飼育員しか知らない?“本気”の姿

水族館といえば、イルカにアシカ、ペンギンたちのショーなどを楽しむのもいいが、のんびりと泳ぐ魚たちを眺めるのも魅力のひとつ。
時間を忘れて見つめていたい…そんな癒し系魚の代表格マンボウが「本気を出した」という情報が入ってきた。
まずは、大阪市にある海遊館の公式Twitterアカウントから発信された、こちらの動画をご覧いただきたい。



わずか8秒ほどの動画が開始すると、まずは水面付近をふわふわ漂う2匹のマンボウが登場。

まだ穏やかなマンボウたち
まだ穏やかなマンボウたち
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しかし、そこにエサが投げ込まれると…

水しぶきを上げて猛突進
水しぶきを上げて猛突進

画面奥からやってきたマンボウたちが、背びれを細かく動かしてエサに猛突進!
2匹が急接近してぶつかりそうになる場面にも、サッと体をかわして対応する素早さを見せつけた。

その機敏な泳ぎっぷりに「想像より速かった」「やればできる子じゃん」という驚きの声が寄せられ、動画は300万回に迫る再生数を記録(9月20日現在)。

しかし、マンボウといえば「ジャンプした衝撃で死んでしまう」だとか「水槽のガラスに衝突して死んでしまう」などの“最弱伝説”を聞いたことのある人も多いだろう。
それらのイメージからか、「本気で泳ぎすぎて死んじゃう…命を大事にして」など、ハラハラさせられたコメントも寄せられた。

意外なスピードは果たしてどれくらい? そして、こんなに本気の泳ぎを見せてしまって体を壊したりはしないのか…海遊館にお話を伺った。

「本気の泳ぎ」は日本王者を超えるスピード!?

――投稿のきっかけは?

「#共感してもらえない事」がたくさん投稿されていることを知り、海遊館広報チームのメンバーで、何か海遊館らしい内容はないかな?と相談して、いくつか出てきたアイデアのひとつがマンボウの泳ぎ方に関する内容でした。

――マンボウはどんな時に「本気の泳ぎ」を見せる?

餌を食べているときのほかに、何かに驚いたとき、水面からジャンプするときにスピードをあげて泳ぐことがあります。

投稿された動画は、高知県土佐清水市にある海遊館の研究施設「大阪海遊館 海洋生物研究所以布利センター」で2014年に撮影された映像を編集したもの。
もともとの映像は1分18秒ほどで、素早く泳ぎ回るマンボウたちの様子がさらにじっくり観察できる。

マンボウの体の特徴は、一般的な魚の「しっぽ」にあたる尾ビレがなく、背ビレと尻ビレの一部が変形した「舵ビレ」があるということ。
よくよく見てみると、体の上下に伸びた背ビレと尻ビレを同時にパタパタと動かしているのがわかるが、この“パタパタ”でスピードを出しつつ、その名の通り舵取りの役目をする「舵ビレ」で細かな方向転換をする、というのがマンボウの泳法だ。

5匹がバッティングしても素早いコーナリングで問題なし
5匹がバッティングしても素早いコーナリングで問題なし

――この「本気の泳ぎ」、どのくらいの速度が出るの?

海遊館では確認しておりません。『マンボウのひみつ(岩波ジュニア新書、澤井悦郎著)』によると、マンボウの平均遊泳スピードは時速約2.2km、最大遊泳スピードは時速8.6kmとのことです。



海遊館では調査等をしたことはないというが、文献によると、マンボウの最大遊泳スピードは時速8.6kmにもなるそう。

水泳の男子自由形50mの日本記録は、中村克選手が持つ21.16秒。
これを時速に直すと約8.5kmということで、そのスピード感がわかっていただけるだろうか。

もっとも、魚の中には時速100kmにも至る“超速”を誇るものもいるため、マンボウが「速い魚」とは言い難いが、のんびり水中を漂うイメージは覆ったはずだ。

“最弱伝説”は「正しい理解を妨げている」

マンボウの本気のスピードがわかった上で、やはり気になるのは有名な“最弱伝説”。
デリケートなイメージから、投稿への反応の中にも全力の泳ぎを心配する声が挙がっていたが…


――本気の泳ぎ…危険ではない?

マンボウを飼育する際、水槽内にビニールシートを設置することが多いです。これは、マンボウが何かに驚いたりして「壁やガラスに激突して体を傷つけてしまう」ことを防ぐためで、デリケートな魚と理解しても間違っていないと思います。
海遊館では、マンボウに対しては、フラッシュ撮影をご遠慮いただいています。

ただ、「ジャンプした衝撃で死んでしまう」など、すぐに死んでしまうような印象を与える情報については、マンボウという魚の正しい理解を妨げているように感じます。



実際に壁にぶつかり傷ついてしまうことはあるそうで、海遊館でもやわらかいビニールのシートを水槽に設置してケアしているというが、「すぐに死んでしまうような弱い魚」というイメージは、正しい情報ではないという。
特別丈夫、というわけではないが、“最弱”の称号は返上しても良さそうだ。

美味しいものには目がない?

海遊館ではマンボウにエサをやる際、健康管理のための観察を兼ねてダイバーが水槽に潜って手渡しで与えているというが、動画のように水面にエサを投げ入れる方法でなく、手から与える方法でも「普段よりは速いスピードで泳ぎます」とのこと。

ちなみに、エサはエビとイカのミンチにビタミン類を混ぜた“特製団子”。
自然界ではエビやイカの他にクラゲなども食べているということだが、特製のエサの美味しさに釣られて、ついつい本気になってしまうのかもしれない。

エサを見つめる熱い視線…
エサを見つめる熱い視線…

ちなみに今回、海遊館が「#共感してもらえない事」として投稿したのは、
・マンボウの「本気の泳ぎ」
・飼育員が動物たちの見分け方を聞かれて「見た目が全然違うから…」と答えてしまうこと
・ペンギンと「エトピリカ(海鳥の一種)」が違う動物だということ、の3つ。

飼育員から見ると「あるある」ということでも、一般のお客さんから見ると意外な“動物ネタ”は「たくさんありそう」とした上で、「今回はそこまで募集していませんでした。またの機会にぜひ投稿したいと思います」と教えてくれた。


――投稿の反響について…

とてもうれしい反面、まだまだ海の生き物の不思議をお伝えできていなかったんだなぁと反省もしています。これからも、投稿に工夫して、たくさんの方に海や生き物の面白さをお伝えし、大切な海を未来に届けられるような活動につなげていきたいと思います。


マンボウの本気の泳ぎに驚いた声の大きさから伺えるように、実はあまりよく知らない動物たちの世界。
じっくりと観察してみれば、想像を超えた姿を見せてくれるかもしれない。


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プライムオンライン編集部
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