2019年も自然災害によって大きな被害に見舞われた日本。特に台風被害が大きく、台風15号では千葉県を中心に風害、台風19号では東日本に大雨をもたらし、河川の氾濫が相次いだ。

また2018年は北海道胆振東部地震や大阪北部地震など大きな地震も発生し、地震・大雨・風害など災害が様々な地域で起きる状況に「もはや日本に、安心して住める場所はない」と思う人もいるかもしれない。
 

居住先の選定に「異常気象リスクマップ」は参考にできる?

このような中、「安心して住める地域」を示すデータはないものかと探していたところ、例えば大雨については、気象庁が公開しているもので「異常気象リスクマップ」というものがあった。全国各地における極端な現象の発生頻度や長期変化傾向に関する情報を示したものだ。

数値は気象台や測候所など約100年分(1901年〜2006年)の日(24時間)降水量データを元に、「30年に1度」「50年に1度」「100年に1度」「200年に1度」の日確率降水量として推定。地点別一覧を見ると、長野の確率降水量が1番少なく名瀬(鹿児島県・奄美大島)が1番多い。

このような数値は居住先の災害リスクの参考にして良いものなのだろうか? 活用の仕方を気象庁の担当者に聞いた。

(出典:気象庁HPより)
(出典:気象庁HPより)
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ーーマップにある「確率降水量が多い」は災害が起きる可能性が高いということ?

いえ、そうではありません。その地域のインフラの整備度合いなど他の様々な要因もありますので、必ずしも多い地点ほど災害が発生しやすいというわけではありません。

同様に「確率降水量が少ない地域は災害が少ない」とも言えません。確率降水量が少なくても、その雨量で災害に結び付くこともありえますので、一概に確率降水量を災害リスクの大きさと捉えない方がいいでしょう。

ーーこれから移住する地域を決めるときには参考にならない?

災害が起きるのには要因がさまざまあるのですが、このマップで分かるのは雨量だけになります。ですので、例えば地方公共団体で作られているハザードマップや治水状況など、そういった情報も集めて総合的に判断する必要があると思います。

ーーでは、この数値を一般市民はどのように活用したらいい?

気象庁などが「今後これくらいの雨が降る」という予報を発表することがあります。その時にマップの数値と照らし合わせ、気象庁が予測する雨量と確率降水量と比べてみてください。「この後100年に一度の雨が降りそうだ」などが個人でも分かり、避難すべきかどうかなどの参考になると思います。
 

比較的 “自然災害が少ない”県の一つは栃木県

気象庁が公開しているこのマップは、低い数値だから災害リスクが少ないというものではなかった。

視点を変えてさらに調べてみると、比較的 “自然災害が少ない”県を見つけた。その一つが栃木県で、移住・定住促進サイトなどで「災害の少なさ」を魅力の一つとしてアピールをしているのだ。

これには客観的な指標もある。自然災害に対するリスクGNS(Gross National Safety natural disaster)だ。自然災害(地震、津波、高潮、土砂災害、火山災害)が発生するリスク(暴露量)とハード・ソフトの災害対策(脆弱性)を掛け合わせて、都道府県ごとの災害に対するリスクを指標化したものだ。地盤工学会関東支部がまとめており、2017年版では鳥取県の次に栃木県が自然災害のリスクが少ない都道府県となっていた。

また栃木県が2019年に行った調査では、県民の約6割が栃木県のイメージとして「自然災害が少ない」ことをあげたという。
しかし実際のところはどうなのか? 栃木県の広報課を通して各課に聞いた。
 

(出典:栃木県移住・定住促進サイトより)
(出典:栃木県移住・定住促進サイトより)

まずは危機管理課に、栃木県における自然災害の発生件数や防災への取り組みについて話を聞いた。

危機管理課が消防白書(平成21年〜平成30年)から抽出したデータによると、栃木県はこの10年間の合計で人的被害(死者・行方不明者・負傷者の合計)が342人で全国27位、住宅被害(全壊・半壊・一部破損数の合計)75,917棟で43位となっている。

この数字だけみると自然災害が多いようにも見えるが、栃木県は平成23年の東日本大震災で被災していることを考慮しなければならないだろう。

さらに過去(平成9年〜18年の10年)を遡ると、自然災害における平均死傷者数が全国46位、同平均被害建物棟数が42位というデータがある。
 

(出典:栃木県HP、県統計課が作成)
(出典:栃木県HP、県統計課が作成)

条例を作り、県民一体となって防災意識の向上

ーー実際に大きな災害が起こりにくい場所なの?

地震に関してですが、県内には関谷断層と大久保断層の2つの主要断層帯がありますが、関谷断層は今後100年地震発生率はほぼ0%、大久保断層は2%と評価されています。(地震調査研究推進本部の長期評価(H27.4.24)より)

また、内陸県のため海洋型の地震では海岸地区に比べ揺れが小さくなる傾向があります。


ーー栃木県では災害に強いとちぎづくり条例を平成26年から施行している。その理由は?

県では、様々な防災対策を進めていますが、災害発生時における被害を最小化し、その迅速な回復を図るためには、行政による防災対策に加え、個人の取り組みや地域における住民、学校、企業等の多様な主体が連携協力して災害へ対応する能力を高めていくことが重要です。

そのため、災害から尊い生命、身体及び財産を守り、全ての県民が安全に安心して暮らすことのできる社会の構築を目指し、災害に強いとちぎづくりに一体となって取り組むため、災害に強いとちぎづくり条例を制定しました。


ーー自然災害が少ないとしても、県民にはどのように防災意識を持ってほしい?

危機管理部門としては、県民の皆様に防災への意識を高く持ち、災害への備えを進めていただきたいと考えています。ご自身のお住まいの地域でこれまで災害が起こらなかったといっても安心せず、いつ災害が起きても命を守れるよう備えていただきたいです。
 

栃木県庁の展望台からみた風景(画像:栃木県)
栃木県庁の展望台からみた風景(画像:栃木県)

自然災害のリスクが比較的少ないことは魅力の一つ

また、移住や企業誘致においては「栃木県の自然災害の少なさ」を紹介している。その理由についても話を聞いた。

ーー栃木県移住・定住促進サイトには「自然災害が比較的少ない」を挙げているのはなぜ?

台風や地震などの自然災害のリスクが比較的少ないと言われていることは、移住先選択における検討要素の1つであると考えられるため、栃木県の魅力の1つとして挙げてました。(地域振興課)


ーー合わせて「産業団地のご案内」においては、「災害に強い栃木県」との記載がある。その理由も教えて。

県が策定している「とちぎ創生15戦略」(とちぎそうせいいちごせんりゃく)の中で、「企業が考える栃木県の立地環境の優れた点」として「リスク分散」があります。企業が立地場所を選ぶに当たり安全・安心の操業を実現するための要素として災害リスクの少なさを重視しているため、栃木県の魅力の1つとして挙げています。

また、近年の台風災害等の発生状況を考慮すると、「栃木県企業局 産業団地のご案内」のHP内で「災害に強い栃木県」をアピールしていくことについては検討していきたいところです。(企業局経営企画課)
 

(出典:栃木県のHPより)
(出典:栃木県のHPより)

県民の思いとは裏腹に、栃木県庁の担当者が“自然災害が少ない”とアピールすることが難しくなってきていると語るように、近年の災害はこれまでの常識が通用しなくなってきているようだ。

 

「どこに住む?“災害大国”の家選び」特集をすべて見る!
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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。