京都府京丹後市が誇る“幻”の食材「間人ガニ(たいざがに)」。味、品質ともに最上級とされ、間人漁港に所属する5隻の漁船が水揚げしたカニだけが、「間人ガニ」を名乗ることができる。

このカニを巡る事件で、水産業者らが逮捕され、漁業の町に衝撃が広がっている。一杯4万円の値がつくこともある「間人ガニ」。今回取材にあたり、実際に間人ガニを口にした記者は、「めっちゃ甘い。うまみも濃厚で、カニの風味も感じます。こんなカニ、初めて食べました」と感想を話した。

「間人ガニ」には、他の産地のカニと区別するために緑のタグが取り付けられているが、先週、このタグをめぐり地域を揺るがす事件が起こった。

■容疑者の会社と取引のあった料理店「僕らだまされていたんかな」

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警察は、間人ガニを扱う「まるなか水産」の取締役・中井満容疑者(42)と、元従業員の山崎一成容疑者(52)を逮捕。兵庫県で水揚げされたズワイガニに、「間人ガニ」を認定するタグをつけて販売した疑いなどが持たれている。

 中井容疑者の会社と取引のあった料理店も困惑の声をあげている。

 中井容疑者の会社と取引のあった料理店:僕らだまされていたんかなって。(Q一般的に違いはわかる?)分からないです。初めて食べる人なら、これがそうなんだと思う。

■容疑者の作業場併設の倉庫に「間人ガニ」タグ数十本が隠されていた

取材班は、中井容疑者らの不正の実態を取材。巧妙な手口が明らかになってきた。

 記者リポート:こちら中井容疑者の作業場なのですが、中を見えにくくするためでしょうか、扉が加工されています

住民などによると、作業場の扉は数年前から、中が見えない「マジックミラー」になった。湯気が立ち込めるカニをゆでる作業中も閉めきったままだったと言う。
マジックミラーで何を隠したかったのか。

さらに取材班は関係者から産地偽装の実態を示す決定的な動画を入手した。
中井容疑者の作業場に併設されている倉庫の扉を開け、黒いビニール袋の中身を確かめると、間人ガニを認定するためのタグ数十本が未使用の状態で隠されていたのだ。 

この認定タグは京都府の漁協が漁船に売り、条件を満たしたカニに船長らが船の上で取り付ける。そのため、卸売り業者である中井容疑者の作業場に未使用のタグがあることは通常ではあり得ない。警察も中井容疑者の作業場から21本のタグを押収している。

 関係者は中井容疑者の手口をこう語る。

 中井容疑者を知る関係者:津居山ガニのタグを切ってしまって、切った後に間人のを付けることをすれば、一般の人は通常では分からない。津居山が1万円ぐらいだったら、間人は4、5万円の世界。

兵庫県で水揚げされた津居山ガニを示すタグを中井容疑者がハサミで切り、より高価な「間人ガニ」の認定タグに付けかえていたのだ。

中井容疑者を知る関係者:ごみ出しでもバレてしまったら全部アウトなので、見えないように(粘着テープで)ぐるぐるに巻いていたと聞いてますね。

■タグを大量に購入していた漁船の存在が明らかに

本来は認められた5隻の漁船しか持っていない認定タグ。中井容疑者らはどこから入手していたのだろうか。中井容疑者の同業者は「ある漁船が異常な量のタグを購入していた」と証言する。

中井容疑者の同業者:船主が船の上でタグをつけるのに『海に落としてタグがなくなった』と言って、漁連にタグを買いに来ていた。そんなしょっちゅう落とすわけねぇわな、普通は。

漁協などによると、その漁船は、通常1シーズンで5000個ほど使用する認定タグを、倍の1万個ほど仕入れることもあったと言う。

中井容疑者は関係の深かった漁船からタグを不正に仕入れていたのだろうか。取材班はタグを大量に購入していたとされる漁船の船長の家を訪れたが、出てくることはなかった。

関係者によると、船長の妻は次のように話していると言う。

船長の妻 ※関係者による:満君(中井容疑者)がタグをちょうだいと言っていたから、あげていた。

■他の会社でも偽装が横行していたという証言も

さらに取材を進めると、「間人ガニ」ブランドそのものを揺るがす実態も見えてきた。

 中井容疑者を知る関係者:(中井容疑者は)『むこう(他の会社)がやるならこっちもやろう』みたいな感じでやっていた。本人も従業員に言っていて、『やったら利益上がるじゃないか』という考えでやっていた。

間人の他の会社でも産地偽装が横行してきたというのだ。

 地元の漁業関係者:タグがそこの小売店にあった。引き出しの中に(あったのを見た人がいる)。(Qまるなか水産に?)まるなかちゃう。他のところ。まるなかなんか最近や。それより他に“がん”はある。船長と仲買が組んでやっとった。そこに旅館がかんでる。町ぐるみの偽装。今、言ったことは知らん人はおらん。全部知っている。いつかは捕まるだろうとは思っていたけど。

間人ガニを地域の貴重な観光資源として売り出してきた行政はどう受け止めるのか。実は8日に京丹後市は、「地域文化と食の魅力」の観点から地域を表彰する「美食都市アワード2024」を受賞した。表彰式に出席していた市長は産地偽装問題について問われると…

-Q京丹後のブランドがひっくり返るような事態?
京丹後市 中山泰市長:決してあってはならないこと。遺憾千万であります。とにかく再発防止の徹底を京都府、関係の皆さまとともに、市としてもしっかりやっていく。それに尽きます。

卸売業者の逮捕をきっかけに持ち上がった間人ガニの産地偽装。今後の警察の捜査、そして行政の対応に注目が集まる。

■「間人ガニ」ブランド価値そのものを揺るがす事態に発展

「間人ガニ」の産地偽装問題の波紋が広がり、ブランドの価値そのものを揺るがす事態になっている。

 そもそも間人ガニの認定タグは、認められた5つの漁船しか手に入れることができない。そのうちの1つの漁船が、『認定タグを海に落とした』と、おそらくうそを言い、タグを大量に保有していた。中井容疑者らは、このタグを手に入れて、間人ガニではないカニに装着して、偽って販売していたとみられている。

 漁業関係者は、「船長、仲買(中容疑者ら)、旅館など、(一部の人ではあるけれど)町ぐるみの偽装だった」と話している。

 京丹後市の中山市長は、「京都府と関係の皆さまと連携して再発防止策を徹底していく」と話した。 偽装が横行していた可能性もあるということで、ブランドそのものを揺るがす事態になっている。

共同通信社編集委員 太田昌克さん:漁業関係者の方が取材に応じてくれて、“良心の告発者”ですよね。『このままじゃいかん』と。先人の努力があって、ブランド力があるのに、この信用を毀損してしまった。残念でならない話です。

不正することなく真面目に漁をして、真面目に販売されている方もいるわけだが、不正を防ぐ対策はあるのだろうか。

関西テレビ 加藤報道デスク:京都府の漁協の方に伺ったところ、今はタグだけですが、新たにプレートも創設して、タグとプレート両方をカニに付けて売らないと「間人ガニ」だという証明ができないという仕組みを作るといった話があります。また5隻の漁船に認められていますが、船長に定期的にタグの数を確認するとか、少しずつ不正をしにくい仕組みづくりを進めていくようです。まだこれからどうなるか見ていかないといけません。

漁協側は信頼してタグを売っていたのが裏切られたことになる一方で、損なわれた信頼回復に向けた対策を整えることはできるのだろうか 。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月8日)

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