教習車にも「あおり」…被害の実態は?

8月に連日報道された“あおり運転”の被害。
発端となった茨城県常磐道での“あおり運転殴打事件”では、ドライバーがあおり運転の被害に遭った上暴行を受ける瞬間が鮮明に残されていたこともあり、世間に大きな衝撃を与えた。

こうした中、Twitter上に投稿された「教習車をあおらないでください」という栃木県の烏山自動車学校の訴えが、大きな反響を呼んでいる。



投稿はさらに「教習生は、とても気にしています。加速はまだ苦手ですが、交通ルールを守って練習しています。見通しの良い道路では、停車して、後続車をゆずるようにしています。教習生は、ベテランドライバーの皆さまの運転を、とても良く見ています。最高のお手本を♡」と続いている。

路上教習中の教習生があおり運転をされたらパニックになることは、免許を持っている人なら誰しも想像がつくだろう。その驚きの行為に「初心を忘れてしまっているのか」「教習生は煽られても対処出来ないよね」などの怒りの声が続々寄せられ、8万件をこえる「いいね」を集めているのだ。(8月29日現在)


車の運転に限らずすべてのことに、“初心者”である時期があるもの。
にわかには信じられないような話だが、以前からこのような“弱い者いじめ”のような行為は発生し続けているのだろうか。
投稿をした、烏山自動車学校にお話を伺った。

あおり運転は「数えきれないくらい経験」

――「教習車へのあおり運転」はどのくらいの頻度で起きている?

約15年指導をしている中で、後続車が接近してくる車間距離保持義務違反については、数えきれないくらい経験しています。追い越し禁止場所などでの、無理な追い越しも多く見られます。その他、警音器の乱用(発進が遅い場合など)は、月に数回あります。
車間距離保持義務違反については以前より減少していると感じます。

――大きなトラブルに発展した例はある?

車間距離を詰めてくる後続車に対しては、道を譲ることを徹底しているため、警察沙汰になるような大きなトラブルはありません。しかし「教習車が遅い」など、年に数回クレームの電話があります。


――あおり運転の他に発生しているトラブルはある?

滅多にありませんが、場内コースに侵入して暴走行為をされることが、以前ありました。

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お話を聞いた技能検定員の方によると、教習車への危険な運転は「数えきれないほど発生している」とのこと。
以前と比べて、車間距離を極端に詰めるなどの行為は減ってきているというが、はっきりと社名がわかる貨物自動車に幅寄せをされたこともあるといい、「信じられないようなことをする方がいらっしゃいます」とも話している。

“運転のプロ”と言える指導員が同乗しているとはいえ、教習生がパニックになり、あおり運転をする側だって無傷ではいられない大きな事故につながる危険な行為とわかるはずなだけに不可解だ。

理由のひとつに「弱者に対する軽視」

――あおり運転が発生してしまう原因はどんなものと考える?

あおる原因として、車間距離の感覚、時間に余裕がない焦り、他車のルール違反に対する怒り、弱者(初心者・高齢者・身障者マーク装着車、その他小さい車など)に対する軽視などが考えられます。車間距離や出発時間などに余裕を持つことで、あおり行為は、大きく減少すると思います。

――教習中の車に出会ったら、どのように接してほしい?

教習生は、他車の運転をとても気にしています。特に、後続車の車間距離は、とても気にしながら運転をしています。
教習生は、運転に不慣れなため、発進に手間取ったり、速度調整がうまくいかなかったりすることがあります。ベテランドライバーの皆様にとっては難しくないことも、とても気を使って注意深く運転をしています。少しだけ、車間距離に余裕を持っていただくことで、教習生は、とても安心して運転することができます。
車間距離と心に余裕をもつことができるドライバーが増えることを願っています。

――投稿には大きな反響がありましたが…

このように大きな反響を得ることができたことは、驚いていると同時に、多くの皆様があおり運転に関心があることを実感しました。
教習車に対してのあおり行為は、まだまだ少なくはありません。しかし、寄せられたコメントを拝見したところ、本当に多くの方が、教習車に対して優しい対応をしていただいていることを実感しました。
免許所有者の多くは、善良なドライバーだと思います。初心運転者へのお手本となるような運転をすることで、それが、より良い車社会への成長になるでしょう。
教習車を含めて、少しでもあおり運転が減ることを願っています。

「心に余裕を持つこと」が大切
「心に余裕を持つこと」が大切

そもそも「初心運転者等保護義務違反」

今回の投稿に対して「すぐに通報するなどの対処法も教えてほしい」という反応もあったが、実際あおり運転の被害に遭ってしまった場合、烏山自動車学校では以下の4点について指導しているという。
(1)車間距離を詰めてくる後続車に対しては見通しの良い場所で道を譲る。
(2)もし運転者が下りてきた場合は、ドアロックをして窓を開けずにすぐに110番通報。
(3)絶対に相手の挑発に乗らない、車から降りない、窓を開けない。
(4)ドライブレコーダーを装着する。

そして、もちろん全ての車に対して「あおり行為」はNGなのだが、道路交通法では「初心者運転者や仮免運転者・聴覚障害運転者・高齢運転者などの表示がある車に対して無理な幅寄せをする・割り込みを行ってはならない」と定められていて、これに違反する行為は「初心運転者等保護義務違反」にあたることも忘れてはいけない。普通自動車の場合は違反点数1点、反則金6,000円などのペナルティが課されることとなる。

取材した自動車学校の方の切実な願いが届き、全てのドライバーが心の余裕を持った運転を徹底し、一刻も早く「あおり運転」の文字がニュースから消えることを願ってやまない。


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プライムオンライン編集部
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