冷たい秋風が吹き始めているが、今年は特にインフルエンザに気を付けた方がよさそうだ。
例年ならインフルエンザの流行は12月から3月だが、今年は9月末から日本各地で流行期に入ったとの発表が相次いでいる。
(参考記事: 3分でわかるキーワード もう?「インフルエンザ流行」)
昨シーズンは、たった1度飲むだけで治療ができるインフルエンザの新しい治療薬「ゾフルーザ」が大きな話題になった。
ところが、服用した患者からこの薬が効きにくい「耐性ウイルス」が出現することから、先日、日本感染症学会が「12歳未満の子どもの使用は慎重に検討すべき」という提言をまとめたのだ。
インフル新薬「ゾフルーザ」とは
インフルエンザ治療薬は、他にもタミフルやリレンザなど様々な種類があるが、5日間服用を続ける手間が必要だったり、使用法が難しいなどのデメリットがあった。
こうした中、塩野義製薬が開発し2018年に認可された「ゾフルーザ」は、たった一回、飲むだけという手軽さから注目を集めた。感染した細胞内でのウイルス増殖そのものを抑えるというアプローチの仕方もこれまでとは違った。
(参考記事:1回飲めばOK インフルエンザに注目の新薬登場)
厚生労働省の資料によると、2019年1月7日から2月3日まで医療機関への薬の供給量は圧倒的に「ゾフルーザ」が多い。
・ゾフルーザ 約388.0万人分
・イナビル 約176.8万人分
・タミフル 約167.7万人分
・リレンザ 約38.7万人分
・ラピアクタ 約20.3万人分
昨シーズンから一躍治療薬の主役に躍り出たといえる「ゾフルーザ」だが、「12歳未満の子どもの使用は慎重に検討すべき」という提言によってなにが、どう変わるのか?
そもそも「耐性ウイルス」とはなんなのか?
日本感染症学会インフルエンザ委員会の石田直委員長に聞いた。
小児への投与を規制するわけではない
――「12歳未満は慎重に検討」とはどういうこと?
小児では、ゾフルーザ使用後に耐性ウイルスの出現頻度が高いことが報告されていますが、その影響については、まだよくわかっていません。
専門家のなかでも、使用してもよいとする意見や使用すべきでないとする意見があります。
現時点で、小児に対する投与を規制するわけではありませんが、耐性ウイルスのことも考慮して投与を考えていただきたいということです。
現場の先生方が提言を読んでいただいて、ご判断いただければと思います。
――「耐性ウイルス」とは、どういうもの?
自然界のインフルエンザウイルスの中には、もともとゾフルーザが効きにくい性質(アミノ酸変異)をもったウイルス(耐性ウイルス)が微量ながら存在します。
ゾフルーザを使用すると、ゾフルーザがよく効くタイプのウイルスが急速に減少し、替わりに薬の効きにくいウイルスが残ると考えられています。
このウイルスが増えると、インフルエンザの症状を呈する期間が延長する可能性があります。
――「耐性ウイルス」はヒトからヒトにうつる?
耐性のウイルスが、通常のウイルスと同じ程度に、ヒトからヒトにうつりやすいのかどうかは、まだわかっていません。
――ゾフルーザと他の薬で「耐性ウイルス」の出方はどれだけ違うの?
国立感染症研究所が、耐性ウイルスのサーベイランス(調査・監視)を行っていますが、インフルエンザウイルスのタイプで、A(H1N1)pdm09という2009年に世界的流行を起こしたウイルスで1.8%、A(H3N2)という以前から流行しているウイルスで9.6%です(10月4日現在)。
多くの例が10代までの若い人です。
B型については、耐性は出ていません。
いままで使用されてきた他の抗インフルエンザ薬では、タミフルやラピアクタという薬剤で1%程度であり、リレンザやイナビルという薬剤では、耐性は認められていません。
「耐性ウイルス」が子どもの方が出やすい理由
――なぜ「耐性ウイルス」は子どもの方が出やすいの?
小児では、インフルエンザに対する基礎的な免疫の力が大人より弱いために、耐性ウイルスの増殖を抑えきれず、出現頻度が高くなると考えられています。
――ゾフルーザは、他のインフル薬より早く治るの?
ゾフルーザの特徴は、従来の薬剤よりウイルスの量を早く減少させることですが、治験では、発熱や症状の持続期間はタミフルと同じくらいであったと報告されています。
――ゾフルーザの正しい使い方は?
ゾフルーザについては、まだ臨床データが乏しく、使い方についてはさまざまな意見があり、統一した見解は得られていません。
今後の検討が必要です。
新薬のためまだ臨床データが乏しいというゾフルーザ。
早めの流行が心配される今シーズン、時に命まで脅かすことがあるインフルエンザだけに、もしかかってしまった場合にどの治療薬にするかは慎重に判断してほしい。