世界情勢が混沌とする中、平和への思いを絵に込める一人の画家がいます。
被爆2世として苦悩しながら描き続けるその姿を追いました

【ガタロさん】
「原爆ドームが泣いとる。人間の愚かさに対して」

画家、ガタロさん。被爆2世です。

【ガタロさん】
「僕は原爆ドームを描いていて人間の墓標のように思えて仕方ない。世界の墓標のように思えて。最期の姿のように思えて仕方ない」

「ウクライナの侵攻があって描き始めた僕のスケッチなんです。この原爆ドームは一体僕らに何を問いかけているのか、やり始めて思ったのはウクライナの建造物が破壊された姿、原爆ドームとすごく重なり合う」

ガタロさんは長年、清掃の仕事をしながら絵を描いてきました。
30代のころ、365日、毎日原爆ドームへ通いました。

【ガタロさん】
「たぶん500枚ぐらいは描いてきたと思う。原爆ドームって色がないっていうか。四季もないんです、原爆ドームっていうのは。86の日(原爆が投下された8月6日)に時間が止まっている」

この日もまた、原爆ドームを描くガタロさんの姿がありました。

【ガタロさん】
「20何歳のとき親父が被爆して、家族を探し求めてこの市中をさまよい歩いたんだろうけど」

ガタロさんの父親は、原爆で父、弟、妹を亡くしました。

【ガタロさん】
「後に放射能被害なんだろうけど、親父が40代のころに突然寝込みを襲うように、寝とったら鼻血が噴いて出だして、声を上げて叫んどった「うわー」言うて。ノイローゼみたいになっとったと思う最期は」

その後、父親は亡くなりました。

「毎日感情が違って、毎日違った原爆ドームを見てしまう。ウクライナのことがあって為政者の言葉なんか聞いとると、広島の原爆ドームもなめられたもんよと思う」

【♪月光仮面の歌声】
「月光仮面のおじさんは正義の味方よ。良い人よ。月光仮面は誰でしょう」

コロナ禍で閉塞した空気が漂う中開いた展示会。
子どもたちが団子になって遊んだ昭和の風景です。
鼻をたらした「月光仮面」も。
だれもが「正義のヒーロー」になりました。

【ガタロさん】
「今、ウクライナのこともあってこれが最後に描いた絵なんです。どこの国もわしんとこが正しい言うとる。わしの平和が正しいんだって言ってるわけ。それは本物かなと思うんです」

去年5月、「G7広島サミット」が開かれました。
核保有国の首脳たちが被爆地ヒロシマに立ちました。

【岸田首相・演説】
「被爆地を訪れ、被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の思いに直接触れた」

(その10日後ー)
「絶望御美術展」。ガタロさんは「絶望」と名付けた個展を店の奥にある小さな展示スペースで開きました。

元画廊の友人・平石もも さん「これ全部今年描いた絵?」
ガタロさん「そうそう。顔を集中して裸電球の周りに置きたいわけ。裸電球に集まっとる人間という感じで」
平石さん「久しぶりにたくさん作品が見られてうれしいです。自画像じゃないんですよね」
ガタロさん「まあ自画像みたいなもんやね」
平石さん「大きい絵の一部に見える」
ガタロさん「人間がとぐろを巻いとる感じ。有象無象が集まって。物言わぬ人間たちの情念というか。フラッグ、旗。原爆ドームがあって。7本の真っ黒、血の滴っとる。象徴的なもの、フラッグってね」
Q:G7?
「そう。ヒロシマに行く意味はどういうことなんか厳粛さがみじんもない。やれ、もみじまんじゅうがどうのとか、お好み焼きがどうのとかほんまにまつりごとにしてしもうた。皮膚も焼かれ、骨まで焼かれて無残な死に方、そういうことへの痛切な想像力絶望ということへの想像力なくて希望なんて絶対出てこない」

自宅を改装した三原市のギャラリー。
今月、ガタロさんは個展を開きました。

【三原アーカイブスギャラリー・友宗邦夫さん】
「ガタロさんの自画像です」
Q:今まで自画像は描いてました?
【ガタロさん】
「何点か描いた。あまり自分自身に向かい合うことはせんかった。あえて」

画家、ガタロさんの人生をたどるように、これまで描いてきた作品を並べました。
清掃員として毎日、手にした掃除道具は多くの作品があります。

【友宗さん】
「清掃の具をもう1回ゆっくり見せてもらうのもいいかと思ったが、戦争画のシリーズ。特に湾岸戦争の抗議の絵を見て、これはぜひ見てもらいたいという気持ちが起こりまして」

湾岸戦争が起きた1991年。
ガタロさんはこの年に生まれた自分の子どもの姿を戦場と重ね合わせました。

【展示を見た人は】
「今の時代にこんな状況って今の私には受け止められない。それを表現されるのはすごいつらかったと思う」

世界には虐殺が繰り返される変わらない現実があります。

【ガタロさん】
「わずかでもガザやウクライナへの痛みに対する共感。追い詰められた人間、捕らわれた人々に対する共感。そのようなことを思ってるんだけど」

ガタロさん。
ヒロシマから「命」と向き合い続けています。

テレビ新広島
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