特集は老舗菓子店の挑戦です。長野市で140年以上続く「千歳屋本店」が2025年、5代目に代わり、リニューアルオープン。新商品の開発にも力を入れています。支えるのは4代目と市内で人気洋菓子店を営むパティシエの弟です。
■1日150個ほど販売「どらサンド」
どら焼きの皮に挟まれたたっぷりのバタークリーム。その名も「どらサンド」。
「ピスタチオ」や「塩キャラメル」など7種類の味があります。
長野市川中島町の菓子店「千歳屋本店」で2024年から販売。1日に150個ほど売り上げる看板商品となりました。
購入した客:
「新しい『どらサンド』がけっこう有名だって聞いたので」
「おいしいです。ちょっと小ぶりで食べやすい、どら焼きとか」
考案したのは2025年1月に5代目を継いだ水野一平さん(46)です。
千歳屋本店 5代目・水野一平さん:
「こだわりは、ちょっとポップでライトな感じのお菓子を僕は売りたいなと思ってます」
■弟が営む人気洋菓子店の商品も販売
千歳屋のもう一つの人気商品がケーキです。
このケーキ、実は、市内の人気洋菓子店「パティスリー27(ヴァンセット)」のもの。
店のオーナーシェフ・洋平さんは水野さんの弟。
2016年から店のケーキを千歳屋に卸していますが、今後、5代目の兄を支えさらに連携しようとしています。
パティスリー27・弟 洋平さん:
「本人はおいしいものをよく知ってるので、(一緒に)おいしいものを作り出せるんじゃないですか」
店は外装や内装を一新し、2月にリニューアルオープン。
兄弟で切磋琢磨しながら新たな千歳屋を目指します。
千歳屋本店 5代目・水野一平さん:
「ずっと同じものを作ってはいけないというか、同じものは伝統で作らないといけないが、何か変えていかなければいけないというのはすごくあった」
■菓子作りをやめたときも
千歳屋は1883(明治16)年に長野市篠ノ井で創業。モナカなど主に冠婚葬祭用の菓子を製造してきました。
1991年、4代目で水野さんの父・廣志さん(71)が今の場所に店を移し、和菓子と洋菓子を販売するとすぐに人気となり、「街のお菓子屋さん」として親しまれてきました。
先代たちの菓子作りを間近で見てきた水野さん。専門学校で学び、23歳で千歳屋に入ります。
しかし、
5代目・水野一平さん:
「身内経営だったので(定番商品の)お菓子を作ってからじゃないと、僕のお菓子を作れなくて。やる気満々で帰ってきて、なんだできないのかよ、自分の菓子作れないのかよと」
もやもやした気持ちはありましたが、父親と共に10年以上「千歳屋」を守り続けてきました。ただ、近隣にもライバル店が出来始め売上げは徐々に減っていきます。
そして12年前、フランスで修業していた弟の洋平さんが店に入るタイミングで水野さんは一度、「菓子作り」をやめます。
5代目・水野一平さん:
「そのころは実は苦痛でしたね、お菓子屋さんをやるのが。自分のやりたかったことも今までやってきたわけではなかったので」
その後、パソコンの修理やホームページを作成する会社を立ち上げたり、除雪の代行業や葬儀業なども行ったりしてきました。
しかし、3年ほど前に体調を崩し、これまでの事業を断念。弟の洋平さんがすでに独立していたこともあり、店に戻る決心をします。
5代目・水野一平さん:
「その時、親父に『お前そろそろ店、継ぐじゃねえか』って言われて。自分のお菓子を作って出した時の反響が面白かったというか、当時やりたかったのこういうことだよなって」
■再び店に戻り「どらサンド」開発
再び店に戻った水野さん、ついに「自分の菓子作り」を始めます。「どらサンド」もその一つです。2024年6月、「クッキーサンド」から着想を得て開発。すぐに人気となり店の看板商品になりました。
ただ、自分だけでできたものではありません。開発にあたり父親の廣志さん、そして、弟の洋平さんにも意見を聞きました。
5代目・水野一平さん:
「皆さんに言われるんですよ。『兄弟で同じ仕事しているのに仲いいよね』って。僕はそれが普通だと思っていて、兄弟だから、家族だから力を合わせようというのが。良き相談者であり、一緒に楽しめているんじゃないかな」
■試作品の両親と弟の感想は
3月2日
営業が終わった後、水野さんと両親がこの春に店に並べる商品の試作に取り掛かっていました。
5代目・水野一平さん:
「これから“櫻”というお菓子を作ります。元々、弟と作っていたお菓子なんですけど、12年ぶりに作るというか(笑)」
メレンゲに、卵黄と和糖、桜のエキスを入れ米粉と混ぜ合わせます。丸い型に絞りだし、形を整えてから蒸せば…ふわふわ、もちもちの生地の完成です。
5代目・水野一平さん:
「お客さんから『私は櫻が一番好きだった』って言われて、じゃあいい機会だし、弟との思い出のお菓子でもあるし、と今回作ってみた」
水野さんお手製のあんこと、父・廣志さんが作ったバタークリームをはさめば、改良を加え復活した「櫻」の完成です。
「櫻」は20代だった水野さんと弟の洋平さんが2人で考案しましたが、水野さんが店を離れてから作られなくなっていました。
試食。
5代目・水野一平さん:
「あんこがうまい」
母・和子さん:
「年配の方にいいかもね、柔らかくて」
父・廣志さん:
「バターがおいしい」
5代目・水野一平さん:
「あんこは?」
父・廣志さん:
「あんこもうまい(笑)」
5代目・水野一平さん:
「おはようございます」
翌朝、弟の洋平さんの元へ。「櫻」の感想を聞きます。
5代目・水野一平さん:
「これ、食べてみて、新しい“櫻”」
弟・洋平さん:
「これなんだったっけ?」
洋平さんは率直な意見をぶつけました。
弟・洋平さん:
「なつかしいなっていう感じで。もうちょっと、でもやらなきゃいけないんじゃないか」
5代目・水野一平さん:
「まだやらなきゃいけない?」
弟・洋平さん:
「今は何も言えないですけど、もうちょっとおいしくなる気がしますけどね」
■兄弟で協力して新たな挑戦を続ける
3月3日、店に並んだ「櫻」。水野さん、弟の洋平さん、そして父親の廣志さんの3人の合作ともいえる商品です。
早速、常連が。
常連客:
「復刻の櫻はきょうから?」
5代目・水野一平さん:
「はい、きょうからです」
常連客:
「こちらも3ついただけますか」
常連客:
「こちらの代に変わられるころから、また新しいものもできて面白いなと思っていて、どれも全部おいしくて、近くにこういうお菓子屋さんがあるのは本当に幸せ」
140年以上続く老舗菓子店の5代目は伝統を守りながらも新たな挑戦を続けていきます。
支えるのは人気洋菓子店を営む弟。今後もコラボ商品などを作っていきたいと考えています。
パティスリー27・弟 洋平さん:
「構想は2人でも立てているが、協力し合ってやっていきたい」
千歳屋本店 5代目・水野一平さん:
「僕の中では『1027』というブランドかお菓子を作ろうと思ってるんですよ。ここ千歳屋で『1000』じゃないですか、弟のとこが『27』じゃないですか、合わせて『1027』という何かを作ろうかなと思っています」