宮崎県北東部に位置する日向市(ひゅうがし)にある「日向キャスティング」は、創業以来、銅合金やアルミニウム合金による鋳造業を営んできました。
「鋳造」とは、木や樹脂の型を砂型に転写し、そこに溶けた金属を流し込んでさまざまな形状の製品をつくる技術で2000年以上前からある最古の金属製造方法です。
鋳造の良さは、複雑な形状であっても同じ物をたくさん安価でつくれること。原料の金属を機械加工で成形するより、時間もコストも抑えられます。
当社は役員4人、従業員10人。
船のポンプに使用する銅合金の船舶部品を鋳造するほか、アルミニウム合金を使った鋳造、新規事業としてキッチン用品の製造もてがけております。 このストーリーでは、キッチン用品「imono」シリーズの銅合金製鋳物鍋「てふてふ」開発経緯についてご紹介いたします。
コロナ禍で受注が激減。船舶部品製造からキッチン用品の製造へ
当社では創業以来、船舶用のポンプ部品の鋳造品を製造しております。
船舶用の部品では大量生産ではなく多品種小ロット生産がメインとなり、一般的に使われている一般産業機械よりも大きな部品となります。
創業以来60年以上も船舶用のポンプ部品を作りつづけてきました。
しかしコロナ禍で環境が一変してしまいました。
最初に異変を感じたのは2020年3月。予定されていたベトナム視察が出発直前で中止となったことでした。
これまで出発直前に視察が中止になったことはありませんでしたから、これはただごとではない、世の中がおかしくなる、受注も近いうちになくなると直感しました。
世界中で物流が止まり、船の運航がストップします。
2020年6月ごろには船舶部品の新規注文がほぼ途絶えました。
それから約1年もの間、当社は週休3日を余儀なくされ、2020年度の売上は4割も減少しました。
材料価格の高騰にも悩まされました。
コロナ禍の影響で銅とアルミの価格が急落した後、今度は価格が約2倍に跳ね上がったのです。
感染状況が落ち着いて世界中で経済活動が回復し始めていたことと、ロシアによるウクライナ侵攻が原因でした。
しかし、まだ受注は戻っておらず値上げをすることもできませんでした。
鋳物の鍋の商品化を後押しした子どもの「おいしい」
そんな状況を手をこまぬいて見ていたわけではありません。
ベトナム視察が中止になってすぐ「船舶部品以外の新しい事業を」と考え、新規事業の立ち上げに乗り出しました。
鋳造や銅について調べながら、身の回りの生活雑貨を銅合金製鋳物でつくっていたことがここで役に立ちました。
鍋なら多くの人が手に取ってくれると考え、鍋の商品化を思いつきます。
銅製の鋳物鍋で作ったカレーを家族に振る舞ったところ、子どもが「おいしい、おいしい」と言っていつも以上に喜んで食べてくれたことも後押しになりました。
自分でデザインした鍋のプロトタイプを持って日向市産業支援センター「ひむか-Biz」を訪ねました。
当社はBtoBの事業しか経験がなかったため、個人のお客さんにどう商品を訴求していくべきか、見当がつかなかったのです。
ひむか-Bizで商品パッケージのデザイナー、地元の料理研究家につないでもらい、商品化や販促用のレシピ集の作成を進めていきました。
蓄熱性と軽量化を両立。「一度沸騰したらあとは弱火で」
鍋のブラッシュアップも進めました。
銅は熱電伝導性と蓄熱性に優れていますが、鉄よりも比重の重い金属です。
日常で使ってもらうにはなるべく軽いほうがいいのですが、鍋を薄くしすぎると蓄熱性が失われてしまいます。
そのため、試作を重ねて蓄熱性と軽量化のバランスを追求しました。
油なじみをよくして焦げつきを防ぐために、鍋肌をあえてザラザラとした梨地に加工する工夫も施しました。
こうしてできあがったのが「imono」シリーズの最初の商品、銅合金製鋳物鍋「てふてふ」です。
銅と錫を9:1で混ぜた銅合金製の鋳物鍋は、錆びに強く、熱伝導性や蓄熱性に優れているのが特徴です。
そのため、てふてふの熱伝導性は鉄製鍋の4〜5倍にもなります。
一度沸騰したら、あとは弱火で調理できます。
火から外してもしばらくはボコボコと沸いているほど蓄熱性が高いのが特徴です。
弱火で調理できるから焦げつく心配がなく省エネにもなります。
弱火調理でほったらかしで料理が出来上がるので、料理に苦手意識がある人や初心者ほど使いやすい鍋だと思います。
2021年4月、一般発売を前にクラウドファンディングのMakuakeに出品することにしました。
宮崎県産業振興機構が運営するみやざきフードビジネス相談ステーションから「宮崎県主催でMakuakeを活用して宮崎物産展をするので出店してはどうか」と提案があったのがきっかけでした。
クラウドファンディングが始まると、予想を超える注文が入りました。
最終的には目標額30万円の409%、120万円超を達成。
勢いを得た、てふてふは6月に自社ECサイトや楽天市場での販売を始めます。
2022年3月にはMakuakeでimonoシリーズの第2弾、銅合金製たこ焼きプレート「takotto(タコット)」も発売したところ、目標金額20万円の2120%、売上420万円超を達成しました。
コロナ禍をきっかけとしたキャンプ需要の高まりも、鍋やたこ焼きプレートの人気を後押ししています。
『料理がすごくおいしくできた』『これまで使っていたたこ焼きプレートよりカリッと焼けて感動した』という感想をお客様から直接いただけて驚きましたし、うれしかったです。
船舶部品や機械部品は図面通りにつくって当たり前。
お叱りを受けることはあっても、褒められることはまずありませんから。
2022年と2023年には雑誌『料理王国』主催で日本を代表する食の逸品100アイテムを選定する「料理王国100選」にtefu-tefuが2年連続入賞。
2022年には上位10商品に与えられる優秀賞も受賞しました。
料理界のトップシェフや食のバイヤーから高く評価されたのはとても嬉しかったですね。
imonoシリーズの商品は、宮崎県内の百貨店、ホテル「シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート」、雑貨店で販売されています。
2023年3月にはセレクトショップBEAMSが展開する日本の魅力を世界に発信するショップ「BEAMS JAPAN」で、従来より大きな直径20cmのtefu-tefuの専売がスタートしました。
SNSとイベントで銅合金製鋳物鍋の良さを発信。努力と工夫で作るおいしい未来
imonoシリーズの販売は順調です。
船舶部品の注文も2022年9月ごろからコロナ禍前の水準に戻り、値上げもできました。目下の悩みは、船舶部品の受注が好調で、imonoシリーズの製造にまでなかなか手が回らないことです。
imonoシリーズの良さをどのように訴求するかも課題です。
銅合金製鋳物鍋の熱伝導性や蓄熱性の良さを、まだ実際に使ったことのない消費者に伝えるのは難しい、と痛感しています。
InstagramをはじめとするSNSで地道に情報発信をしながら、料理教室の開催やイベント出展を通してimonoシリーズの良さを直接伝えていこうと考えています。
鋳物業界は基本的に下請け業であり、社会情勢や景気に左右されやすい業界です。
しかし新規事業は、自分たちの努力や工夫次第で売上を上げることができるので大変ですが楽しいです。
お客様からスキレット(フライパンの一種)や卵焼き器をつくってほしいという要望もいただいていますから、少しずつお応えしていきたいです。
今後2年間で認知度向上・売上増を実現して、新規事業の売上を全体の1割にまで伸ばすのが目標です。
【銅製鋳物鍋 てふてふ20cm】
■本体 銅合金 錫メッキ
■寸法 260mm×200mm×95mm
■内面 194mm
■重量 4.5kg
■満水容量 2.5L
■商品説明 3人~4人用 ごはん4合
※ガス火、直火、オーブン専用です。 IH調理器、電子レンジではご使用になれません。
【銅製鋳物鍋 てふてふ16cm】
■本体 銅合金 錫メッキ
■寸法 213mm×158mm×80mm
■内面 150mm
■重量 2.8kg
■満水容量 1.3 L
■商品説明 1人~2人用 ごはん2合
※ガス火、直火、オーブン専用です。 IH調理器、電子レンジではご使用になれません。
【銅鋳物製たこ焼き器 takotto】
■本体 銅合金
■寸法 235mm×205mm×40mm
■穴のサイズ 48mm
■穴の数 16
■重量 2.4kg
※ガス火、直火、オーブン専用です。 IH調理器、電子レンジではご使用になれません。
【imono オンラインショップ 各種SNS】
公式オンラインショップ:https://imono-shop.online
公式Instagram :https://www.instagram.com/imono.life/
公式Facebook :https://twitter.com/imono_life
有限会社日向キャスティング
住所 宮崎県日向市東郷町山陰乙125
電話 0982-69-2165
mail hyuga-casting@fine.ocn.ne.jp
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