地震、台風、大雨...災害はいつどこで発生するか分からない。

2019年10月に「台風19号」が来たかと思えば、12月には関東などで地震が頻発。全国各地で相次ぐ自然の猛威に「自分の住む場所、これから大丈夫?」と思った人も多いのではないだろうか。

そんな不安の解消に、私たちも目にする「地名」が役立つのだろうか。

日本全国にはさまざまな地名があるが、名称には何らかの由来がある。その由来には、地域ごとの土壌・土地柄を表現しているものも少なくないと聞く。

そこで今回は、古文書や文献、集落への聞き取り調査などで地名を研究する全国団体「日本地名研究所」を取材。事務局長の菊地恒雄さんに、地名の意味や調べ方のポイントなどを伺った。

災害の影響を予測するヒントにはなる

――地名から土地の危険性、安全性などは分かる?

災害はいつどこで起きるか分からないので、「この地名が危険」とは言いにくいです。
ただ、災害の影響を予測するヒントにはなるかもしれません。

例えば、台風19号では、多摩川沿いの東京・田園調布が浸水被害に遭いました。田園調布=安全というイメージがあるので、「あの田園調布がなぜ?」と思われたかと思います。実は被害が目立ったのは田園調布本町付近で、そこはもともと「下沼部」と呼ばれた湿地帯だったのです。

日本地名研究所の事務局長・菊地恒雄さん
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――土壌に関係する地名には、どんなものがある?

地名の由来は諸説あるので一概に言えませんが、過去の地形に由来することもあれば、土地を「埋めた」ことに由来する、大阪・梅田のようなパターンもあります。台風19号の水害を考えると、水や湿地に関連する地名は注意してもよいかもしれません。今は造成されて平らな土地も多いですが、そこが安全なのは排水路などが整備されているからとも考えられます。

菊地さんによると、水や湿地に関連する地名には、このようなものがあるという。

【水や湿地に関連する地名】
・ヌマ、サワ(表記例:沼、沢など)
近隣やその地域自体が、過去に沼や沢だったことが考えられる

・スカ、ハマ、ウラ(表記例:須賀、浜、浦など)
スカは水流で砂が堆積した場所、ハマとウラは海沿いであったことを示している

・ヤ、ヤチ、ヤツ、ヤト (表記例:谷、谷地、谷津、谷戸など)
アイヌ語の泥炭地という意味から来ている。湿地帯に使われることが多いという

一見すると水や湿地帯と遠く感じる地名でも、関連していることもある(画像はイメージ)

そして一見すると、水や湿地に遠く感じる地名でも、関連していることもあるという。

・クルミ(表記例:胡桃など)
川の湾曲した場所を「ネグルミ」を呼んだことから来ている

・カキ(表記例:柿など)
水流などで土が欠けた場所を「カキ」と呼んだことから来ている

・ジャヌケ(表記例:蛇抜など。蛇崩や蛇喰などの派生形もある)
長い河川をヘビに例えたことから来ている。崩れやすい土地であることを示唆している

・ドブ(表記例:土腐)
湿地や溝をどぶと呼んだことから来ている。現在は改称されていることも多い


ここで注意しておきたいのが、地名は同じ読みの漢字に変わるケースも多いこと。例えば、湿地隊を現わす「谷」は「ヤ」とも読めるため、現在では「矢」に変わっていたりもするという。
それでは逆に、居住に適しているような地名はあるのだろうか。

「ここが安全」という地名はない

――それでは、居住に適している地名はある?

これは難しいです。「ここが安全」と断言できる地名はないのではないでしょうか。世間一般では「丘」などの付く土地が安全と言われますが、土地のデベロッパーが土地の付加価値を高めるために改称させた可能性も考えられます。地名で安全な土地を探すというよりは、リスクを教えてくれることもある存在と考えた方が良いでしょう。

土地の成り立ちやリスクは想定できるが、地名から安全な土地を探すのは難しいようだ。
そう考えるとイメージのよい地名を選びたくなるものだが、ここで注意が必要という。

きれいな地名は改称された可能性もある

――地名を見るときに注意すべきことはある?

地名の改称には注意するべきでしょう。埼玉・八潮市には、垳(がけ)という地名があります。ここの由来は私たちが想像する崖ではなく、川の流路から来ていますが、「イメージが悪い」という理由で改称されそうになったことがあります。そこで、市側が地名を公募しましたが、寄せられた意見は、地域と関係の薄い「緑」「桜」といったものばかりだったのです。

結局、垳という地名は残ることになりましたが、この件できれいな地名は改称するときに選ばれがちであることが分かりました。

八潮市には垳川という河川もある(画像はイメージ)

短期間で地名が改称される例もあります。東京・品川区の湿地帯には、「上蛇窪」と「下蛇窪」という地名がありましたが、昭和7年(1932年)、神社があることに由来して「上神明」と「下神明」になり、さらに昭和16年(1941年)には「二葉町」と「豊町」と変わりました。


地名を調べるときには、改称された可能性があることも踏まえておく必要がありそうだ。
それでは、私たちのような個人が古い地名を調べる方法はあるのだろうか。

地名は「微細地名」と「音」でひもとく

――個人が古い地名から土地を調べる方法はある?

土地の成り立ちを知るには、現在の地名では隠れてしまっている「微細地名」がヒントになるのではないでしょうか。地名は後付けの話がいわれとなることも多いのですが、微細地名は土地周囲の景観、通称などが由来になっていることも多いのです。



菊地さんによると、微細地名は現在の大字・小字よりも後に来る部分。明治時代の初めころまでは各地域にあったが、今では○○番地などに置き換えられているという。

例えば、台風19号で浸水被害を受けた、武蔵小杉駅周辺はその昔に「上丸子村古川耕地大下」と呼ばれていたとのこと。ここの微細地名である「大下(オオシモ)」は「用水路の最も下(シモ)」から来ていて、さらにそれより前部分の「古川」は現在の多摩川に当たるという。つまり、上流から流れてきた多摩川の水が集まりやすい場所であることが想定できるという。

長野県地名研究所のように、地名と災害との関連性を調べた本を制作するところもある

――微細地名はどのように調べたらよい?

「旧市町村」が収録されている地名辞典で確認できます。図書館などで貸出されていることも多いので、興味がある人は調べてみても良いかもしれません。ただ、この地名辞典では呼び名の由来までは分かりません。そこまで知りたいときは、地域で長年暮らしてきた高齢者に聞いたり、日本地名研究所や日本地名研究所に加盟する研究会に聞くのが早いと思います。
(日本地名研究所や加盟研究所はこちらのウェブサイトから)

長野地名研究所が制作した本では、災害の関連地名などが地図でまとめられている

――そこでの注意点はある?

地名全般に言えますが、字面ではなく「音」で考えることが大切です。
例えば、台風19号では、千曲川(長野県)や阿武隈川(宮城県・福島県)で堤防決壊などの被害が出ました。この河川を声に出して読むと「チクマガワ」「アブクマガワ」で、「クマ」が共通しています。実は「クマ」という言葉には、蛇行して奥が見えないという意味が含まれているのです。字面は違っても同じ意味が隠れている、例と言えるのではないでしょうか。

台風19号で堤防が決壊した千曲川

地名から土地の災害リスクを断定できるわけではないが、微細地名などからその土地がどんな成り立ちだったのか、昔の人からどう呼ばれていたのかは、調べておいても損はないのではないだろうか。

菊地さんによると、最近は微細地名の意味を知る人も少なくなりつつあるとのこと。
日本地名研究所においては高齢化も進み、2019年12月現在、個人会員約200人の平均年齢は70代。体調を崩して、活動が休眠状態になる人もいるという。新規会員も募集しているので、地名に関心がある人はコンタクトをとってみてもよいかもしれない。

※地名の由来には諸説あります。また記事内で挙げた地名は災害に遭う危険性を示しているものではありません。



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