【前編:「ママはお仕事してるからダメ」襖一枚隔てた隣室でも・・・在宅ワーク中に起きたシッターの性犯罪

我が子が性被害に・・・その時母は

今年4月、Aさんは、コロナ禍で娘の保育園が休園になり、しばらくは1歳と5歳の娘を、在宅勤務をしながら見ていた。しかし仕事中、次女が椅子に登ったことに気づかず、大ケガをさせてしまっては取り返しがつかないと思い、見てくれる人を探すことにした。

この3月までお願いしていた複数の女性のシッターがとてもよかったので、当初は女性のシッターが希望だった。しかし感染拡大を防ぐため、多くのシッターが活動を自粛していたり、地域限定だったりしたため見つからず、そこで初めてキッズラインの「募集機能」で呼びかけて応募してきたのが荒井被告だった。

4月から5月にかけ、Aさんの5歳の長女にわいせつ行為をした疑いで逮捕・起訴された30歳の元ベビーシッター・荒井健被告。

Aさんの5歳長女にわいせつな行為を行ったとされる荒井健被告
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Aさんは、毎回「荒井先生に頼んでも大丈夫?」と尋ねてはいたが、長女からは決定的な言葉がなかった。

「そもそも保育園もすごく嫌がる子なので、あまりその差がわかりませんでした。」

子供のサインに気づく事の難しさを語る母親

私自身も5歳の子どもがいるが、幼い子どもの表現やボキャブラリーは時として大人には伝わりにくいことがあるのは実感するところだ。                                            

長女への聞き取り後、Aさんは娘の心に寄り添おうと、あえてこのように話しかけた。
「娘には、『ママも子どものころに同じようなことをされたことあるんだよ、あなたは全く悪くないから。あなたのことを守りたいから、万が一今後そういうことがあったら言ってね。ママはあなたのことを守りたいけど、言ってくれないと気づけないんだよ、あなたには自分のことを守れる人間になってほしいから』と、そう伝えました。そうしたら、『うん、私、自分を守りたい』って言ってくれて。」

インタビューの直前に母親に連れられていた女の子の、幼いながらも意思のある顔が思い浮かぶ。

「親の感情に子どもはすごく敏感です。私が必要以上にショックを受けてしまうと、『そんなにひどいことをされた』と認識して余計に傷ついてしまうと思いました。」

心の動揺を懸命に抑え、母としての愛情で娘のこれからを思いやるやり取りに、話を聞いている私も胸が熱くなった。と、同時にこのような親子のところへも性犯罪の魔の手が「ベビーシッター」という姿になって入り込んできたことに、他人事とは思えない許せぬ思いを噛みしめる。

なんとか防ぐことはできなかったのか、できないものなのだろうか。

運営会社に電話がつながらない

「私は、娘への被害が分かったとき、いち早くキッズラインにも伝えなくてはと思いました。当初はキッズラインも被害者で、犯罪者に利用されてしまっている気の毒な会社だと思ったからなんです。」

5月25日、Aさんは長女への聞き取り後すぐ、ほんの20分前に「もう荒井被告はサポートできない、理由は言えない」と伝えてきたキッズラインの番号に電話をした。しかし何度かけても繋がらない。24時間サポートの電話番号があるのを思い出しかけてみたが、驚くことに「現在使われていません」というアナウンスが流れてきたのだった。

結局その日のうちに電話は繋がらず、Aさんは警察に通報した。今にして思えば、慌てた様子で「もう荒井被告はサポートできない」と伝えてきた背景にはすでにキッズラインに荒井被告の別の被害の訴えがあったのではないかとAさんは指摘する。

「翌26日、キッズラインを問い詰めたところ、利用規約違反の恐れがあったので荒井被告を退会させたと言うんです。だったら、前日の時点で言ってほしかった。しかも、翌月も予約をいれていたから連絡があったのであって、もし予約が入ってなかったら連絡もない。」

そうなっていたら、長女への犯罪も荒井被告が逮捕され報道されるまでは気づけないままでいたかもしれない。

「私が一番許せないと思っているのは」
Aさんの声にひときわ怒りがこもった。
「別の同様のわいせつ案件も同じようにその男を退会させて終わりにしていた事です。」

他にも事件は起きていた

Aさんが憤る別の登録シッターの案件とは、2019年7月から11月までキッズラインに登録していた橋本晃典容疑者(29)のことだ。

橋本容疑者はキャンプ場やベビーシッター先で、男児へのわいせつ行為を行った疑いで、今年1月以降これまでに6回逮捕されている。

7月9日、6回目の再逮捕となった橋本晃典容疑者

この中に、キッズラインでの預かり中の11月の事件も含まれており、キッズラインはこの事を把握したのは逮捕の発表があった4月24日だとしている。しかし初めてHPに橋本容疑者についての言及があるお知らせが掲載されたのが、5月3日だった。

キッズラインはフジテレビからの質問に以下のように答えている。

4月の橋本容疑者の逮捕当時、当社のリリースの基準として、当社名の実名報道としておりました。(略)しかしながら、警察より『被害者のプライバシー保護のために当社経由の案件と特定されるリリースの配信は控えてほしい』との要請を何度もいただいたためリリースを見送る判断をいたしました。」

Aさんは、キッズラインには犯罪の疑いについて、可能な限り早く会員全員に知らせてほしかったと唇を噛む。そうすれば荒井被告に対しその話をして、反応を見る事ができたかもしれない。

その後も公式リリースのみだったことについて、キッズラインはこう回答した。
「この点に関しましては、実質的に利用者の方に届けること、注意喚起を促すことを最優先に考えて、メールでの通知などの確実な手段を採ることが望ましかったと反省しております。」

「荒井被告の犯行が初めてだとは絶対に思えません。ユーザーが100人、サポート回数は199回もあってひとりだけって、ないと思います。キッズラインのレビューの項目では同じ歳くらいの女の子のお子さんを預けている人がすごく多かった。」

橋本容疑者についても、警察によると、すべて同じマッチングアプリによるものかは不明だが、ベビーシッターとして80回は仕事をしている。

「クチコミ」はお世辞の場だった

このような人間に、親はなぜ気づかなかったのかと疑問に思うむきもあるかもしれない。

キッズラインはシッターを登録する際、面接や研修をしていることを謳っている。またキッズラインの相互評価システムは、利用者(親)とシッターが感想を書き込むことでほかの利用者の判断の材料になるとしている。

Aさんもシッターを決める際、かなり参考にしたと言う。そしてこの記事を書いている私もこれまで何度もキッズラインを使っているが、シッターを探すときに必ず読み込んでいる箇所だ。

信頼できるはずのレビューが・・・(キッズラインHPより引用)

ところがAさんはこのような事件が起きてしまってから気づいた次の点を指摘する。

「住所、家族構成を知られているからちょっとした違和感だけでは(正直に)書けないです。お互いにお世辞を言うレビューになっている。」

そうであればこのシステムはうまく機能していなかったことになろう。だとすると利用者である私たちの判断基準はどこに置いたらよいのだろうか。犯罪を起こすシッターを見抜けなかったことで、その人物を選び、預けた親を責めるのはあまりに無情ではないだろうか。

『株式会社キッズライン』は、ベビーシッターが必要な人とベビーシッターを結びつける「場」を提供する会社で、2015年のサービス開始から年々成長を続けている業界大手だ。キッズラインによると2020年には累計依頼件数は100万件を超え、現在は4000人以上のシッターが登録している。

「経沢さんの理念に感動して入会したのに・・・」

創業者・経沢香保子社長の影響力は大きい(キッズラインHPより引用)

このマッチングサービスは創業者の経沢香保子社長が、日本にもベビーシッターの文化を根付かせようという思いから作ったものだ。
「女性が輝く社会の実現のため、(略)安くて便利で安全なベビーシッターサービスが必要と考えた」(『キッズライン』HP内「創業者の想い」から引用)

Aさんは言う。
「私は、創業者の経沢さんの本を読んで素晴らしい理念に感動し、応援したいという思いもあってキッズラインに入ったんです。ですから、被害者だからこそ気づけた点があると思い、ぜひ社長とお話したいとキッズラインの方に伝えたのですが、経沢社長は受けられない、との事でした。」

Aさんは、経沢氏の理念への共感が強かっただけに、表に出てこなくなった経沢氏の真意を理解できずに今は人間不信になっているという。そんなAさんに、どうしてこのインタビューを受けてくれたのですかと聞いた。Aさんはしばらく考えて、こう答えてくれた。

「同じ思いをする親子を作りたくない、気づけないまま大人になる子をなくしたい。性被害に必ずしも理解のある親だけとは限りません。被害を訴えても、気のせいじゃないかとか、そんなことあるわけないだろうと言われてしまい、より孤独になってしまう。もしくは被害が大きければ大きいほど親側が受け止められなくて、その受け止められない親の様子を見て、さらに子供が傷ついてしまいます。」

今回の被害で、子供への性的いたずらは、いたずらではなく重大な犯罪だと共通認識を持つことを訴えること、そして一人でも多く、自らSOSを出せる子を増やすことも大切だと思ったと力強く語ったAさん。その目には再び涙が光る。

Aさんは今回1時間半にわたって話をしてくれた。そこにいたのは子供たちを心から愛する、皆さんと同じひとりの母親だった。

Aさんが繰り返し言っていたことは「誰にでもおこりえる被害」だということだった。

私も働く親として、比較的安価で、すぐに来てもらえるシッターサービスがあるということに何度も救われた経験がある。

「誰にでも起こりえる被害」に背筋が寒くなる。ではどうしたら子供を守る仕組みが作れるのか、そのリスクをどうしたら最小化していくことができるのだろうか。この機に社会全体で大人の責任として知恵を出し合わなくてはならないと感じている。

私もひとりの母として、向き合っていきたいと思う。

ライブニュースデイズではこの夏、「子どもを守ろう」というテーマで皆さんといくつかの観点から考えていきたいと思っている。子どもたちの命と人権が守られる社会を作っていきたいと心から願う。

FNN「Live News days」では、子どもの性被害をめぐる問題について皆さんのご意見を募集しています。ツイッターのハッシュタグ、 #デイズ子どもを守ろう までご意見をお寄せください。