家を建てる時のポイントといえば、立地に間取り、快適性などが挙げられるが、災害大国の日本においては“防災性”も重要だろう。2019年は、台風や大雨による被害が多かったこともあり、水害や風害に対する意識も高まってきている。

では、どのような形状・構造の家が「災害に強い」といえるのだろうか。一級建築士の井上恵子さんに、家の防災性を高める方法や工務店・住宅メーカーなどに確認すべきことを聞いた。

建築基準法改正によって「震度6強~7の地震でも倒壊しない家」が最低条件に

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「地震、水害、風害に対する強さを、まとめて評価することは難しいです。ただ、1つ言えることは、現在の日本の建築基準法に基づいて建てられた家は、災害に対してある程度の強さが保証されているということ」

1981年に建築基準法が改正され、新たな耐震基準が制定された。そのため、同年6月1日以降に建築確認申請を取得して建てられた建物は、「震度6強~7」の地震で倒壊・崩壊しない強度であることが、最低条件となっているのだ。また、風に関しては、例えば東京郊外の住宅地で、高さ10mの位置で「平均風速が約35m/秒、最大瞬間風速が約50m/秒」に相当する暴風が吹いても、倒壊・崩壊しない程度と定められている。

2019年9月9日に日本に上陸し、千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号の最大瞬間風速は、千葉県千葉市で50m/秒超(国土交通省の発表資料より)。建築基準法が想定する風速を上回ったため、被害が大きかったのだと考えられる。

「災害の多い日本において、建築基準法は“生きた法律”といわれます。大災害を経験するたびに住宅の損壊具合を調べ、改正を繰り返し、基準を高めてきたからです。そのため、現在では数百年に1回といわれる関東大震災級の地震が起きても、倒壊・崩壊しない家を建てることが定められています。ただ、『倒壊・崩壊しない程度』とは『人命が損なわれるような壊れ方はしない』ということであり、建物の傾きやひび割れなどは許容されているんです」

建築基準法は、あくまで“人命を守る最低限のレベル”を示したもの。そこで、建築基準法を上回る耐震性を測る基準として、2000年に住宅性能表示制度が設けられた。建築基準法と同等レベルの「耐震等級1」から、もっとも厳しい「耐震等級3」までの3つのレベルが設定されている。

「住宅性能表示制度ができてから、耐震等級を指定して家を建てられるようになりました。工務店に依頼する時は『耐震等級3がいいです』とお願いすれば理解してくれますし、オリジナルの耐震技術を持つ住宅メーカーには、『耐震等級でいうとどのレベルの家が建てられますか?』と聞くと、答えてくれますよ」

ただし、地震と風害に関しては、建築基準法や住宅性能表示制度を基準にできるが、水害に関しては測れないという。

「水害に関しては、建物だけでは防ぎきれないので、ハザードマップをもとに浸水の恐れがある地域を避けることが重要です。家の基礎を高く作れば、浸水は防げるかもしれませんが、日々の生活に支障が出ますし、工事費もかさむので、現実的ではありませんね」
 

「形状がシンプル」かつ「屋根が軽い」家ほど防災性は高まる

建築基準法によって、最低限の安全性が保たれていることはわかったが、より防災性を高めるポイントなどはあるだろうか。

「災害に強い家に欠かせない要素は、『地盤』『建物』『施工』の3つです。液状化などの恐れのない強い地盤を選び、災害に強い造りの建物を設計し、きちんとした施工で建てること。すべて当たり前のことですが、しっかり検討しましょう」

地盤は、国や自治体が公開しているハザードマップで調べることができる。過去に沼や水田だった場所や、谷に土を盛って造成した土地は、地盤がやわらかい可能性があり、地震や風の影響を受けやすいそう。

建物は、“シンプルなもの”がもっとも災害に強いとのこと。例えば、L字などの複雑な形の家よりも、長方形の家の方が頑丈。上層部が軽い方が建物は安定しやすく、災害に強くなるため、屋根を軽い素材で作ると安全性は高まるという。

「施工は会社によって異なりますが、工務店に依頼する場合は、地域密着型の会社だと評判を重んじ、きちんと施工してくれるところが多く、信頼性も高いと思います。家を建てている現場を設計士さんにチェックしてもらったり、自分で見に行ったりすることも大切です」

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年々劣化する家の強さを維持するには「定期的なメンテナンス」が必要

既に家を建てた後だったとしても、1981年6月以降に建築確認申請を受けて建てていれば、「新耐震基準」が適用されているため、地震や台風の被害に遭う恐れは低いということになる。しかし、井上さん曰く、「必ずしもそうとは言えない」とのこと。

「家は、建った瞬間から劣化が始まるので、築年数が経っているとリスクも上がっていきます。定期的にメンテナンスをしていれば、極端に不安がる必要はないと思いますが、心配であれば耐震診断を受けるといいでしょう」

日本建築防災協会のホームページでは、「誰でもできるわが家の耐震診断」が用意されている。10個の質問に回答すると、今後の対策を提案してくれる。そこで不安な点が見つかれば、専門業者に依頼してみるといいだろう。

「1981年6月の建築基準法改正前に建てられた『旧耐震基準』の家でも、耐震補強を施していれば、ある程度の強さは保証されます。例えば、柱と柱の間に筋交いを追加したり、構造用合板を貼って耐力壁を増やしたり、屋根材を軽いものに変えたり、補強の方法は家の状態によって異なるので、建築士や工務店と相談して決めましょう」

ちなみに、2000年の建築基準法改正によって、木造の建物に関する法律がアップデートされ、防災の基準も高まっている。一方、鉄筋コンクリートの建物は、1981年の改正後、2006年に一定の高さ以上の建築物について、建築確認と検査が厳しくなるといった改正がなされている。

「鉄筋コンクリート造が多いマンションは、1981年6月以降の『新耐震基準』のものであれば、基本的に災害に強いといえます。特に、柱と梁を使わずに壁を多く設ける『壁式構造』でできているマンションは、地震に強いといわれています。とはいっても、建築技術は日に日に進化しているので、柱や梁を使う『ラーメン構造』も、数十年前と比べると強くなっています」

取材の最後、井上さんが「家の役割は、住む人の命と財産を守ること」と、教えてくれた。その役割を果たすためには、災害に負けない強さがなければいけない。実際に家を建てる際には、時間や費用がかかったとしても、工務店や住宅メーカーに家の構造や耐震性を確認しながら、安心感を持って進めたいものだ。

住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所所長の井上恵子さん
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所所長の井上恵子さん

井上恵子
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所所長。一級建築士、インテリアプランナー、大学非常勤講師。日本女子大学住居学科卒業後、総合建設会社の設計部に入社。主にマンション、オフィス等の設計・インテリアデザイン、マンションの性能評価申請を担当。2004年に独立し、保育園の設計・工事管理、マンション購入セミナー講師などを務める。著書に『大震災・大災害に強い家づくり、家選び』など。

住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/

「どこに住む?“災害大国”の家選び」特集をすべて見る!
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取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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