「前途洋々、次に期待する」二階流の岸田氏へのエール
この記事の画像(8枚)7月2日午後6時前、自民党の二階俊博・幹事長と岸田文雄・政調会長は、都内の一流ホテルの日本料理店で会食した。二階・岸田両氏が膝を突き合わせて食事をするのは約1年ぶり。会合には、二階派、岸田派の側近議員らも同席した。
約2時間半の会合では、二階氏が国対委員長、岸田氏が国対メンバーとして国会対策にあたっていた頃の思い出話に花が咲いたという。
また、二階氏は「選挙はいつあるかわからない」と、衆議院の解散・総選挙に言及したという。
そして会合の最後に、二階氏は岸田氏に対して「前途洋々、次に期待する」と述べ、安倍首相が「ポスト安倍」として期待している岸田氏を持ち上げた。
岸田氏は二階氏から力強いエールをもらった形だが、実はこの2人、秋にも予定される自民党役員人事において、幹事長ポストをめぐるライバル関係でもあるのだ。
「幹事長」を死守したい二階氏とそれを脅かす岸田氏
二階氏は、6月の記者会見で「現政権が任期いっぱい、しっかり務めることを幹事長として補佐したい」と述べるなど、安倍首相の任期中の幹事長続投に、かねてより意欲を示してきた。
今年9月8日まで幹事長をつとめれば、幹事長としての通算在職日数が、これまでの最長記録である田中角栄氏の1497日を抜く。「政局のキーパーソン」と呼ばれる二階氏としては、幹事長の座を死守したいのは、当然のことだろう。
一方、二階、岸田両氏には、去年9月の自民党役員人事の因縁がある。安倍首相が二階氏に代えて岸田氏を幹事長に充てる人事案を検討したが、二階氏側の強い反対などもあり断念したのだ。このため、次の人事ではいよいよ岸田氏が幹事長に就任するのではとの見方もある。「ポスト安倍」を狙う岸田氏としても、ここで幹事長ポストを経験しておきたいところだ。
そもそも、「幹事長」ポストとは何なのか。自民党のトップは総裁である安倍晋三氏だが、首相として政府に入っているため、実質的な党内運営は党ナンバー2である「幹事長」の二階氏が担っている。その権限は、選挙で誰を公認するかという公認権をはじめ、選挙活動の指揮、国会の運営、さらには党の財政や人事にまで及ぶ。このように自民党のヒト・モノ・カネを掌握し、絶大な権限を持つ「大黒柱」が幹事長なのだ。
東京都の小池知事がコロナ対策や都知事選を巡り定期的に幹事長に面会に来る他、最近では新たに日本医師会のトップに就任した中川会長が真っ先に挨拶に来た。幹事長は対外的にも大きな影響力を誇る。
秋の政局にらみ・・・活発化する二階氏の動き
永田町では、秋に内閣や党役員の人事が予想される。また、安倍首相が年内にも、衆議院の解散総選挙に踏み切るのではないかという憶測も飛び交っている。
こうした動きを念頭に置いてか、通常国会の閉会の前後から二階氏の動きが活発化した。
6月16日、麻生副総理など麻生派幹部らと会談したのを皮切りに、菅官房長官、公明党幹部、さらには安倍首相など政権幹部と呼ばれる人々と相次いで会談した。党内外の動向を探る狙いが透けて見える。
さらに二階氏は、「反安倍」の石破元幹事長と会談し、石破派のパーティーでの講演を受諾し、両者の“接近”が党内で波紋を広げた。石破氏が岸田氏と「ポスト安倍」のライバル関係にあることから、幹事長続投を狙う二階氏が、岸田氏を後継の最有力と考える安倍首相に対して、「揺さぶり」をかけたとの見方も出ている。
こうした一連の“二階劇場”ともいえる流れの中で迎えたのが、今回の岸田氏との会食だ。
政府与党内では、「二階幹事長は本当に岸田氏を信頼していないようだ」との声が聞こえるなど、両者の関係を良好だとする見方は少ない。
岸田氏側から今回の会食の提案を受けた二階氏側では、派閥幹部が「酒の席で真剣な話はしない」としながらも、二階・岸田両氏の「腹の探り合い」になるだろうと指摘した。
岸田氏側は二階氏との会食を関係改善の糸口として歓迎
一方、岸田氏側はどうかというと、概ね“歓迎”の声が聞かれた。
「いいことだ。とにかく岸田さん自身が動くことはいいことだよ」(派閥幹部)
「幹事長とやるの!?いいね。ようやくうちも動いてきたね」(派閥若手)
これまで岸田氏が会食してきた相手は、安倍首相や麻生副総理など、いわゆる“岸田推し”と言われる人たちが多かった。岸田氏が今回、距離を置いてきた二階氏との会食を決断したことに、岸田派内では、「大きな一歩だ」、「ポスト安倍としていよいよ岸田氏が動き出した合図だ」との声が出た。
実は、二階氏と岸田氏の間に指摘される“溝”を作った原因は、前述した幹事長ポストを巡る関係だけではない。
衆院静岡5区から選出され民主党政権で環境大臣などを歴任した細野豪志・衆院議員が、去年、無所属のまま二階派に入り、同じ選挙区で細野氏と戦ってきた議員を抱える岸田派が反発した。
最近では、新型コロナウイルスの経済対策における現金給付をめぐり、岸田氏が進めた給付対象を制限した上での現金30万円の給付が、二階氏の発言をきっかけに一律現金10万円の給付へと変更された。
こうしたことが積み重なり、いつしか2人の間には“溝がある”という認識が党内に広がっていったと言える。
さて、こうした背景を踏まえた上で、岸田氏周辺は、今回の会食の意図を次の様に解説する。
「岸田さんにとって二階幹事長は敵でも何でもなく、むしろ尊敬する政治家の1人だろう。だからこそ、直接会うことでそうした距離感を払しょくしたいのだろう」
要は、岸田氏にとって、二階氏との“溝”が生じたままで、秋の党役員人事、さらにはその先の総裁選などの政局に突入することはリスクがある。それを改善する糸口として今回の会食があったということだ。
「ポスト安倍」政局の号砲が鳴った!?
会食を終えた岸田氏は「楽しいひとときを有難うございました」と上機嫌で報道陣の問いかけに応じた。また同席した岸田派の幹部からも「最初の方は緊張感が漂っていたけど、後半になるにつれて盛り上がった」「(二階氏から)政治の真髄を学んだ」などと会食が上手くいったとの手応えが滲んだ。
しかしその一方で、会食中に二階氏が、「こうして日頃から酒を飲んでいないとな…」と、岸田氏がこれまで二階氏に距離を置いていたことを皮肉る場面もあったという。
ただ、二階氏から岸田氏への「前途洋々」とのエールも、文字通り受けとるのは禁物だろう。二階氏は、前述した石破元幹事長との会談でも、石破氏を「期待の星だ」とやはり持ち上げている。
二階氏としては、岸田・石破というポスト安倍の有力候補2人から一目置かれ、頼られる存在で在り続ければ、どちらが安倍首相の後継者となっても、自分の求心力や存在感を維持し続けられる。
まさにこの日は、ポスト安倍を巡る自民党政局の幕開けとなったのかもしれない。自民党担当の記者としては政局から目が離せない日々が当分続きそうだ。
(フジテレビ 自民党担当・福井慶仁、山田勇)