国内で消費されるオリーブオイルのほとんどは海外産だ。しかし鹿児島県日置市では、地元産オリーブを使った国産オリーブオイルの生産が静かに、しかし着実に進んでいる。収穫した実はすべて手摘み、落ちた実は一切使わない。搾油は24時間以内——そんな徹底したこだわりが生み出す黄金色のオイルには、120年を超える鹿児島とオリーブの歴史と、現代の挑戦者たちの試行錯誤が詰まっている。
鹿児島市街地から車で40分、日置市に広がるオリーブ農園
鹿児島市街地から車で約40分。日置市東市来町にある「鹿児島オリーブ」の店内では、県産オリーブを使ったオリーブオイルが販売されている。試飲した記者は「塩味と少しの甘み、果物のようなフルーティーな味わい」と表現した。
このオリーブオイルの原料となるオリーブは、同社が運営する「日置オリーブファーム」で栽培されている。約2ヘクタールの敷地に、およそ550本のオリーブの木が植えられている農園だ。
代表の水流一水さんが農園を案内してくれた。取材時はちょうど収穫の真っ最中。鹿児島オリーブの特徴は、紫色に熟す前の若い緑の実を摘み取ることにある。収穫はすべて手摘みで行い、落ちた実は一切使わない。「衝撃で近くの実が落ちやすいので、落としてしまうと使えなくなる」と水流さんは説明する。品質を守るための、徹底したルールだ。
農園には、スペイン原産の「アルベキーナ」という品種も植えられており、1本の木から50キロもの実を収穫できるものもある。「すごくフルーティーな香りが特徴。今年はこれだけ『ベタベタなって』(実がたくさん付いて)くれたのでありがたい」と水流さんは笑顔で話す。
120年前にさかのぼる、鹿児島とオリーブの歴史
なぜ鹿児島でオリーブの栽培が始まったのか。その歴史は今から約120年前にさかのぼる。
日露戦争後の明治40年、日本は北方の海域に広大な漁場を手にした。多くの魚を獲ることが可能になったことで、保存方法が課題となった。当時の政府が注目したのが、オリーブオイルに漬けて缶詰にする方法だった。政府は香川・三重・鹿児島の三県をオリーブの栽培試験地に指定したが、実際に成功したのは香川の小豆島だけ。台風や長雨の影響を受けやすい鹿児島では、栽培は難しかった。
そのオリーブが再び日置市で注目されるようになったのは2013年のことだ。大手企業の工場撤退などで働き手の減少に悩んでいた日置市が、鹿児島銀行と協定を結び、県内に競合農家のいない新たな産業を生み出そうとオリーブ生産に取り組み始めた。
台風と長雨——現代のパイオニアが挑む壁
日照時間や温暖な気候といった条件は整っている鹿児島だが、かつてネックとなった台風と長雨は今も課題だ。水流さんは言う。「春の長雨の時期に、受粉で実を作るための花粉が全部飛んでしまう。花を早く咲かせる栽培手法を取り入れたり、鹿児島で育てるなら『こうするべき』というものを自分たちで作っていかないといけない。パイオニアにならないといけないということが分かってきた」。
こうした試行錯誤の結果、国内シェア8割以上を占める香川県より1カ月早い9月中旬に収穫が始まるようになった。「日本一早い収穫」をうたう所以だ。2026年は雨の影響も少なく、出来は上々だという。
収穫から24時間以内の搾油、搾油率はわずか5%
摘み取った実はまず選果にかけられ、傷んだ実を取り除く。その後、鮮度を保つために収穫から24時間以内に搾油を行う。熱による酸化を防ぐため、室内の空調は18℃に設定されている。
搾油率はわずか5%。1キロの実からとれるオイルはわずか50グラムに過ぎない。それだけに、完成した黄金色に透き通ったオリーブオイルは貴重だ。
9月に開かれた収穫祭では、できたてのオリーブオイルが地域の人々に振る舞われた。参加者からは「オイルではなく果物を飲んでいるような感じ」という声も上がった。
「雨が多い鹿児島では、オリーブに含まれる辛みやえぐみ成分が流れて、甘い香りだけが残りやすいという特徴も分かってきた」と水流さんは語る。「鹿児島ならではの味を多くの方に知ってもらいたい」。
挑戦と失敗を繰り返しながら、日置市の農園で育まれる県産オリーブ。鹿児島の風土が生み出す唯一無二のオリーブオイルは、日置と世界をつなぐ架け橋になろうとしている。
【動画で見る▶【今が旬】日置市で栽培 鹿児島県産オリーブの秘密】

