【冠婚葬祭】結婚式を手掛ける「COCOSTYLE」(札幌)はカップルの人生の門出を華やかに彩って人気を集めている。代表取締役の荒井さやかさんに演出に込める思いと、仕事と生活を両立させる働き方について聞きました。
教員を断念した日、大学図書館で一瞬で決めたウエディングプランナーへの道
――ウエディングプランナーを志す過程を。
「小さいころからずっと音楽を、作曲をやっていたんです。夢は映画音楽を作りたい―。映画もサントラを買って聞いて、絶対、こういう素晴らしい世界を表現する人になると頑張っていたのですが、突然、音楽の道でやっていくのは難しいかもって。親泣かせだったのですが、高校2年生のときに突然『辞めます』と言って大学進学に切り替えました」
――では大学は?
「親戚に教員が多かったので、幼いころから『教員はいいよ、休みがあるよ』『公務員はいいよ』って。ある意味、英才教育を受けて育ったので、何の疑問も持たずに、教育大学に進学するのですが、大学3年生のときに、子どもに、どうやって生きることを教えるか―の授業がありまして。その中で、社会に出たこともないのに、生きるも何も分からんって思った瞬間、涙が止まらなくなって。で、図書館に駆け込んで先生になるのは辞めようって(決めて)、パソコンで自分に合う職業は何かって見ていたときに、(ウエディングプランナーの説明に)なんか自分のこと書いているんじゃないかなって錯覚をしてしまって。リーダーシップ力とか、音楽が好きとか、人とコミュニケーションをとることが好きとか。いろいろな要素があったんですけれども。これ、私のことやんって思って、一瞬でウェディングプランナーになる道しかないと。(突然の進路変更に)親は2回目、泣いていましたね」
カップルの人生や育った環境をつかむことが演出の秘訣
――親を泣かせますね。入社された会社ではどういった仕事をされていたのですか。
「ウエディングプランナーとして、いろんなことを経験させていただきました。普通は一時間半で先輩方がやっているところを、4時間とかやっていて、いつも締め上げられていました。『あんたの接客はなんでそんな長いの』って。『結婚式をします』って、結婚式場に来るときとか、プランナーに会いに来るとき、ドラマで言うと、5話目ぐらいだと思うのです。だけど、その前に2人のお付き合いが始まっていて、もっと言えば、どんなお父さん、お母さんに育てられ、どんな学生時代を過ごし、何かのきっかけがあって、お付き合いがスタートして、いろいろあって結婚を決める―。その人の人生を一時間半で理解することがそもそも不可能なので、もっと聞かなきゃとか、もっとこの人の歴史を知らなきゃとか、こうなったのには理由がある、絶対に原因がある、根拠があるって思うと、聞き方がやっぱり変わってくる」
――そこから独立されるわけですけど。きっかけは?
「たまたま美容室に行って、パラパラ雑誌をめくっていたら、自分の名前から肩書きを取って勝負する女性の記事があって、いいなって(思いました)。自分の名前から会社名という肩書きを取って、私もやってみたい。純粋にワクワクして、よし、独立しようと、一瞬で決め、会社に辞めることを伝えました」
――独立してからは順風満帆だったのですか。
「そうですね。持ち前の情熱と明るさと、『私、結婚式を作るから。絶対、後悔させないから、ちょうだい』って言って、もらって。順調にお仕事をいただき、最初の2 、3年は忙しかったのですけど、楽しくさせていただきました」
クオリティを求め、生じたスタッフとの心の溝 「あなたにはついていけない」
――その後、何かがやってくるわけですか
「2 、3年たって、仕事がパンクするのです。いっぱい仕事を受注できるのはいいのですけども、自分でこなしきれなくなって。ちっちゃいミスが続いてしまったのです。見積もりを間違うとか、資料に誤字脱字があるとか、お客様にその日のうちに連絡ができないとか。それで『よし、アシスタントを入れよう』と、2人をチームに入れたのですけれども、続かなくて、すぐに辞めてしまったのですよ」
――なぜですか。
「『あなたにはついていけない』と言われました。今、思うと、お客様に届けたいサービスのクオリティがあって、絶対こういう結婚式を作りたいとか、こういうふうに幸せになってほしいって思いがあったのです。スタッフにもやっぱり心がありますよね。やりたくないこともあれば、自分だったら、こういうふうにやりたいなとか、モヤモヤすることもあったと思うのですね。(こちらは)『いやいや、関係ないから、仕事だから。お客様が求めているし、最高品質でいきたいからやって』と、仕事を頼んでいたと思うのです」
結婚式場にランウェイ モデルショーをイメージし華やかに演出
――ぐいぐい行っていたものから挫折も経験して、作ったウェディングは具体的にはどういったものがあったのですか。
「スタッフが離れて、私自身も第1子を出産しまして、そのころ、ウエディングプランナーはもういいかなって、ちょっと思って。そんな中で、すごく大きなお仕事をいただいて。お嫁さんの方、新婦さんの方がモデルをしていらっしゃって。モデルの大会に一緒に美容師さんとタッグを組んで出ていたことがあって。で、やっぱり今の自分があるのも、モデルの仕事があるから。それを、ぜひ結婚式の中で表現して差し上げたいと思って、思い切って会場内にドーンとランウェイを作りました」
「本当はこう生きたかったのだ」 挫折を経験し、見つけた本来の自分
――すごいですね。盛り上がりましたか。
「盛り上がったというより、息をのんでいましたね。会場中が引き込まれる感じで。ランウェイをバーッと(照らし)、その場でヘアカットのショーをして、30秒ぐらいでパッと着替えて、すぐ入ってくるので、空気がぐっと動いたなっていう実感がありますね。終わったときに、すごくうれしかったことがあって。独立してから、ずっと一緒に働いている大道具のスタッフの方が『おかえり』って言ってくれて。その『おかえり』っていう言葉がすごくうれしくて。私、かえってきたのだ。私は本来はこっちだったんだなって、思い返す機会になって。離れたスタッフは自分の気持ちに正直になれなくて心を殺して(仕事を)やっていた。私も心を殺す数年間があって。でも殺しちゃいけない、自分の気持ちにうそをついちゃいけないと思って。本当にやりたい仕事、本当に届けたい価値を貫いた先に見えたものは、私はこう生きたかったのだなって。今度は一緒に働く人にしてあげなきゃいけない。私がこうやって自分を取り戻したように、みんなにも、ちゃんと取り戻せるような、自分ってこう生きていきたいのだって実感できる会社を作りたいと、そのとき、決めました」
――会社はフルリモートで経営されているってうかがいました。ウエディングの仕事ってフルリモートでできるのか、疑問なのですけど。
「実はウエディングプランナーの仕事って9割が事務仕事です。発注し、書類をまとめ、コンセプトを考え、本当に準備9割、本番1割っていう仕事なので、フルリモートができるところはありますね」
――普段の打ち合わせも全部、リモートでやるってことですか。
「うちは北海道全域を対象にしているので、そもそも会場で打ち合わせするのはちょっと難しくて。リモートにお客様も抵抗感がないです」
スタッフ20人は全国各地でリモートで仕事 道内在住は5人ほど
――働いている方は道内に限らない?
「そうです。全国各地に一緒に働いているメンバーが20人います」
――全国各地ですか。
「はい。北海道に住んでいるのは5人くらい」
――それぞれの仕事をそれぞれの場所でやって、一つのウエディングを作るやり方?
「うちのメンバーには子育て中のママさんも多いです。例えば、だんなさんの転勤とか家庭の事情とか(仕事を続けられなくなる理由があっても)、仕事はやっぱり手段として、ちゃんと活用していこうね、私たちは、どう生きていきたいか―で集まったメンバーだもんねって伝えています」
互いの感情の特性を知り合って能力を引き出し、作り上げる良い仕事
――会社で取り組まれることで、力を入れていることは?
「フルリモートでやると、肌感で感じられる情報がやっぱり少ないので、気づいたらモヤモヤが溜まって具合が悪くなることがあり、こまめに声を掛け合うとか、そういうコミュニケーションツールでやり取りはしても、どうしても難しい。うちのチームで取り入れている方法はEQ(感情知性)。お互いがどういう感情の特性を持っているかを理解する。ほめられないとテンションが上がらないタイプですとか、指示を受けた方が才能を発揮するとか。ちなみに私は意外と繊細。結構、豪快に見えるのですけど、『本当はあの人、私のこと嫌いなのじゃないかな』とか『本当はすごく腹立っていのだろうな』とか、勝手に妄想しちゃうところがあって。こういう特性をお互いに共有し合えれば、苦手なことは苦手って言っていいし、嫌なことは嫌でいいと思う。だけど、パズルのピースのように支え合っていけます。凸と凹で。それをうまく組み合わせていった先に良い仕事ってあるじゃないって伝えていますね」
挙式から始まる2人の人生 自然など、道内各地のすばらしい場所を式場に
――すごく共感します。拠点の北海道との関わりはどういうふうに考えていますか。
「結婚式って最高のイベントだと思っています。どういった点で最高かというと、その2人の始まりの場所になるのです。北海道って本当に良いところがいっぱいあって。フリープランナーなので、結婚式場じゃないところでも結婚式ができる。結婚式場じゃないところが今日を機に2人の思い出の場所になる。来てくれたゲストも2人がいたから、この場所を知れた。こんな良いところがあるのだねって。こんなおいしい食べ物、ここで食べられるのだねって。またいつか帰って来よう―(という気持ち)がお店にとっても、事業者さんにとっても、生涯顧客化につながるきっかけになると思うのですね。だからこそ、北海道全域を相手に良いところを2人の思い出の場所にして差し上げたい。事業者さんの思いと熱意と、2人の夢をつないであげたいって思っているので」
――そうか、2人の思い出の場所でやる必要ないですよね。今日から思い出にしていこうという場所が北海道には自然も含めてたくさんある。
「そうです。北海道のここが好き、このお店が私たちの原点、何かあったらここに来て考えます、話し合いますという場所が生まれるって、みんなにとってすごく幸せ。カップルの結婚を応援できたらいいなと思っていますね」
――おしゃべりをしていて、エネルギーをバンバン受け取って、こうやって荒井さんに結婚式をお任せしたいなって思うお客さんがたくさんいらっしゃるのを実感しました。