのサービス。
全てが「○」の駅になるのが理想ではあるだろうが、東京メトロはあえて「×(ない)」表示をすることで、ベビーカーなどの利用客に「回避する」という選択肢を提供しているということだった。

(画像提供:東京メトロ)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。